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紙の本
「雌雄分離」の意味を問う
2006/09/27 17:54
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
30代独身の久美は叔母からマンションと「家宝」を相続します。久美の両親が大学時代に亡くなった時、ぬか床の世話はかわいそうだからと、久美の母から叔母が引き取りました。家宝のぬか床は結局、久美のところにやってきます。
駆け落ちした曽祖父母が先祖代々暮らす「島」から持ち出したというぬか床は、毎朝毎晩の手入れはもちろん絶対欠かせません。そのほかに奇妙な音を立てたり、勝手に卵を産んだりします。
そこから生まれてくるのは「人」。自分の周りにいた幼い頃から知っている人々の正体が明らかになり、久美は、酵母研究をしている同じ会社の研究所勤めの風野とともに「島」へぬか床を返しに行きます。
家宝のぬか床に隠された久美のルーツの不可思議さは、小説としての「ファンタジー」とひとくくりにできません。生命の進化の過程で、生殖に「雌雄」が分かれる不可解さを問いかけます。
その伏線として、結婚していない久美と叔母、幼馴染の男友だちとの関係、さらにその男友達との恋愛を伴わない精神的な三角関係、ニューハーフでもゲイでもない中性を選んだ風野が登場します。現代社会の性の役割のあやふやさと頑固さを描くことにより、「島」の世界観をより鮮明にさせます。
また一方で、島の「ものたち」の擬人化(?)の挿話がユニーク。再び読み返すと、一読目にはわからなかったシステムや象徴がキラキラと輝く。
久美がぬか床を沼に返すシーンは笑っちゃいました。変に盛り上げようとせず、現実ってこんなもんだよなと肩の力が抜けます。ラストの生命讃歌の詩が、すべてを受けとめるあたたかさ。
紙の本
ぬか床のぬくもり
2006/04/04 12:59
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ジェニファー - この投稿者のレビュー一覧を見る
叔母の死をきっかけに「家宝」のぬか床を託された独身の女性が、そのぬか床をかき回しているうちに、あるはずのない「たまご」をその中に発見するところから始まり、「菌」と「生命」をめぐる不可思議な世界が展開されていく。前代未聞の「ぬか床小説」である。
一昔前の日本なら一家に一つはぬか床があったのかもしれないが、とにかく手入れが面倒くさいし、スーパーに行けば日本全国の漬物が手に入るので、最近では持っている人も少ないんじゃないだろうか。かく言う私の家には、祖母が丹精してきたぬか床が存在する。もちろん「家宝」でも「先祖伝来」でもない、ごく普通のぬか床である。祖母は腰を悪くして、半分寝たきりの状態なのだが、痛みをこらえながら起き上がり、台所の隅でぬか床をかき回している背中には鬼気迫るものがあった。あれだけの念が込められたら、確かにぬか床からおかしな者が現れても不思議はない。
さすがに最近ではそれもままならなくなってきて、母にバトンタッチされたはずなのだが、私と母は「マメ」には程遠い性格のため、ついついぬか床の存在を忘れがちで、最近では心なしかぬか床から異臭が漂っているような気がする…気のせいであることを祈るが。
個人的に漬物はあまり好きではないので、私がぬか床の面倒を見るくらいなら、このままゆるゆるとフェイドアウトさせてもいいかな〜などと考えていたのだが、この小説を読んで考えを変えた。ぬか床はおろそかにしてはいけないのだな。
しかし、ぬか床しかり、カスピ海ヨーグルトしかり、意外に「菌を育てる」という行為が、私たちの普段の食生活と密接に結びついていることに改めて気づかされる。抗菌グッズが流行している今、「菌」というのは嫌われ者になりつつあるが、それでも生命の一形態であることは間違いない。ただ排除するのではなく、その役割をもう一度見直すべき時期にきているのではないだろうか。
…まあ冷蔵庫の野菜室の奥深くでひっそりと増殖している菌は、ゴールデン・ウィークまでには何とかしようと思っているが。
紙の本
命 血脈 継承
2017/10/19 15:37
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:るう - この投稿者のレビュー一覧を見る
小道具だけど思っていたぬか床があんな重いものだとは。以前なら 当然のように女から女へと継承されていっただろうぬか床は変わってしまった時代と共に あんな形で終わるしかなかったのは ちょっと切ない。大切な人を亡くした身としては フリオのエピソードは胸を抉られた。
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