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絵はがきにされた少年 みんなのレビュー
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紙の本
アフリカを知ることの難しさとそのもどかしさを伝えるルポルタージュ風エッセイ。
2006/03/21 09:48
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は毎日新聞の記者。6年間の特派員時代に出会ったアフリカの人々を描く本書を読んで私が感じたのは、著者の中に渦巻く3種類の感情です。
多くの日本人がアフリカに対して持つ貧困や差別にまみれた未開の大陸というステレオタイプ的な理解に対する「苛立ち」。
その一方でそうした理解が実は自分が属するメディアによって長年に渡って積み上げられてきたものであることから来る「居心地の悪さ」。
そしてそうした理解をメディアとしてどうクリアしていくことができるのかという「激しい焦り」。
この3種の感情です。
例えば、報道カメラマンのケビン・カーターが94年にピューリッツァー賞を獲得した「ハゲワシと少女」の写真。衰弱し道路にうずくまる痩身の黒人少女と、その死を待ち受けるかのように画面奥で見守るハゲワシ。少女を助ける前にシャッターを切ったカーターに道義上の問題はなかったのか、という国際的な議論に発展した写真です。
著者は、カーターと当時行動を共にしていたカメラマンにインタビューを行い、ことの真相をつきとめます。証言によれば、少女の母親はすぐ脇にいて、援助食料を受け取るために両手がふさがり、そのためにほんのいっとき道端に娘を置いただけだというのです。娘を抱きかかえて帰った母親を切り取ることによって写真は、「極貧で青息吐息のアフリカ」像を世界に配信することに成功していたのです。
このほかにも著者はメディアが大量生産するある種のアフリカ的風景に抗するように、自らの足で灼熱の大陸を歩いて記事を書いていきます。時には自らの子供とともにバスを降り、バスにも乗れない現地の人々の目線で町を見ることを試したりもするのです。息子は父親のその意図を理解するにはまだ幼いのか、それともその意図に何か釈然としないものを感じ取っているのか、不満げな様子が綴られています。「どうして僕たち歩いているの」と題されたこの一編は大変優れたエッセイとして私は読みました。
しかし著者は自らの取材活動を続けながら、メディアがアフリカを伝えることの限界を感じ取ってしまっているようです。それは著者が、先進国の首脳会議の会場で「貧富の格差是正」を叫ぶデモの若者たちに対して次のような言葉を綴ってしまう点に現れています。
「一年でいいからアフリカに行って自分の暮らしを打ち立ててみたらいいと思う」。
しかし私はこの言葉に共感を覚えません。アフリカに足を運んだ者だけが南北問題を論じる資格があるというのであれば、ジャーナリズムの存在意義をジャーナリスト自身が否定することになります。著者は、こうした若者を「経験もないくせに」と叱りつけるのではなく、そんな彼らに知識と疑似体験を与えるための報道を目指すことにこそ精力を傾けるべきなのではないでしょうか。それがジャーナリストの使命だと思います。
と、私が書くのもまた簡単なことなのでしょう。「アフリカを知らない」私のような読者に対して、著者がアフリカの真の姿を伝えたいという思いは痛いほど十分に伝わる書です。
そしてまた、そのもどかしげな思いを、アフリカに暮らした著者すら、十分に果たすことができない大陸。それがアフリカの姿なのかもしれません。
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