紙の本
二階堂奥歯は物語になったか
2006/05/30 00:53
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中乃造 - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語とはなんだろうと考える。
著者である二階堂奥歯は、かつて自身を、物語は書けないがまもるものでありたいと言った。そして自ら命を絶った後、残された日記はこうして一冊の書物になっている。
『八本脚の蝶』は果たして物語と言えるのだろうか。
私の答えは否だ。
物語と言うにはあまりにも破綻している。終盤、つまり著者があきらかに死に向かっていくようになって以降。あまりにも支離滅裂で、もし物語であると定義したとしても読むに絶えないそれである。
人生はそれ自体物語だ、というお決まりの概念は、甘い幻想だと知らされる。二階堂奥歯は物語になりきれず死んだ。そうと知っていたから、物語を愛したのだろうか? 物でありたいと、特に誰かの所有物のようにありたいと願い続けた彼女は、人間の生が辿り着くことのない美しい世界に憧れていたのかもしれない。
あるいは、彼女自身が読まれることを拒んだ結果がここにあるのかもしれない。しかし読者のいない物語が物語でいられないこともまた、真実のように思えるのだ。
二階堂奥歯は非常識なまでの読書家である。日記を読み進めるだけでもそうと知れるが、知人のコラムによれば「生まれてから過ごした日数をはるかに越える冊数を読んでいた」ということだ。この本の中には多くの書物に対する感想や、それらからの引用がある。こういう言い方は不謹慎かもしれないが、ありがたくも、読者はそれに触れて数多の物語への扉を開くことが出来る。
上記したような著者への感慨は、人によって是非があろうが、『八本脚の蝶』が見事な読書案内であることは疑いないだろう。
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この図書館は広大で、アタシはたどり着くことができず、図書カードすら作れなかった。
手元には蔵書目録が残されて、今はボンヤリそれを眺めるだけ。
たぶん、ここに並んだ本はアナタでもアタシでもない、誰かに読まれるのを待っている。
P.S 同時に、この物語は雪雪さんの物語でもあるのです。フィールドワーカだから、余計にその存在を感じるのです。
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高原英理の『ゴシック・ハート』の最後にふれられていた女性のWEB日記。国書刊行会の編集者。幻想文学の読書案内としても、一人の聡明すぎた女性の魂の苦しみの告白としても。
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奥歯さんという物語、あるいは奥歯さんという先のない図書館。奥歯さんはこの世にもういない。
けれど、今も物語りの中に確かにいる。
圧倒的な感性と震えるような言葉をつむぎ続けている。
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「私は、一方的に見られているだけのものではないということ、そして私はあなたを見、あなたもまた私によって裁かれるということを。あなたにはその覚悟があるのですか。あなたはそれほど美しいのですか。」
夭逝した若手女性編集者のウェブ日記。
決して楽しくは無いのだけれど。
それでも目が離せない流れ。
途中で苦しくって、苦しくなって、救いは果たしてあるのか?
ないようで、あるのかもしれない。
興味深い本がいっぱい。
私は一体一生で何冊本が読めるのかな。
【7/4読了・初読・市立図書館】
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2009年9月19日読了
私と同じ歳なのに私の何倍もの読書量に驚く。
まして彼女は先に死んでしまっているのに。
本になったおかげで彼女のことを知れたんだけど、
本になってしまった彼女は誰かに読まれるたびに苦しみ、命を絶ち続けることになってしまった。
もともとメンタルヘルスに変調をきたしやすい人だったようだけど、転職後の壊れ方、スピードは尋常ではない印象がある。
○日新聞出版局のその辺の管理体制はどうだったのだろうか、はてさて・・・?
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衝撃だった。
途中、彼女の世界、たとえば、人形とか昆虫とか怪獣とか、マゾヒズム、エログロなど、正直言って私には理解しがたく、一歩ひいて日記を読んでいた。
でも、読み進むにつれ…彼女は、あまりにも繊細で誠実で、この現実世界では呼吸をするのさえままならなかったのではないか。苦しくて苦しくて、本の世界の中にいるときだけ、自分らしくいることができた。そんな気がした。
読み終えて一晩経っても、その余韻に自分が戸惑っている。
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Webで公開された読書日記。
もし、彼女がこんなにも繊細でなければ、あのような決断をせずにすんだだろうか。
日記の後半部分は痛ましいが、共感するところがとてもある。
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インターネットで見つけた本です。その存在は、高野悦子さん(私の高校の先輩)を彷彿させる。1969年、2003年。いつの時代にもこういった人は現れる。そしてその言葉は悲しい程に風化しない。「今日性のあるテーマ」とは常に「生きるとは何か」を問うものだ。
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気になることがあり本書を読みました。
気になることはより大きな気になることとして心に根付き大きく育ちつつあります。
彼女の著作がある種の方々にとって聖書のようなものだというのが少し分かる気がします。何故なら彼女は彼女の中の絶対神だからです。
絶対神は揺るぎません。
彼女は彼女に対し常に決断者であり、要求者です。
でも奥歯は虫歯になり易い箇所だということを僕等は知っているのです。
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奥歯さん。お会いしてみたかった。
貴女に話したい事も、聞きたい事もたくさんあるのです。
貴女が居なくなった今、こころからの笑顔があることを想っています。
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同じ時間に生きていたら、どこかですれ違っていたかもしれない奇跡もあった。そう思います。
7年以上も前に亡くなった人のことを思い、死なないでほしいと思って泣きました。リアルタイムではもう存在していないのに、日記を読んでいるからか、妙に近くに感じて、寂しくなってしまいました。あまりに彼女の内面を読み過ぎたせいでしょうか。親しい人を急に失った、そんなからっぽな気持ちになりました。
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自分の好きな作家についての評文が載っているらしい、という事を知り手に取った。
読み終えて既読、未読の本も含め、この方と自分は割と読書傾向が似ているらしい事が分かり、紹介された本の数々に改めて思いをはせると共に、その夭折を残念に思った。
自分自身の感性をどうしても変えることができなかった故の結果だろうが……身の回りの好きなもの達を次々語る楽しげな口調が次第に変質していく日記文はとても痛ましく、結末が悲しい。
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わたしは、わたしを殺したりはしない。きっと。
でも、奥歯さんの言葉が読みたくてたまらなくなる日があるのは、なんでなんだろう。
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とても深い思索の糸に絡めとられてしまいそうに、なりました。
生きていることの方が、死ぬよりも苦しいっていうことも、あるのかもしれないですね。死んでからのことは感じられないから、比較の仕様がありませんけれど。
読んでいる最中、何度も何度も本も目も閉じて自分の思索の糸を辿ってしまいます。残酷なまでに増殖し続ける書物の世界に、たゆたいたい、そう感じさせられました。