紙の本
人物の一人ひとりが丁寧に書き分けられていくので長さを感じさせない
2006/05/20 16:04
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
トルストイの、ナポレオン戦争を描いた不朽の大作の新訳の第二巻。
全6巻の内この第二巻には第一部の最後三篇と二部の一、二篇を収録。第一部三篇では、周囲の流れに押されて結婚を決めるピエール、皇帝に熱狂するニコライ、アウステルリッツの戦いで負傷し、捕虜となるアンドレイなど、登場人物の変遷がいくつか描かれる。ロシア軍側からみた戦闘の情景は臨場感があり、映画をみるようである。第二部に入ると、休暇で帰郷した兵士たちの日常、その中で変わっていく心境などが綴られる。フランスとの講和で「昨日の敵」と手を携えている皇帝や軍の人々などもニコライの眼を通して描かれていく。
第二部に入り、「何のために生きるんだ、そして、おれは一体何物だ?」と悩むピエールの言葉や、帰郷した日に妻を亡くし、自らも戦場で死を覗き込んだことで「何が正しくて、なにが正しくないかーそれは人間には判断できない」「僕を信じさせるのはそんなものじゃなくて、生と死だ。」というアンドレイの言葉。トルストイの問い続けたことがこの物語でもこのあたりで言葉の形をとって現われてきた、というところだろうか。
数人の登場人物の心の変化を丁寧に書き分け、書き込んであるところはまさに不朽の名作。それぞれに感情を移入し、「なぜそう思ってしまうのか」「どうなのだろうか」と共に心を揺らしてしまう。一人ひとりを丁寧に描いていくので、この物語はとても長いものになったのだろう。しかし、場面場面では少しも長さは感じさせない。
新訳版の工夫については第一巻の書評にも書いたが、登場人物の名前を簡単な表記に統一したことで、10人余りの主要な登場人物の混乱は少なくなったことを感じた。原文での書き分けに込められたニュアンスはなくなるかもしれないが、ストーリーを追いやすくなったことは確かだと思う。また、この巻には人生に悩むピエールがフリーメーソンに入会するところの「コラム:フリーメーソン」やアンドレイの家に出入しマリアが世話をしているという流浪の宗教者「神の人」についてのコラムがあるが、これらは状況の理解を助ける、新しい工夫が活かされた部分だといえるだろう。 「ロシアの学校」や「ロシア人の食事」のコラムは、本文との繋がりがあまりみえなかったのが残念。「ロシア人の食事」の方は、訳者自身が垣間見えてくる面白さはあったのだが。
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戦争で負傷したアンドレの手紙による家族の動揺が描かれ、
個々で恋愛感情が動いていく
壮大なスケールの中の人物描写が言うまでもなくすばらしい
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(2016.03.24読了)(2016.03.13借入)(2009.01.15・第4刷)
第一巻を読み終わってからちょっと間をあけて、第二巻を読み始めたので、「第一巻のあらすじと第二巻の展望」は、助かります。
第一部第三篇では、
ピエール君やマリアさんの結婚相手探しの話のあと、戦場に移って、アンドレイ、ニコライ、ボリスたちの戦場での様子が描かれています。
第二部では、
アンドレイは、戦場で瀕死の重傷を負いますが、ナポレオンに助けられて、捕虜となります。釈放されて家に戻ったら、丁度、妻のリーザが出産中で、子供は生まれましたが、リーザは亡くなってしまいます。アンドレイは、再び戦場に出る事なく暮らしたいと思い、父親の義勇軍募集の仕事を手伝っています。
ピエールは、多くの遺産を相続し、多くの人たちにちやほやされた上にエレンと結婚します。そのうちエレンの浮気を疑い、浮気相手と疑った男と決闘に及び、相手を傷つけてしまいます。立会人はニコライです。
エレンとは別れ、自分の相続した領地に戻る途中で、フリーメーソンに誘われ、社会貢献に目覚め、入会します。フリーメーソンに妥当な寄付を行い、自分の領地の農民たちの生活向上を管理人たちに命じますが、簡単には善意は伝わりそうもありません。
適当に中間搾取にはげんでいる管理人たちがピエールのやりたいようには動くはずもありません。世間知らずのピエールの善意は空回りしそうです。
軽騎兵連隊に所属するニコライは、戦場から友人を連れて自宅に戻ります。ドーロホフに誘われトランプの賭博に参加しますが、4万3千ルーブルもの大金を取られる羽目になってしまいます。自分では払えないので、父親に支払ってもらいます。貴族とはいえ、あまり裕福ではなさそうなのですが。失意の状態で、部隊に戻ります。
ニコライは、戦場にいたとき、病院に行ったことがあり、病院での兵士たちの惨状を見て戦争に対する疑念が生れていた。
この巻の終わりで、ナポレオンとの戦いは、和平を結び、停戦となった。
年表によると1807年6月のことです。
まだ先は長いですね。ドーロホフとデニーソフがごっちゃになって、一時訳が分からなくなりましたが、全体としては、読みやすく、興味深い物語です。
【目次】
全巻目次
『戦争と平和』系図
主要人物紹介
第一巻のあらすじと第二巻の展望
第一部
第三篇
第二部
第一篇
第二篇
『戦争と平和』年表
●決断(38頁)
ピエールは自分がついに、ある一つのひとつのことばを口にし、ある一線を踏み越えることだけを、みんなが待ち受けているのを知っていた。また、彼は自分が遅かれ早かれその線を越えるだろうということを知っていた。
●マリア(63頁)
よくないのは服ではなくて、マリアの顔と姿全体だったのだが、ブリエンヌと小さな侯爵夫人はそうとは感じなかった。
●生きる支え(247頁)
どこにこの生を生きる支えを求め、生のあとに、かなたの、墓の向こうに何を覚悟すればいいのかがわかったら! どんなにおれは幸福で、安心だろう、今、主よ、我を憐れみたまえ、と言うことができたら!
●人生の疑���(391頁)
ルイ16世が処刑されたのは、彼が罪人とみなされたからだが、一年後には、彼を処刑した者たちが殺されてしまった。やはり何か理由があったのだ。何が悪いんだ? 何がいいんだ? 何を愛さなければならないのだ? 何を憎むべきなのだ? なんのために生きるんだ、そして、おれはいったい何者だ? 生とはいったいなんだ、死とはなんだ? すべてを支配しているのはいったいどういう力なんだ?
●幸福と不幸(479頁)
「僕が人生で知っている真の不幸はただ―悔恨と病気だけだ。幸福とは、こうした不幸がない、ということでしかない。この二つの悪だけを避けながら、自分のために生きること、僕の知恵は今ことごとくこれに尽きる。」(アンドレイ)
●名誉のため(480頁)
僕は名誉のために生きてきた。名誉っていったいなんだい? やっぱり他人への愛じゃないか、他人に何かをしたいという気持ち、他人にほめられたいという気持ちじゃないか。つまり、ぼくは他人のために生きてきて、あやうくどころか、完全に自分の人生を台無しにしてしまった。そして、自分だけのために生きるようになってから、落ち着いたんだ。(アンドレイ)
●医学(484頁)
医学がだれかをこれまでに治したことがあるなんて、あきれた妄想だ……殺すことなら―たしかだがね!
☆関連図書(既読)
「光りあるうちに光の中を歩め」トルストイ著・米川正夫訳、岩波文庫、1928.10.10
「イヴァンの馬鹿」トルストイ著・米川正夫訳、角川文庫、1955.08.05
「トルストイ『戦争と平和』」川端香男里著、NHK出版、2013.06.01
「戦争と平和(一)」トルストイ著・藤沼貴訳、岩波文庫、2006.01.17
(2016年3月27日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
アウステルリッツ戦で負傷し行方不明だったアンドレイが帰還した夜、妻リーザは男子を出産し死亡する。ピエールは愛のない結婚をして妻の不貞で決闘へ。ロストフ家の恋する若者たちは…様々な人生の一方でナポレオンはロシアを屈辱の講和へ導く。
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戦争の記述は少々読みにくかったものの、そのほかの人間模様は興味深い。
理想主義者のアンドレイが失望して行く様、もともと平和主義で人当りのいいニコライが戦闘の高揚感を楽しんでしまう様。そうなんだね、多分。戦争は嫌いだ、反対だと言っていても、いざその中に置かれると人間は意外とその状況を楽しんでしまうのかもしれない。
相反して状況を傍観しながら決して自分はその中に染まらず、只管己のみのボルツには反感を覚える。でも実際には多い、こういう人。
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人間のちょっとした無意識的動作や表情に対するトルストイ先生の描写は繊細かつ新鮮。人間の本質は100年単位ではそうそう変わらないんだな、と思うこと多々。
偉大な群像劇を通勤途中のチョイ読みで読み続けていくのは勿体無いので残りは夏休み中に纏めて読もうかな。
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この2巻では、主要なキャラクター3名、ピエール、アレドレイ、ニコライにそれぞれ試練が訪れる。
特に本書の後半で行われるアンドレイとピエールとの「人生の意味」ついての議論は本巻のクライマックスだ。
アンドレイは、アウステリッツでのナポレオン軍との戦闘で重傷を負って帰郷、さらに追い打ちをかけるように出産時に最愛の妻リーザを亡くし、軍での出世も人生への希望も失ってしまう。一方、妻エレナとの関係の悪化により、人生に絶望していたピエールは、秘密結社フリーメーソン(!)に入会したことにより再び人生の希望を見いだしていた。
この二人の議論は突き詰めれば「人生とは、善か悪か」ということであり、著者レフ・トルストイが人間の生きる意味をピエールとアンドレイとのやりとりを通して、深く読者に問いかけてくる。
この『戦争と平和』が上梓されたのが1869年(日本で言えば、明治維新の翌年)、今からちょうど150年前だが、「人生とはなにか?」と人生に悩む人々の苦悩は150年前でも今でも全く変わりないのだ。
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第二部第二篇まで。
巨額の遺産を相続したピエールの結婚と破綻と決闘。フリーメイソン加入。
アンドレイのアウステルリッツ参戦と負傷。
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アウステルリッツの戦いで、戦争の描写に移る。
血気盛んで、祖国のために戦うという盲信さは当時の人々がそうあったのかと想像させられた。
ベズーホフ伯爵となったピエールを取り巻く、財産目当ての謀略と裏切り、そして地位と財産という当人と分離して見える価値観に翻弄される様に、滑稽さと哀れな感覚を覚えた。
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ニコライやアンドレイが一旦家に帰って、彼らの家の話が展開されたりするのでまだ話についていけた。最後に、ロシアとフランスが講和していて、アレクサンドルとナポレオンが勲章を交換しあっているの、世界史を知らないからか急展開で、何があった?って驚き。ニコライを一途に愛しているソーニャが良い。
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1巻と同じく相変わらず戦史ものとして読むとしたら物足りない。前半はアウステルリッツ戦なのだが、全く戦いの進展も両軍の作戦も分からないうちにどちらが勝ったかもよく分からず終わってしまう。
しかしながら、1巻よりロシア文学(トルストイ?)特有のどろどろとした人間の内面を描くという部分は面白くなってきている。人間の多面性を描くという点では、俊逸だと思う。所詮人間一人が知りえることは自分の周りのことだけであり、周りのことを意図的に作られてしまうと真実は分からないという当たり前のことが上手く描かれている。ロシア人のしたたかさ、当時の皇帝に対するロシア人の憧憬が良く分かる。
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少しずつ話が動いてきて、歴史上の出来事も、話の中に絡んでくる。ピエールよりも、アンドレイの方が波乱万丈な人生のような気がする。