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紙の本
歯がゆさの理由(わけ)
2009/06/01 18:52
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:半久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「基本原理から考える」とのことなので、一般論的、抽象的な話が各講のベースになっている。しかし、原理論のみに終始しているわけではなくて、「憲法改正問題」など具体性のあるアクチュアルな問題にもかなり接合させて考えようとしている。
読んでいて、歯がゆく感じるところがかなりあった。それは、結論部やその他での著者の主張(イイタイコト)が「あいまい」になっていたり、反対するのがむずかしい、無難そうな一般論に逃げこんでしまっているところだ。以下に例をあげる。(引用符は「・」マークを使う)
・ ○○との結論を導くことは不可能ではない。
・ ○○は、なお検討の余地があるように思われる。
・ ○○の意味を、今日の日本で考えてみる意義は大きいように思われる。
・ ひとつの合理的解釈として許容される余地があるように思われる。
・ 裁判員制度をめぐっては、批判・懸念もあるだけに、それが「少数者の権利の擁護」につながるのかどうか、注視する必要がある。
・ 「人権擁護」にあたるべき公務員の高い人権意識が、まずもって求められねばならない。
・ 「秩序」に強く傾斜した「公正」ではなく、実質的な自由を確保し本来の意味での「主権者の意志の忠実な表明」を可能にする「公正」のあり方が追求されねばならない。
あらためて読みかえしてみて、文体的には「思われる」といった受け身表現を多用すること。さらにはそれに、しばしば「余地があるように」をくっつけて使うことに歯がゆさの一因があるように「思われる」。
「べき論」を述べているところも、なにをすべきでなにが必要なのかというと、「確認・注視・検討」などが目立つので、「それはそれは、御説ごもっともですね」というおざなりの感想になってしまい議論が心に残らないのである。
基本的には、学者が慎重な姿勢をとるのは悪いことではないと思っている。威勢がいいだけの高言よりはいいと思う。しかし、本書は教科書然としたものではなく、「自由に考えてみた」と宣言している。であるなら、データ分析から事実的判断を引きだす際に仮定形を使うならともかく、価値判断や行為規範的な判断をするばあいには、もっと明確な自己主張をしてもよかったんじゃないかと思うのだ。
問題意識は鋭いものがある。だが、きびしいようだが、結果として権力の「民主化」というテーマにしても着地点が見えずに終わってしまっていると思う。
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