投稿元:
レビューを見る
表題作は遊蕩を重ね、親戚中から厄介者扱いされたあげく、殺された兄と、その仇をうとうとする弟・又蔵の物語。仇の一人と差し違えるラストは鮮烈な印象を残す。
藤沢周平の初期短編5編を集めた1冊で、「帰郷」以外はみなアンハッピーエンド。そのぶんストーリーに幸・不幸のうねりがある。5編中4編が町人にもので、いずれも八方ふさがりの人生が描かれている。
投稿元:
レビューを見る
藤沢周平氏の初期の長編作品。文庫カバー挿画は蓬田やすひろ氏。描かれているのは実兄の仇を討つべく旅先へ向かう又蔵の様子だろうか。
放蕩の人であり、実家を追い出され、ついに刺殺された兄の仇討ちを心に決め、剣術修行を経て仇敵を目指す又蔵の揺るがない決意が見て取れるよう。藤沢作品にはそれぞれ江戸を生きる人々の持って生まれた「業」のようなものが細緻に描かれていて、またその眼差しがやさしく、人そのものを知る優れたテキストのように感じることがある。放蕩を続けた兄の本当の心を、ひとり感じ入り、寡黙な弟が仇討ちを自らの「業」とするまでの変遷が奥深く胸を打つお話です。
投稿元:
レビューを見る
藤沢周平作品の特にコレ、、、暗い(汗)
この短編集に載ってるのは、全部が賭場に出入りするようになって全うな道を踏み外した男たちの物語。
全ての作品が尽く、主人公は不幸な「死」で終わるものばかり。
・・・それでも物語の中で、どっから見ても「悪人」な、決して褒められた所業をしてきていない人間なのに、その中でほんの一瞬、微かな情、優しさの欠片を見せて散っていく・・・
そんな話しがすごく悲しかった。
誰に認められるでもなく、極道の道に足を踏み入れながらも人間として「何か」を貫こうとする、その瞬間(とき)。
その人の想いは、その人にしか分からない。
全て白い(正しい)人間がいないように、全て黒い(悪い)人間もいないのだとあらためて思った。
良い、短編集でした。
投稿元:
レビューを見る
5篇からなる短編集。ほとんどが暗い結末。
「又蔵の火」
兄の仇を討つため、又蔵は故郷へと帰ってきた。兄は放蕩の限りをつくした末に座敷牢に閉じ込められ、それを又蔵が逃がし共に脱藩した。二年後に兄は故郷に戻り、捕えられ手向かいをしたために殺された。又蔵は剣の腕を磨き、兄に非がなかったわけではないことを承知しながらも、盗人にも三分の理があるのだと挑む。仇とされた武士が気の毒だった。
「帰郷」
弔いの宇之という異名を持つ、渡世人の宇之吉は年老いて死病にとりつかれると故郷が見たくなった。昔世話になっていた高麗屋は傾き、かつて喧嘩をした相手が新たな勢力としてのさばっていた。江戸に出る前に愛していた女が子を産んでいたことを知り、その子の苦境を救うために宇之吉が動き出す。父子の再会のシーンは正直納得がいかない。恨んでいた父に殴られて和解って…。年老いても弔いの宇之という異名に恥じぬ振る舞いと、みじめな老人の描写の書き分けの緩急は凄かった。
「賽子無宿」
壷振りを得意としていた喜之助は、かつていかさまをしたとして右手の薬指を切り落とされ、江戸を追われた。頼った兄貴分の裏切りを知り、行き倒れたところを助けてくれた女のために金を稼ぐことを決める。
「割れた月」
島送りになっていた鶴吉を迎える者はいなかった。だが昔住んでいた長屋へ行くと隣家の娘お菊と再会し、厄介になることに。鶴吉は日雇いの仕事をしながら堅気の生活に馴染んでいくが、蕎麦売りをしていたお菊の父親が卒中で倒れたことで陰りが見え始める。生活を安定させるために始めた青物売りもうまく行かず、縁を切られた母を頼るがすげなく追い払われる。そして止めるお菊を振り払い、堅気の世界に背を向ける。お菊という救いを得たはずなのに、悲惨な末路だった…。
「恐喝」
竹二郎は難癖をつけ金を巻き上げた店の娘に助けられる。その後竹二郎は兄貴分の手伝いで、博奕に嵌った店の若旦那に金か女で払えと迫る。すると待ち合わせの場所に現れたのは竹二郎を助けてくれたあの娘だった。二人の決闘よりも、全てを見ていた鍬蔵が不気味だった。
投稿元:
レビューを見る
藤沢周平さんの初期の作品集。これも義母蔵書から。
ご自身も言われている通り、どの話にも共通するのは「負のロマン」。正直、ストーリーはハッピーエンドでなく、心が暗く重たくなるような内容です。それでも、江戸の名もない町人たちが実に生き生きと描かれていて、その情景描写が本当に美しい!人に斬られて、命の火がまさに消えようとするその瞬間までの描写など圧巻・・!!
やっぱり好きです、藤沢作品。
投稿元:
レビューを見る
藤沢周平さん初期の作品「又蔵の火」は短編五話が収録されているが、どの話も暗い宿命を背負った主人公が生きて、または死んでいくストーリーだ。あとがきで藤沢さん自身が記しているけどこれは負のロマンだ。負の中から生まれる次の作品を読んでいきたい。#読書部
投稿元:
レビューを見る
初期の作品集。あとがきにもあるように、どの作品にも暗さが残る。後に残るものは悪くなく、著者の主人公への暖かい思いを感じた。
投稿元:
レビューを見る
平和な世の部屋住み次男坊やら商家の若旦那ならともかく、汚くて狭い長屋暮らしで1文2文のオーダーでその日暮らししてる町人やら職人やらが、あっという間に道を踏み外し、何百両って借金背負って闇に沈んで行く、そのあっけないこと、恐ろしい。
投稿元:
レビューを見る
著者初期の短編作品集。後年の香りたつ情緒は未だ感じられない作品が多く、暗い翳がある。登場する女性も優しい魅力に欠ける。兄の仇討(義兄と義甥)への執念に燃える「又蔵の火」、故郷・木曽福島のわが娘との初対面と心の交流「帰郷」、博奕罪による流人から赦免された鶴吉の復帰「割れた月」など、この著者の作品としてはいずれも割り切れない複雑な最後で、読んだ後の複雑な重いな気持ちが残る。そして「賽子無宿」「恐喝」も最後は救いがない。
投稿元:
レビューを見る
「主人公たちは、いずれも暗い宿命のようなものに背中を押されて生き、あるいは死ぬ」と作者が語った初期の名品集。
投稿元:
レビューを見る
一族の面汚しとして死んだ放蕩者の兄のため、理不尽ともいえる仇討ちを甥に挑む又蔵。鮮烈かつ哀切極まる決闘場面の感動が語り継がれる表題作の他、島帰りの男と彼を慕う娘との束の間の幸せを描いた「割れた月」など「主人公たちは、いずれも暗い宿命のようなものに背中を押されて生き、あるいは死ぬ」と作者が語った初期の名品集。
投稿元:
レビューを見る
2019/04/14読了
暗い宿命の話ばかり。むなしい仇討ち、どうしようもない博打打ち等々。その中で「帰郷」の宇之吉の話、老年になって知った我が娘のために身を挺する姿にホロリとさせられる。
投稿元:
レビューを見る
内容(「BOOK」データベースより)
一族の面汚しとして死んだ放蕩者の兄のため、理不尽ともいえる仇討ちを甥に挑む又蔵。鮮烈かつ哀切極まる決闘場面の感動が語り継がれる表題作の他、島帰りの男と彼を慕う娘との束の間の幸せを描いた「割れた月」など「主人公たちは、いずれも暗い宿命のようなものに背中を押されて生き、あるいは死ぬ」と作者が語った初期の名品集。
投稿元:
レビューを見る
藤沢周平=暗い、と語る人は多く、確かにこれは暗い。しかしその暗さがご本人が語るように、「負のロマン」となって輝いている。
この短編集の主人公はだいたいが堅気ではないヤクザものだ。平凡な道から外れた者たちの行き先は、明るくなりかけてまた暗くなる。しかしただただ暗く終わるわけではない。どうしようもない、やりきれない暗さの中に残るものがある。最後の「姉ちゃん」という叫びもその一つだ。
個人的に印象に残ったのは『割れた月』だ。主人公がどうしようもないながらに奔走する姿や、支えようとするお菊、そして訪れるラストから感じるタイトル。ここまで緻密な美しさを描けるのは、藤沢周平ならではだろう。
最初はどんよりとした空気に逃げたくなる人も居るだろうが、読後には必ず誰でも書けない「負のロマン」の良さが伝わるだろう。
投稿元:
レビューを見る
藤沢周平2作目。
表題作で武家物の「又蔵の火」の他に、渡世物の「帰郷」「賽子無宿」「割れた月」「恐喝」の4編。
本人のあとがき(昭和48年12月)を転記して、この作品の紹介に代える。
「・・全体としてみれば、どの作品にも否定しきれない暗さがあって、一種の基調となって底を流れている。話の主人公たちは、いずれも暗い宿命の様なものに背中を押されて生き、あるいは死ぬ。
これは私の中に、書くことでしか表現できない暗い情念があって、作品は形こそ違え、いずれもその暗い情念が生み落としたものだからだろう。(中略)ここに集めた小説は負のロマンと言うしかない。(中略)
だがこの暗い色調を、私自身好ましいものと思わないし、固執するつもりは毛頭ない。(中略)その暗い部分を描き切ったら、別の明るい絵も書けるのではないかという気がしている。」
実際に作風が変わるまで、あと3年待つ必要がありました。