紙の本
うきうきとわくわくと
2006/07/19 22:57
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:うみひこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ファンタジー文学の中に潜む危険性に警鐘をならしつつその魅力を語ろうとする筆者の試みには同意しつつ、少々焚書行為になるのではと危ぶみつつ本書を手にした。
だが、筆者は賢明にもまだシリーズが完結していない最近のファンタジーについては具体的に内容に言明せず、主にトルーキンとルイスのファンタジー世界の違いを対比させつつ論を進めている。
その中でも特に、第3章の「善と悪の戦い」において論考される、安易な絶対悪の設定への批判は実に興味深く重要な指摘だと思う。確かに闇と光などと対比されると絶対的正義があるような気がしてしまうが、悪とは実は相対的なものなのではないだろうか。悪を行なう快楽があるとはいえ、全く世界征服をしていったい何になるのだろう。又、魔法の力が安易な「仕返し」だけに使われておしまい、という物語の危険性についての指摘も、考えるべきだろう。そして、筆者が語る言葉の中に、仕返しとしての人殺しが正当化されていく物語への危惧を私は感じる。古来の仇討ちの連鎖の愚かしさを感じる現代人にとって、「仕返し」のためなら戦争を行なってもいいという物語の流れの危険性に気づくべきなのではないだろうか?
又、第4章の「伝承の謎と魔力」における物語の背後にあるヨーロッパの伝承文学については、多くの物語の背景とされている諸作品についての知識が得られ、今後これらの物語を読み進めていく入口となるだろう。
だが、その他の各章を通して感じられることは、大きな危惧を現代のファンタジーについて感じながらも、筆者がファンタジーを愛し、それを人生の糧としてきたことを全ての章を通して語っているということだ。自分の好きな作品について語る著者のうきうきとした言葉に感動しつつ、私もわくわくとしながら巻末のブックリストに載っていた未読の本に印を付けた。
ファンタジーについて語るものは、実はまだ少ない。この書が、危険を孕みつつも魅力に満ち、想像力を飛躍させる力を持つファンタジーについて考える入口となるのではないだろうか。
紙の本
内容自体は良い、しかし著者の考えが……。
2006/07/09 21:00
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投稿者:フュラー - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、ファンタジーの不思議な魅力の秘密と罠について本書は述べている。また、ファンタジーの評論、そのルーツであるヨーロッパの伝説などについても語っている。ファンタジーと言っても、古典的な海外児童文学がその主であり、特に「指輪物語」、「ナルニア国物語」、「ゲド戦記」については深く書かれている。不思議なことに、今日のファンタジーブームの最前線を走っていると思われる、「ハリーポッター」については何も語られていないのだが。
本の初めから、著者は、ファンタジー、特に魔法ファンタジーには危険な罠が潜んでいる、と言う。私はこの著者の言っている、ヴィジュアルなメディアによるファンタジーの危険について、一部共感できる。確かに、最近、「行き過ぎ」なものがあると思うからだ。著者が言うように、ファンタジーにはわかりやすい、「良い悪い」を判断する尺度がなく、世の中には、最近ファンタジーが多く出ている。「こらしめ」や「しかえし」を正当化する魔法や、グロテスクで、血みどろな魔法。そんなものが多いのかも知れない。 けれど私は、著者が言っていることは、少し硬すぎではないのか、と思うのである。なぜなら、私はファンタジーというジャンルの「自由さ」に惹かれた人間の一人だからだ。作者が言っている、「良質な」ファンタジー(指輪物語、ナルニア国物語、ゲド戦記のようなもの)も私はあまり多くはないが読む。そしてそれを読んで、これは良いなと思うし、面白かったとも思う。ゲド戦記などは、世界観の細やかさに感動を覚えた。けれど、こんな本ばかり読んでいて楽しいかというと、楽しくない。私自身が多読に近い本の読み方をしているからかもしれないが、型にはまった、きっちりした本ばかり読んでも面白くないのではないかと思う。というより、このような本ばかり薦められては、だが。
著者は本書の中で、サラリとではあるがライトノベルを否定している。楽しむ為だけに本を読むなんて、と言う考えだ。本を読む理由の一つは楽しむ為だと私は考えているので、こう言われると反感を覚えずにはいられない。
もっと、自由に本を薦めればいいのに、と私は思う。確かに、「本を薦める側」からしてみれば、きっちり、かっちりとした本を薦めたいのだろう。しかし、「本を読む側」から見れば、もっと幅広く、もっと自由な範囲の本を読みたい。
私はこの本の、丁寧な、ファンタジー作品に対する評論、そのルーツを探っているところは良く、評価すべきだと思う。しかし、著者の凝り固まった考えには、多少の反感がある。一読、サラリと読む価値は十分にある本だと思うが。
紙の本
古典は理想か。
2018/01/08 10:00
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投稿者:うりゃ。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
魔法ファンタジーが児童文学ジャンル以外も席巻しつつある昨今、どのように向き合うべきかについて問いかけた内容。
取り上げられている作品はほとんどが古典ともいえる評価の定まった名作揃いということもあり、著者が批判している作品についても挙げてみてほしかった。
現代の作品にも名作はあるのだろうと思うのだが、「売れている」作品と「文学的にすぐれている」作品はイコールではないので、探す手がかりが欲しい。
巻末のブックリストも古典的だが充実しているのがありがたい。
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これも卒論用。最近話題になったファンタジーを中心に展開されている。ファンタジーの中の人間心理や、ファンタジーの魅力、その中に潜む危険などが書かれている。 ファンタジーはもともとは子供向けの本だと思っていたが、最近は大人も平気で読む。それは、社会が空想の世界に逃げ込みたがっていることを意味するのかもしれない。もともと、人間というものは空想する生き物なのだから、ファンタジーが好きなのは当然だろう。 ファンタジー=現実逃避と言われてきたが、今では立派な文学である。
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最近流行しているらしい魔法ファンタジーの魅力と人気の秘密、そして魔法ファンタジーの危険な罠についてなど書かれている。読むほどに、なるほどこういう考え方をしているのか、と感心した。しかし、「ナルニア国ものがたり」の結末が書いてあることを残念に思った。私は読んだことがなかったのだが、この先も手に取ることはもうないだろう。この本を手に取るのは、タイトルからして魔法ファンタジーが好きでよく読んでいる人が多いのかもしれないが、これからたくさん読みたいと思っている人にはあまりやさしくない本のような気がした。
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「最近のもの批判」が多すぎて辟易した。
自分のものさしで本をはかりすぎていて、不愉快。
民族別の伝承文学の話が興味深かった。
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[ 内容 ]
「指輪物語」「ゲド戦記」「ナルニア国ものがたり」。
子どもたちを、そして今や大人たちをも惹きつけてやまない、魔法ファンタジーの不思議な魅力の秘密を解きほぐしていく。
伝承の世界にその系譜を探り、細部のリアリティにその力を見出し、さらにそこには危険な罠すらひそんでいることも明らかにする、本格的な案内の書。
[ 目次 ]
第1章 ファンタジーへの入り口
第2章 魔法とファンタジー
第3章 善と悪の戦い
第4章 伝承の謎と魔力
第5章 「中つ国」とナルニア
第6章 別世界からの帰還
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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子どもの読書は健全な大人が導いてやらねばという思想で書かれた本。
最終章を序章に持ってくれば読者に著者の意図がより正確に伝わったのではないかと思う。
しかし、遊戯であって読者を欺き笑うのも小説の持ち味だと思うので、子ども向けなんて区切りで健全で良識的な本だけを子どもに与えるということには賛成できない。
大人が考える良き思想を持つ画一的な子どもだけを量産した結果の「素晴らしき世界」には魅力を感じない。
全体として、文章の上手さはさすが本を書くだけはあると思うけれども、思想が自分とは相入れなかった。
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良いファンタジーと危険なファンタジーの分類に絶対的根拠が見られず、主観的で好みによる部分が大きいように感じる。だが、そこは違うと突っ込みを入れながら読んでいくのが新書の醍醐味だと思うので、ファンタジーとは一体何なのか考える良い機会になった。様々な物語が取り上げられており、ブックガイドとしても読める。また、ファンタジーと伝承やファンタジーの歴史など非常に興味深いアプローチで論じられていて、文学史の勉強にもなった。
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トールキンの『指輪物語』やC・S・ルイスの『ナルニア国物語』など、多くの人びとに愛されてきたファンタジーの源泉について解説をおこなうとともに、現代の人びとにとってファンタジーがどのような意義をもっているのかという問題についての考察が展開されています。
なお本書の中で、ゲームやアニメの中のファンタジーに対して批判的な見解をしばしば述べられる際に、神話は元来「宇宙の中で拘束を受けながら生きている人間の条件」についての哲学的な洞察を含んでいたという中沢新一の説が引用されていますが、この点には若干注意が必要でしょう。中沢は、たとえば『ポケットの中の野生』(岩波書店)などの著書で、現代という時代の中で逞しく羽ばたく神話的想像力のありようを積極的に評価していたことにも留意しておく必要があるように思います。
もちろん、ゲームやアニメのファンタジー作品の中には、質の悪いものが多く含まれていることは事実なのでしょうが、著者の議論はやや独断的に感じてしまいました。
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昨今のファンタジーブームに対する危惧や
ファンタジーという大きな流れの源流ともいうべき作品群の比較・考察。
大好きでよく知っている作品から、読んでみたいと思いつつ未読の作品や、まったく知らなかった作品までたくさんのファンタジー作品が紹介されている。
非常に興味深く面白かった。
もう少し踏み込んだ勉強をしてみたいな。
独学では難しいだろうけど、
まずは未読の作品を読んでみよう。
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魔法はいつだってわくわくするよなあ。
ただ著者が「昔は良かった」感満載の、ちょっと老害臭を出しているのが気にはなる。今のファンタジーに批判があるんだったら、もっと具体的にしてほしかったなー。
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脇明子『魔法ファンタジーの世界』。魔法的なものが登場するファンタジー作品はいくつもあるが、それらに共通するものはなにかということ、そしてそれらの源流であろう民間伝承とのつながりの考察から「魔法ってなんだろう?」を論じる。
もちろん、ファンタジーといえばな指輪物語やナルニア国物語やゲド戦記なんかも登場し、古き良きファンタジーは魔法をただの万能の法としていないか、人のあり方を問いかけてくるか、などを述べる。
まあ「最近のファンタジーは刺激的さをただ追求しただけのものが多くてよくない」みたいな若干老害臭のすることも言ってたりはするのだが、一理ある部分もある。それは「神話や伝説の要素のみを抽出し創造力も刺激せず快楽のみを追求したものが溢れている」と述べる点で、これは同意するところだった。
全体としては、神話とファンタジーの関係とかをいろんな作品を引き合いに出して読みたくさせてくれるので、おすすめ。ぼくはマビノギオンのことをこの本で知ったため、「あー昔マビノギってゲームあったけど、元ネタそれかあ」と思うなどした。
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ちょっと堅すぎるんじゃないかな、と思いながら読み進めた。
一時期のファンタジィブームに乗った作品群には、確かに目を覆いたくなるようなものも多かったと思う。
しかし、ファンタジィというジャンルが盛り上がるのは、決して悪いことだけではないと思う。
凝り固まった「原理主義」は、そのジャンルを衰退へと導く第一歩だから。
それは「純文学」や「SF」が、かつて辿った道と同じ。
ベースにある部分には共感する部分も多かった。
上手く言葉にすることが出来ないのだけど、ファンタジィ作品の核となるべき部分を履き違えている作品が多いのは確かだと思う。
重要なのは「演出」ではなく「構成」。
そこを間違えると、読んだ後に何も残らない、空虚な作品になってしまう。
それが一概に悪いとも言えないけれど、ちょっと勿体ない。
著者の思い入れが前面に出すぎていて、そこに共感できない人には、ちょっと抵抗のある本だとは思った。
ただ、多くのファンタジィ作品を縦横に網羅して、様々な視点から傾向や特徴を洗い出している部分は素晴らしかったと思う。
特に、伝承とファンタジィとの関係を探っていく部分は、なるほどと思った事柄も多かった。
著者の主張をもう少し控えめに抑えて、客観的な部分からの評論や体系的な考察を増やすべきだったのではないかな、と感じた。
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魔法ファンタジーの世界と題しながら、その手の作品は、
ほぼ指輪物語とナルニアとゲドしか扱っておらず、どうにも
視野の狭さを感じてしまう本だった。