紙の本
145gどころじゃない感動
2007/07/14 16:51
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
これはミステリーだ。なんてったって横溝ミステリ大賞受賞第一作だ。
しかし面白いのは「本当の謎=ミステリ」は最終章になってようやく姿を現す。謎ですらなかった隠された事実が主人公である彼が真に乗り越えなければならなかった壁であり、試練であり、まず認めなければならない現実だ。
主人公=倉沢はかつて有能なプロ野球投手であったが、試合中彼の放ったそのたった145gの硬球がバッター真佐夫と自分自身のピッチャー生命とを同時に奪う死球となった。
社会復帰として真佐夫の妹・晴香を加え3人で始めた便利屋だが「付き添い屋」としての仕事依頼が評判?となる。
なぜか毎週水曜日にサッカー観戦へと息子を連れ出して欲しいという未亡人。 義弟の浮気相手である外国人ソープ嬢・ウィルマをフィリピンに帰すため、成田まで見届けて欲しいという元野球知人・村越。 荷物の整理を手伝って欲しいという70代の老女の依頼、しかし泊り込むことが条件。
どれも奇妙な依頼であり、気がつくと彼の元に舞い込む依頼主達には「死」が直前まで迫っていた人間ばかりだ。そして最後の依頼もまた彼の上司・戸田と「娘」とが繰り広げる血肉の憎しみを漂わせたドライブの「付き添い屋」・・・倉沢はそれでも首を突っ込んでは彼らを救っていく、自分のことは棚に上げて、いや、棚に上げていることすらも気付かずに。
まず真っ先に思いついたのは三浦しをん『まほろば駅前~』ととても似ている展開だということ。便利屋を始めた主人公が依頼主との出会いの中でいらぬおせっかいにまで首を回し、涙あり笑いありの解決をみるという数篇の物語。
ただ違うのは、彼自身が大きなミステリを抱えているということ。その事実すら無視して物語は後半まで突き進む。
各章、短編ミステリーとして十分楽しめるのだが、やはりこの最大のミステリの解決…すなわち彼の過去への決別と現実の直視と未来への再出発が山場だ。
中途半端な希望と、不安と、期待への息苦しさで震えていた左手が、とうとう機能しなくなった時に彼は初めてそのすべてから解放される。解放、しかしそれは同時に失うということ。たった145gのあの硬球が真佐夫のこめかみを撃ったときから彼の選手生命は絶たれ、その後に起きた惨劇に目を瞑り、すべての救いの手を拒絶し、たった145gの「それ」だけを握り続けてしまった倉橋。手を失って初めて彼は気がつくのだ。こんなにも後生大事に希望と失意のつまった145gの「それ」を握り続けていたことを。
大きなモノを失い、失ったことに目をそむけ、それでも自分がしがみついていることすら自覚できずにいる一人の男。その彼がようやく失ったものを認め執着を手放し再生するまでの物語だ。
ハートウォーミングなミステリー、ととある紹介に載っていたが、ハートウォーミング?とんでもない。walm=暖かいどころかcoldからようやく溶けかかっていくまでの痛々しくすらある人生の再生を描いた物語である。
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新人離れしたデビュー作から、とうとう出た2作品目。
元プロ野球選手とし、心の傷を負っている主人公。今は「付き添い屋」
作品に出てくるキャラクター設定がなかなか面白く、中盤にかけてだいぶ引き込まれた。ラストに向かって緩い感じが出てきたように思えたが、それでもラストはしっかりと決まり、狙い通りの落ちが仕上がってた。
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ストーリーは短編で読みやすし、好きなタイプだけど。
人物描写が物足りなく、もう少し各人に厚みを持たせて欲しかった。
せっかくの設定(他人への洞察力は鋭いが、自分自身を見つめる事が出来ない主人公)にリアリティが出てないような。。。
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元野球選手という主人公の濃い設定にも関わらず話は人間を描いたもので共感と好感が得られる話です。
この著者のほかの作品も読みたい、
そんな気にさせてくれる一冊です。
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プロ野球の投手として活躍していた倉沢は、試合中の死球事故が原因で現役を引退した。その後彼が始めた仕事「付き添い屋」には、奇妙な依頼をする客が次々と訪れてきて…。
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プロ野球投手として活躍していた倉沢修介は、試合中の死球事故が原因で現役を引退した。その後、雑用専門の便利屋を始めた倉沢だが、その業務の一環として「付き添い屋」の仕事を立ち上げることになる。そんな倉沢のもとに、ひとりの人妻が訪れる。それは「今週の水曜、私の息子がサッカーの観戦をするので、それに付き添ってほしい」という依頼だった。不可思議な内容に首を傾げながらも、少年に付き添うことになる倉沢。その仕事が終わるや、またも彼女から「来週の水曜もお願いします」という電話が入る。不審に思った倉沢は…。情感豊かな筆致で綴りあげた、ハートウォーミング・ミステリ。
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何でも屋をやってる主人公の元に舞い込んだ
不思議な依頼から発展して行く、って話のミステリー。 トリック部分はけっこうしっかり騙された。
けど、ストーリーはイマイチ。文章もはっきり言って下手。 あんまり面白くはなかったです。 全体では★2つやけど、トリックでしっかり騙してくれたから★3つ。
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2作目。デビュー作より読み応えある作品になっていて嬉しい。最後まで人物同士の繋がりが捉えにくいのが残念。
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新人離れしたデビュー作から、とうとう出た2作品目。
元プロ野球選手とし、心の傷を負っている主人公。今は「付き添い屋」
作品に出てくるキャラクター設定がなかなか面白く、中盤にかけてだいぶ引き込まれた。ラストに向かって緩い感じが出てきたように思えたが、それでもラストはしっかりと決まり、狙い通りの落ちが仕上がってた。
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誰かに共感する力って、時に大きな力になるんだと思う。
何かをいっぱい持ってて、それらを失った人だから得られるのかな?
短編か、と思いきや全体に統一感のあるシンプルなつくり。
きれいな家具を作れそうな人だな、とふと思った。
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男はかつてプロ野球の世界で有名な投手……だった。たった1球の紺トールミスが人生を変えた。
気がつくと、傷つけてしまった相手の妹たちと便利屋商売。
そんな、彼の元に「ただ、そばにいるだけ」とい胡散臭さの固まりの仕事がやってくる。
「付き添い屋」、サッカー観戦の子どもの付き添い、フィリピンパブのホステスの帰国前のドライブの付き添い、資料整理の老女の付き添い……どうしても胡散臭く、彼は独自に調べることにする。
連作短編集の形態をとっており、それぞれの物語は独立しているように見せかけて、実は主人公・倉沢の心をえぐる展開。個々の短編が決してハッピーエンドでないのは、倉沢のストーリーを紡ぐための仕掛けなのは分かったのですが……巧いストーリー構成だと思います。
この著者の作品をもう少し読んでみたいと思ってしまいました。
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『ヴェスタ・サービス』の便利屋兼付添い屋を生業にしている
元プロ野球選手【倉沢修介】。
【西野真佐夫】の存在の真実場面で、倉沢の心の傷が露になり
その重さに唖然としてしまった。
仕事の依頼ごとに疑問が彷彿し、最後まで引き込まれっぱなしでした。
伊岡氏の文体、大好きになりました。
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ある事件がきっかけでプロ野球界から去った倉沢。
便利屋で暮らしている。
どうしても多田便利軒と比較してしまうけど、こちらの方が断然濃い。
どっしりしてます。面白かったです!
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付き添い屋とは面白そうな商売だった。ただね、最近お金なんかどうでもいいという、甘ったれた人間にうんざりしてるんでねーハナは可愛いんだけどね。
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プロ野球ピッチャーの倉沢。自らの危険球で相手バッターの真佐夫の野球生命を絶ってしまった。その後倉沢はとある縁あって便利屋に転職。真佐夫、真佐夫の妹・春香と3人で事務所を運営していく。。最近の仕事は「付き添い屋」という胡散臭い話し。いろいろな事件に巻き込まれながら、倉沢という人間が徐々に明らかに・・・。読んでいくと明らかになる真実。それはとっても重くてびっくりしましたが、、。作者はあえてそこのところの葛藤をあまり描き込んでいないのでしょうか。おすすめは花屋の田中くん。大好きです。登場人物の中で唯一、裏表のない直球人間。友達に欲しいタイプです。