紙の本
豪腕に引きずり込まれて、一日一冊、三日で三冊。
2007/09/17 03:32
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mikan - この投稿者のレビュー一覧を見る
ひとつの本に、ふたつの物語、そして読者。それぞれは、別々の世界で進行しているはずなのに、突然共振したりニアミスしたり往還をしはじめて、瞬間ぞくっとする、その手の話が好きです。自分が手にしている本が「特別な本」だったのだ、と感じる瞬間がある本。物語と読者が一対一で対峙する、「本」にしか作り出せない感覚。今回、ひさしぶりに感じました。変な感想ですが、この本を読んでいて、「はてしない物語」や「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を読んだときの感じを少し思い出しました。
この本の「ふたつの物語」は、エジプトを守るため、あまりの面白さに死ぬまで読み呆けてしまう「災厄の書」を作ってナポレオンに謹呈しようとする人たちの物語と、その「災厄の書」の中身である美男醜男魔術怪物が入り乱れる物語(こちらがメイン)。
死ぬまで読むのを止められない魔性の物語、この作者はそれを書く気か!というところで捕まって、そこからはジェットコースター。翌日には2巻目を、その翌朝には3巻目を買いに走る羽目になりました。
(実はふたつの話のさらに外部構造(この話全体の原典を古川日出男が訳しているという設定など)もあって、訳注が散りばめられていたり。そちらは、あまりうまくいっているとは思えなかったのですが)
言葉はすごいです。これでもかのルビ・美辞麗句に、倒置・体言止めetc.。あとで読み返すと結構気恥ずかしいところもありますが、一気に読んでいる時にはとても気持ちよかった。生意気ですが、派手な言葉たちも変に酔った使い方はされておらず、その語義ままにぴたりぴたりとはまっている感じがしました。最近の小説は、ストーリー以前に、比喩や形容詞に違和感があって読めない時があるのですが、この小説にはそれはなかった。ここは完全に言葉の趣味の問題ですが、にしてもこの語彙力は驚異です。
「すわ、ぜんたい混迷して森羅万象が聳動!なにがなんだ?」のような大仰すぎる節回しや、「暴虐、貪婪、愚者(あほたれ)の魔王を処刑(おしおき)しちゃったのね!」みたいなはっちゃけ言葉まで、仰々しい表現一辺倒じゃないところも楽しく気持ちよかったです。
この本にはあちこちに「膂力」という言葉が出てきますが、この本はまさに膂力のかたまり。「死ぬまでやめられない面白い物語」を形にしてしまおうとする力技、そしてこれだけの言葉を酔わず飽かせず駆使できる力。著者の膂力に圧倒されて読み急ぎ、物語ならではの感覚を思い出しました。ひさしぶりです。今年の夏休み、ひとときの小旅行に連れて行ってくれた本でした。
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投稿者:koji - この投稿者のレビュー一覧を見る
小説というよりも「物語」というほうがぴったりとくる作品でした。
言葉(文字)がどれだけ人の想像力を刺激して
視覚や聴覚をも超越して頭の中で物語の世界を構築しうるのか。
リアリティがないことのなんと素敵なことか。
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ファンタジィではないような気もするけど、歴史物関連とするには内容がアレなので、こちらで。海外旅行途中、モスクワの空港でトランジットで7時間ほどアエロフロートを待ちながら読了。3巻の途中までは、ダークな千夜一夜という雰囲気、読者を引き込むストーリィテリングはさすがだけど、そんなに特筆するべきこともないかなー……と思っていたのだが、そのあたりからどーっと雪崩落ちるように展開――というより回天してゆくストーリィは見事。物語とは何か、いったい作中で語られるこの物語は何ものなのか――ラストの、思わず「あっ」とつぶやかせるような、あの突き抜けたような快感。物語の内容に対する読後感云々は別として、それは奇妙な爽快感と脱力感をもたらした。この本は元々ネタ本があって、本邦初の翻訳(意訳)なのである――とあとがきにはあるんだけど、これ、どこまでが本当なんだろう?(事実ともそこまで含めてフィクションとも、どちらとも取れるような気が……)
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文庫化されました。全3巻。物語を読む楽しみを味わえると思います。ラストのガチンコ対決は泣けました。自分のすべてが誰かに継承されるというのは、ある意味幸福なことではないでしょうか。
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いやもう、最高に面白かった。フィクションらしいんですが、もっともらしい舞台設定、語り部が語っていく形式なのに、ずいずい引き込まれる筆力、物語自身の魅力。詳しくは是非呼んでください。
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舞台設定がナポレオンが活躍した時代で、その時点で現実生活から離れた感じで読んでいるところで、劇中劇のように、語りべが千年前くらいの伝説を語っているので、すごくこちらの枠が外れて受け入れやすく、おもしろい。
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翻訳書だという作者の言葉をどこまで信じてよいのやら(笑)一巻は醜い妖術師アーダムの物語。(アーダムってアダムとかけてるのかしら。)
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アラビアン・ナイト、ファムファタル、クロニクル、メタ構造、神話。このうちどれか一つでも琴線に触れるものがあったら読んで損はないでしょう。とてもとてもとても面白い物語のはじまり。
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今、読み始めたところなんだけど、アラビアンナイトに惹きつけられた王様のように読み出すと止まらない。2巻に突入したところです。
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内容は御伽話ってのが一番しっくり来るカンジです。
時は1798年、今まさにエジプト・シリア戦役が始まろうとしているカイロが舞台です。攻め込まんとしているナポレオンを撃退出来る「災いの書」を作るべく、「アラビアの夜の種族」が物語を紡ぎだす…といった外枠に、作中作としてゲーム「ウィザードリー」のノベライズが丸々入ってます(爆笑)つぅか量としてはソッチがメインです(笑)
この本は、作者不明の作品を著者が翻訳したと言う設定になっていて、本編前の断り書きは元よりハードカバー版や、文庫版で追加の後書きまで全部そのスタンスで書かれています。後書きまで含めて全部が物語(笑)本編の中にも、物凄い勢いで「原著ではこうなっているけれどもこうしました」とか訳者の注釈が入っています。面白いけどむっちゃ濃いです。文章は軽いので読みやすいです。作品毎に文体が変わる作家だなぁ…
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笠原書店で買ってきました。序章と言うべき「聖遷暦一二一三年、カイロ」と「第一部 0℃」が収められている。
でっち上げられた「災厄の書」、支配階級奴隷のアイユーブはそれを現実のものとするために画策する。第一部では書の一端が夜の種族ズームルッドによって物語られる。
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どうしようもない近年まれに見る「物語」小説ではなく少なくもと1巻目を読み終わった時点では物語。最後にどんな結末が控えているのか恐れるばかり。このまま物語の極地でも良い。というかある意味でこのままで終わらずにいつまでも続いてほしい。残念なことに3巻で終わることを私は知ってしまっている。
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期待して購入したが、今ひとつ。設定はそれなりに魅力的だが、文体がどうもなじめない。古めかしい翻訳体のパスティーシュというつもりだろうが、そのような文体を選択することで得られた自由が、ここにあるのだろうか? 要するに、好みの文章ではない(いや、気取った翻訳体や綺語難語の類いはむしろ大好物なのだが、その使い方がどうも変な感じで、しっくり来ないのだ)。世評は高いようなので、私の好みの方に問題があるのかもしれないが。
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時は18世紀末、ナポレオンの侵攻を目前にし、存亡の危機を迎えていたエジプト。国内第三の有力者に仕える奴隷アイユープが
企てる秘策は 武力ではなく読んだ人を虜にし身の破滅を招く禁断の書物『災厄の書』 だった。夜な夜な語られる年代記と日に日に緊張を増すカイロの2つの物語が交互に進みカタストロフ
へ突き進む神秘的で濃密な物語。
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ナポレオンのエジプト遠征直前のカイロ。
国の壊滅を防ぐために、美しきマムルークは、最高の武器を作ろうとする。それは「災厄の書」。逆らいがたい魔力で読者を引き込み、読むものを破滅させるもの。
女物語師、ズームルッドの語りは始まる。
全編、アラブの風味がスパイスのように聞いている。そこここで挿入される、アラビア語の言い回しは、日本人になじみのないイスラーム世界の魅力をさらに引き立てる。
まさにこれは物語。のりとしては、指輪物語風講談といういったところか。講談だから、笑いも下世話な話も、庶民的言い回しも魅力的。
では、ものがたりをはじめましょう。ビスミッラー(アッラーの名のもとに)