紙の本
圧倒される優雅な「舞台」。絢爛豪華な「本格」世界。
2008/02/28 13:57
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ばー - この投稿者のレビュー一覧を見る
第35回メフィスト賞受賞。
すごいのである。ものすごいんである。
有栖川有栖が述べているように、今作は、中井英夫の『虚無への供物』の影響が見られる本格推理物。また、「読者への挑戦」に近い、「劇場より」(作者は、この物語を一つの舞台として扱っている)があることからも、有栖川有栖などの本格推理に強い影響を受けていることが分かる。つまり、読者参加型完全本格推理。つまりつまり、私が大好きなフェアプレイ精神溢れる推理物。
音楽神(ミューズ)を捉まえるために――
主人公、古野まほろは、県立勁草館高等学校吹奏学部の第一(ファースト)ホルン。全国大会に出場するために、個性豊かな仲間たちと練習にあけくれる毎日。光輝く青春時代の毎日の中、突然行われる殺人という凶行。犯行声明文の中には、彼らの課題曲『天帝のはしたなき果実』に関連する言葉が並ぶ。次々と行われる殺人。学園の七不思議。軍部と警察の暗躍。淡い恋。浪漫的であり、ペダンティック、そして優雅で独特な筆跡(テンポ)で描かれる、青春群像本格ミステリ。
まず、独特な文章。
様々な雑学、専門知識で埋め尽くされている。それに伴うたくさんのルビ(創作的で面白いのも多い)。しかし、たとえその知識が些細で込み入ったものであろうとも、そこにはこちらを押しつぶすような圧迫感、いやらしさがない。つまり、知識の出し方、書き方が巧い。読み始めは慣れるまで少ししんどいかもしれないが、独特のテンポは、貴族調であり、優雅であり、高等遊民的であり、浮世離れしている。「ふん、なんだよ、お高くとまりやがってさ!」まあ、確かにそう思う人もいるかもしれないが、その超越的な嫌らしさは、思春期というハードルを取っ払っても十分に許容範囲だろう(私だけかなあ)。
物語自身の内容はどうか。
登場人物の独特の経歴、性格は、「すわ、これもキャラ小説か!?」うーん、どうだろう。だけどこれだけ(800頁を使って)有効的に消化されて、織り交ぜているのなら、おーるおっけー?後半に向かうにつれて様々な事実が表れてきて、「いや、ちょっとそれは推理というよりエンタメじゃん」と思う「かも」しれないが、本当に自由に生き生きと人物が踊っている。演じている。
推理は本格物、しかも読者参加型のため、古典的だが面白いトリックが並ぶ。ガジェットは幾度も使われてきた物たちばかりだが、うん、ある意味冒険活劇。トム・ソーヤー?スタンド・バイ・ミー?
なによりも見物は、種明かしの場面での、「関係者ほぼ全員」での推理披露会。推理に次ぐ推理。否定に次ぐ否定。「これでQEDなのね」いやいや、実はそれも打ち消し。『虚無への供物』はアンチ・ミステリらしいけど、こういう「物語内での推理否定(のようなもの)」がそれへのオマージュなのかな?でもそれは、驚きの真実で覆われるけど。その真実の部分がアンチ・ミステリなのか?どこかで見たことある手法だけどさすがに言えません。
推理小説にリアルを求める人は嫌うかもしれないが(「こんなのありえないよ。本格の癖に」)(…私自身、本格の定義はおぼろげですが)、「超常、異能、エリートの人間らによる、本格推理」という優雅で雄大な「舞台」。殺人の非人間性がかすんでしまいかねない超越性。青春という舞台装置で描かれる殺人劇。ペダンティック、ペダンティック、ペダンティック。「芸術至上主義者」の私も、さすがにこう思う。
「舞台で繰り広げられる演劇に目を瞑って応えるのは無作法だろう」
やられました。超おもしろい。おススメです。
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くはぁ…面白かった。
この内容の濃さは何?(笑
やや最後は冗長の向きもあり、
展開の無謀さもあった気がするけど。
こういう衒学的にゴージャスな小説、大好き。
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序章から80ページ辺りまでは、通過儀礼と呼べるものだったのかもしれない。
正直言って、なんじゃこりゃあ。と思った。
知識の博覧会。言語のバザール。その広い敷地の中を、みすぼらしい格好と寒い懐で挙動不審にさまようような、そんな感じ。
はっきり言って、濃い。クドイ。イッちゃってる(笑)。劣等感を煽られるだけの百科事典の如き作品ならば、置いてしまおうか……とさえ考えた。
それに、どうにも初めのうち文体が受け付けなかった。()内の感情表現とか、字体の変化や太字を用いての表現。こんなんありか、と思った。
しかし……畜生(めるど)、こいつは麻薬だ。
通過儀礼を済ませてずんずん読み進めていくうちに、難解な響きが顔を出しても、どことなくマザーグースを読んでいる時のように気楽に飲み込むことが出来るようになった。しゃちほこばって読んじゃあかんのだな、これ。
そうして次第次第に、聞こえる筈の無い音楽が体内に響くような感じさえしてきた。
第1章「1 逃げてゆく音楽神」ではいまいちピンと来なかったものが、第3章「5 汝が刹那を」及び同章「12 おとのまほろば」では、わんわん体内に巡っていた。
アンサンブルに関しては全くの門外漢のくせに、どーいうこっちゃ、って思うくらいさぶいぼ立った。
同時に、最初は鉄面皮の針金人間だったキャラクタ達が、第1、第2、第3の供物が捧げられる度に(皮肉なことに)肉を得、血を全身に漲らせ、喚く声音や微細な表情の変化まで、読み手である私の五感に訴え掛けてくるようだった。
まあ、第6章から暴かれていった真相と相関図に関しては、「おいおい、風呂敷広げ過ぎとちゃいますか」と思わされるところもありましたが。
参考文献のタイトルを流し見するだけでも、「随分欲張ってるなー」って苦笑するようなとこあったし。
しかし。しかしですね。どんなに胡散臭そうでも、非現実的でも、「うげらぼあ!」って叫んじゃいそうな荒唐無稽なマテリアルの寄せ集めのように見えたとしても、それを料理出来ちゃってるところが、この作家さんは凄い。
ああー面白かった。森作品に出会った直後のような衝撃があったかも。
これが次回作以降も続くんなら断然追っかけやりたいくらいなんですが……続くんだろうかどうなんだろうか。何せ著者名=主人公名。
密かに……いいや、あからさまに熱烈に、次回作を心待ちにしてしまうワタクシです。
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まずルビが多すぎて読みにくく、
読了までに時間がかかりました。
リアリティも全くなく、
期待が大きかっただけがっかりも相当。
謎解きも大したことなく、
だらだらと長すぎです。
次は読みません。
誰もいなくなったのルビが
ゼアワーノンではだめでしょう?
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あの宇山日出臣氏が発掘した最後の新人作家という触れ込みとその挑発的なタイトルとが先行しすぎたためか、期待が少しずれたような感じ。まだ青い果実。次回作まで評価は保留。
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ここに来て、メフィスト賞の質の低さ極まれり・・・。っていうか、こう書いてみて、ふと思った。メフィスト賞って元々そういう賞じゃないじゃないか。推理小説界における実験的作品賞。そう考えるなら、この本なんてのはメフィスト賞の意味に大いに当てはまっている作品なのかもしれない・・・。でも、でもでも・・・。ごめんなさい。面白いとは思わなかった。この本好きな人ってきっとMだ。
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「人間顔じゃない。醜いって思う心が醜いの。この世のあらゆる事象はニュートラル、事象自体には好悪の性格はないの。問題はね、事象をどうとらえるかなのよ。良い悪いの性格づけなんてね、人間のこころの菜かにしかないのよん」
「いつも怒ってる人間はただの莫迦。だけど怒るべきときに怒れないひとは、必ず誇りを切り売りしてるのよ。」
「前世の宿業で理解しあえない組み合わせがあるの。誰にも憎まれない生きかたが無理なら、人様の怒りや憎しみを思い遣らない柔軟さを持たなきゃ。誰も医療費肩代わりしてくれないしね」
>ぇーと、3〜4日抱えてました。なげぇよ。ぅーん、嫌いじゃないけど再読は無理です。むーりー;
結構良いキャラ殺して逝っちゃうので…ぅぅ…シリーズ化とかあるのかな?;次が出て読むかどうか微妙な所;
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無駄な記述が多い・・・。私が読み込めていないだけ?面白いとは思ったんだけど、厚さは半分くらいに出来そう・・・とも思ってしまった。
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あんまり本の好き嫌いが無い方なのでさして抵抗なく読めた。……でも、これは人によって好みが真っ向から違うだろうなぁ。
一部分からないネタも有るけども、正にこんな話しを読みたかった!と云った感じ。
それから良く読むと括弧内の『感情表現』は感情表現なんかじゃなくて、主人公には聞こえているれっきとした『科白』の一部と云う事が解るはず。
これは中毒るなぁ……『御矢』『孤島』も買おうかな。
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とにかく長い。そしてとにかく難解漢字とルビと外国語が多い。ので、非常に読みにくい。その上設定がパラレルなので、そもそもの基盤がさっぱり分からない。ただ、芝居がかったセリフとか、人物描写とかは面白い。たぶんじっくりと何度も読めば内容がよく分かってすごく面白いと感じるのだろうけれど…疲れる。
2008/3/11
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ルビの多さ、まず読み辛いと思った。
けれど、読んでいるうちにコツは掴めてきたし、特殊な言葉回しも馴染んできた。
引き込まれていく不思議な世界。
気がつけばまほろ語の虜。
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一回挫折して二回目。
読み始め1/4⇒「はいはい。衒学的衒学的(笑)」
2/4⇒「あれ?意外と読めるぞ?」
3/4⇒「何これおもしれーーーーー!!まほろサイコーー!!!!」
4/4「だるい」
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主人公の古野まほろは名門吹奏楽部に属している。アンコンで演奏する楽曲は「天帝のはしたなき果実」。顧問瀬尾に率いられて練習に励む毎日。恋とか愛とかみたいなものもあったりなかったり。
そんな中、メンバーの一人修野まり嬢から渡された修野家に伝わる暗号を、まほろより先に解読した友人奥平が首無し死体で発見される。
「え――えええええっ!」みたいなラスト。五章目でひとまずの「解決編」、そして最後の第六章に行くのですが。…畳みかけるようにトンデモな世界観が炸裂してびっくりしました。トリックとかロジックとかには正直関係のない部分なので、要するに些事、みたいなものなんでしょうか?まじで?
まあ伏線はあったっちゃありましたね。まさか血液型の話がこんなところに。百パーセント忘れてました。今度から人物表とかつくって読んでみたら自分のあっぱらぱーさがわかるかもしれない。しかしミステリはトリックうんぬんより物語として読みたい派なので実行には移しませんが!
動機とかはまったくノーヒントなんでもはやわかるわけねーよ!な感じですが、なんかもうこれは「うおー!」「うはー!」「オッケー把握!」みたいな楽しみ方がメインなんでしょうか?
まあ面白かったです。真犯人の設定とかもう色々炸裂してて楽しい。
あと、この人の文章は非常に独特で、ルビを超多用してます。「朱色(シナーブル)の短外套(ピーコート)」とか、「細肉茶飯(ハヤシライス)」とかとか。英語にフランス語にドイツ語にルビを振る振る。「勝者総獲り(ザウィナーテイクスイットオール)」とか。センサーがびくびく言うよ!(中二センサー)
でもなんというか、読み終わった後、全然ハッピーじゃないのに爽やかな気持ちになるの、アレなんなんでしょうか笑 どっちにしろまほろは、瀬尾と同じように夢を奪われながら、彼女と一緒に生きていくんでしょうか。
気がつくと六章ばかり読み返している自分がいる…まほろ、恐ろしい子!
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みんな大好き!まほろのデビュウ作☆
私のつぼに超ド級ストライクですよ…!
メフィストらしいメフィスト賞だよ!
瀬尾は明日美子てんてーのハラセンなビジュアルの積りで読んでました。
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独特の文体は好き嫌いが分かれそうだなあ。ちょっと慣れるまでは読みにくいかも。個々の要素要素はもうこれでもかというほど、ミステリ好きのツボを付きます。絵画や彫刻に隠された暗号なんかも面白いぞー。あまりにぶっとびな「首切りの論理」も印象的。こんなの、いまだかつてなかろう。
ただし。あのダイイングメッセージは……あまりにストレートに分かりやすくないですか? 一目見て普通に読んで犯人当たってしまった私です(笑)。「あんたらひねりすぎだっ!」と登場人物に向かって叫びたくなりました。素直すぎる私がいけないんだろうか……?