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紙の本
善と悪の間で
2006/12/18 09:57
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カワイルカ - この投稿者のレビュー一覧を見る
薬丸岳は面白いとは聞いていたが、評判どおりの読みごたえのある作品だった。江戸川乱歩賞を受賞した前作『天使のナイフ』は少年法の不備をついて話題になったらしいが、この作品では性犯罪の前歴者と被害者の遺族の問題を扱っている。
主人公の刑事、長瀬は妹を性犯罪者に殺された過去を持つ。その長瀬の周辺で、幼女殺人事件が起きるたびに性犯罪の前歴者が殺されるという事件が発生する。サンソンはフランスの死刑執行人の家系からとった名前だ。犯人は社会を浄化するために性犯罪者の首を切ると宣言する。警察には犯罪を抑止する力はないというのだ。
犯人の犯行声明が報じられるや、世論はサンソンの味方になる。窮地に追い込まれた警察は犯人を捕まえようと躍起になるが、長瀬の気持ちは揺れ動く。サンソンははたして膳なのか悪なのか?警察官であると同時に被害者の遺族でもある長瀬には答えが出せない。長瀬の過去を知る上司は、彼が警察官として成長してほしいと願うのだが……。
被害者が性犯罪の前歴者で、事件の捜査にあたる警官が犯人にシンパシーを感じているという異常な関係。長瀬がサンソンと同じくらい深い心の闇を抱えているところが恐ろしい。
この長瀬を主人公に据えたことが成功している。犯人の「男」の不気味さと長瀬の不安定さが、サスペンスを増加させる。これは単なる犯人探しのミステリではない。ラストの意外性が話題になっているようだが、むしろそこまでの話のもっていき方やテーマに作者の非凡さを感じる。これからは薬丸岳から目が離せない。
紙の本
心の闇
2006/11/28 09:21
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゆう - この投稿者のレビュー一覧を見る
女児を巻き込んだ性犯罪が連続して発生、その後には必ず性犯罪者の前歴者が、無残な首なし死体で発見されるという連続殺人事件が発生した。
女児殺人事件と平行して、劇場型犯罪へと発展した性犯罪者殺人事件の真相を追う長編ミステリー。
両方の事件が絡み合い、更に、警察と犯人の行動を交互に描かれていて、最後まで気の抜けない展開だった。
残虐な犯人の複雑な心理状態や、我が娘を殺された親の心境も同時に窺えて、何度もいたたまれない気持ちになった。
子供を巻き込む犯罪が多くなった昨今、ラストは、思いもよらなかった展開に驚かされたが、それがとてもリアルに伝わってきて、深く考えさせられた作品だった。
紙の本
闇の底
2006/10/09 02:24
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:クロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
少女が犠牲になる性犯罪。
事件が起こるたびに、
一人、また一人、サンソンに処刑されていく元性犯罪者達
「子供が殺されるたびに、かつて子供を殺した者達を処刑する」
『サンソン』フランス史に残る死刑執行人を名乗る予告殺人者。
幼い頃、妹を性犯罪事件で亡くした刑事・長瀬に「サンソン」から電話がかかってきた。
「いずれ君が望んでいる世界を見せてやろう」
騙されました。
ミスリードされちゃったよ、作者の思惑どうり。
(いつもミスリードされてます)
紙の本
性犯罪者の再犯可能性は高いといわれる。野放しの奴らに制裁を加える男のその動機は?そして一瞬息を呑んだまさかのエンディング。
2006/11/15 11:17
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
このところ悲惨な事件が連続している。小中学生のイジメによる自殺、肉親による幼児虐待と殺傷。幼い命の非常事態宣言であろう。これという対応措置がないままに狂気だけが蔓延しつつあるようで不安と焦燥感が日本全体を覆っている。
そして『闇の底』で薬丸岳はこの暗澹の世相を背景に強烈な反則パンチを繰り出した。
前作『天使のナイフ』では刑事罰の対象にならない少年たちに妻を殺された主人公の「殺してやりたい」との無念の叫びには読者の共感を呼ぶところがあった。また刑事罰を受けない少年たちの「贖罪」とはなにかと問題提起するミステリーの好著だった。
今回も「殺してやりたい」幼児性愛の犯罪者たちと犠牲者の家族が何人も登場する。しかし前作とはまるで趣が異なる。
「少女を犠牲者とした痛ましい性犯罪事件が起きるたびに、かつて同様の罪を犯した前歴者が首なし死体となって発見される。身勝手な欲望が産む犯行を殺人で抑止しようとする予告殺人。狂気の劇場型犯罪が日本中を巻き込んだ………。」
憎んでも憎みきれない犯罪者。そいつらに天罰を下すと宣言し実行する「男」。そして「男」を追う刑事・長瀬もまた妹を陵辱殺害された過去を持つ。
頻発する幼女殺害事件が未解決のままに当局は性犯罪へ抑止力を喪失しつつあった。警察側の捜査の混乱。幼女たちが殺害されるたびに「男」は凄惨な犯行を実行する。被害者家族の怒りと捜査への不信感。その焦燥を埋め合わせるかのような「男」の犯行。長瀬刑事と先輩たち警察側の視点で捜査状況が、妻子を持つこの「男」の視線で彼の日常生活と犯行現場が、交互に語られる。さらに妹を殺害された少年・長瀬の記憶に残る当時の情景、心境がフラッシュバックする。この巧みなストーリー展開はなかなかの緊迫感があり、引き込まされた。「男」の本当の動機はなんなのだろうか。この「完全犯罪」はどのように破綻するのだろうか。この謎解きもまた魅力的な設定だった。
どんでん返しのラストもまた非常にショッキングだ。
むしろあきれ返った。『天使のナイフ』のような鋭い問題提起を期待していたために私はひどい消化不良に陥り嘔吐感を禁じえなかった。そして読んでいる最中は語りのうまさに気づかなかったのだが、本格ミステリーだとすれば欠陥と言っていいところがやたらに気になってきた。この作品は一時流行したノワールなサイコサスペンスとして理屈抜きにのめりこんでいれば咀嚼できるのかもしれない。しかし背景は抜き差しならない深刻な現実である。なんでもありの無作法なミステリーには感心できません。