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現在、『愛しきソナ』が公開されているドキュメンタリー映画監督の自叙伝的な手記です。彼女とその家族の生涯に民族や国境というものを思わずにはいられません。
今、この記事を書いている段階では彼女が監督したディア・ピョンヤンの映画版のDVDが手に入らないので、残念ながらこの本を見ただけの状態で記事を書かせていただきます。現在、彼女の姪を主人公に据えた『愛しきソナ』が公開されていて、これもおそらく僕が住んでいるところでは確実に公開されることがないであろうと思われるので、運がよければレンタルビデオ店に並ぶことでしょう。その日が来ることをただひたすら祈ることにします。
この本は映画「ディア・ピョンヤン」をノベライズしたというよりもおそらく、彼女の自伝的な要素が色濃く反映されている、と解釈して読ませていただきました。一読しての感想は、コリアンにそのルーツがある人たちは一人ひとりが違う『物語』を持って生きているのだ、ということでした。作者も例外ではなく、上の兄三人が朝鮮総連の幹部である父親によって北朝鮮に送られ、日本に残った彼女も、父親の思想や信条を理解できないまま、朝鮮大学校で演劇三昧の学生生活を送り、一度教師になり結婚もしますが、離婚して、ラジオパーソナリティーなどを経験し、ニューヨークに渡米することになります。そんな彼女のバイタリティーのすごさに驚きました。
しかし当時彼女は北朝鮮に国籍があったので、そういうところにからむ諸問題が僕には想像もつかないものがありました。そして北朝鮮に住む兄たちと、日本に住む父と母、その家族を冷静に見つめる後半部が非常に興味深く読めました。彼女の描いているのは家族の問題なので、芥川賞作家の柳美里さんとぜひ対談をしていただきたく思っているのですが、それが実現するのはどうやらまだまだ時間がかかりそうです。