紙の本
大いなる虚構
2006/10/28 20:33
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中乃造 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この東京は滅茶苦茶だ。作品が文庫化された二〇〇六年から見て、辛うじて近未来と呼べる時間距離に、舞台はある。ガイコクジン排斥運動と占い信仰が激化するニシオギ、異国とほとんど化した新小川町俗称レバノン、共同租界としてある神楽坂の角、地下には傾斜人が蠢いている。東京は熱帯化して生態系は変わりつつある。この都市は侵されている。
フィクション性に対するまっとうな、壁越しの見識は無用だ。得られるのはリアルでしかない。それは例えば、鴉が人語を操ることに可能性が裏付けられている、といった小手先のレベルでは全然ない。ここにある“現実”を魚眼レンズで覗いた世界だから、とも違う。“現実”の否定、変容、再構築、どの言葉も当て嵌まりそうで当て嵌まらない。
クロイが映像に魅せられて、その内側へ融けていったのと似ているかもしれない。だから、この作品を読みリアルを得ることは、神秘の領域に属している。八咫烏と見做されたクロイがそうであったように、そうして読者は覚醒するのだろう。
映像を創るのは、レニだ。鷹匠の後継であり鴉匠、場所によりジェンダーを選択し一人称を統一しない。クロイのために傾斜人をミナゴロそうと決意して取った戦略が、撮影し、闇に投影することだった。shoot。ここに創造および愛の本質があり、それはつまり銃撃である。
レニを守ると言ったのはトウタで、そもそもは十歌、しかし同時に持つ意味に従い淘汰する。一挺のリボルバーを片手に本能のまま生きる。旋律を持たない男。極めてイリーガルだが、生活は牧歌的でもある。幼少期の無人島生活、小笠原から本州の東京に上陸し、ピアスと出会い、そしてレニと出会う。いくつものイニシエーションを経る。レニを守るとういう約束を守ろうとする時、トウタは彼らしく気ままでありながら、ひとまわりかふたまわり大きくなるほどのフル装備で登場する。生きる重火器となり驀進する。向かったユートピア、西方で、どうしてトウタは妹のヒツジコを思い出したのか? 神託にほど近いピアスからの連絡だけが、理由ではないだろう。
ヒツジコは、踊る。地震を引き起こす、世界を揺らすために。踊りは見た者は呪われるという伝説は、伝説ではない。ダンスはシェアされて席巻し、その様は侵略に良く似て、事実私立女子校テレジアは陥落した。ヒツジコのように踊る、ガールズ。中でも特に力を持った三人がいる。それぞれ強い個性を持っていて、烈しい戦闘性ゆえカナにも惹かれるが、私が一番興味を覚えたのはフユリンだった。幼い印象があるまでにポジティブな、小柄な少女。子供の頃脱毛現象でかつらガールとなり、逃げるように東京の女子校を選んだフユリンは、再び自毛が生えて来た時に鏡の前で泣きながら思う。
「ああ、みんな、幸せになるといい。」
そんなフユリンは踊る時、純粋な悪意を撒き散らす恐怖メーカーになる。絶望と希望が螺旋を描くのか。フユリンのハイパーリアルな地獄というものを、見てみたいと思った。
紙の本
最後まで疾走していく東京崩壊小説
2017/01/12 22:11
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:円 - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めて読んだ古川先生の本でしたが、まるで全力で歌い上げられる音楽のような、全速力で駆け抜けるような独特の文体はハマるとやみつきになります。
変容した東京という舞台で、上巻は少女期のカリスマとなるヒツジコや、アンダーグラウンドで居場所を得ていくトウタ、そして「無性」のレニなど、魅力的な登場人物たちが疾走していきます。下巻をすぐに読まないと何も手につかなくなるぐらいの中毒性です。
個人的には『LOVE』より好きかも。こちらの方がよりエネルギッシュで猥雑で壮大な気がします。あと巻末の動物図鑑が何気に面白いです。
投稿元:
レビューを見る
表紙買いした作品。ヒートアイランド化した近未来日本を疾走する青年トウタと女子高生ヒツジコ。衝撃的、息を飲む展開が繰り広げられる世界−−
投稿元:
レビューを見る
幼い頃に、父親と海に出た主人公トウタ。だが、父親は波にさらわれ船の上から消えてしまう…。トウタが、行き着いたのはヤギがたくさん生息する無人島。その数日後、母親と一緒に入水し死に切れなかったヒツジコもその無人島に流れ着く。その数年後、二人は保護されて小笠原で学校を出て東京に帰った彼らは…。
スピード感がある小説。すごく魅力的で、不思議な感覚に陥ります。
投稿元:
レビューを見る
上巻を読み始めた頃は、ぅううう〜〜〜ん??面白いかもぉ〜〜〜!っておもっていたのだけどぉ・・・・・
その上巻の面白さが、その後にどう繋がるのかが読んでてわからない・・
読めば読むほど、次々に登場人物が現れ、問題が山積みになっていくんだけど、収めどころがわからない・・
主人公の少年:トウタはどんどん凶暴になっていくし、その妹のヒツジコもある出来事から変容していく。
ヒツジコは踊って世の中を変えたり、人を倒したりするのだけど、想像がつかない・・・
文章の中から、味や匂いを想像するのはむずかしい。
目に見えるものの描写は自分の頭の中に与えられた語句を投影して絵にしていくこと、それに想像を加えて完成させることができる。勿論、中にはちゃんと動画にすることも・・
だけど、これを読む限り、私の中でヒツジコの踊りを動画に投影することが困難だった・・・
熱帯化した東京→移民の巣窟、スラム、ボートピープル・・・熱帯地方の伝染病・疫病の発生、謎の地底人の逆襲・・・
時代設定は3〜4年後・・
散漫な感じで、何もかもが中途半端な気がしてしまった・・
読了はしたものの、最後まで読むのに苦痛がともなった。
そして最後は唐突にあっけなく終わった・・・
は?ってな感じで・・・
すみません、途中から息切れしてきちゃったので、作者が言いたかったこと、読み取れませんでした。
もしかしたら、もっと深い所に伝えたいものが潜んでいるのかも・・
ただ、ヒートアイランド東京に3〜4年後といわなくても、近いものがあるかもしれないって気はします。
樹木を大事にして、必要以上にクーラーとか使わないようにして、土を大事にして、水はけを考えて、これ以上、東京を壊さない努力はしなくてはなりませんよね。
投稿元:
レビューを見る
古川さんを読むのは初めてだったんですが、文体が特徴的ですね。淡々としていて、慣れないと少し読みにくいです。好き嫌いがあるかも…。まだ上巻しか読んでいないけれど、続きは気になります。下巻も読んだらまた感想追加します。
投稿元:
レビューを見る
無国籍化・熱帯化した二十一世紀の東京を舞台に新たな音楽と神話が紡ぎだす非現実的現実。独特な言葉遣いとハイテンポなテンポな文体が疾走する古川紀元元年の青春。
投稿元:
レビューを見る
導入部分は面白い!これはいいかも!っと思いつつ読み進めていくと・・・なんだこれ。個人的にはものすごい失速感が。。とりあえず後編手元にあるので読みますが・・・きついな・・投げようかな・・はぁ・・
投稿元:
レビューを見る
幼少期を無人島で過ごしたトウタとサクラコ。
二人は成長し近未来の東京へ。
そこはヒートアイランド現象で熱帯のようになったところで、外国から移民による犯罪、疫病が蔓延していたとさ。
無人島のときはすんごく面白かった。
トウタもサクラコも幼すぎてしゃべれないから
ひたすら三人称で突っ走ってた。
疾走感あふれる文章に引き込まれた。
無音の音楽?を聴いているような感じで。
でもその後(東京に来てから)は難しかったなあ。
疾走してる文章と内容に置いてかれたようです。
投稿元:
レビューを見る
久々に、読む。難しいけど、昔よりは話とかも追えるように、わかるようになったと思う。[07/11/09]
投稿元:
レビューを見る
読もう読もうと思っていた古川日出男。
「これは『コインロッカーベイビーズ』に似ているよ」という稲穂で数少ない原田君の推薦で本書を購入。
結論。
全然コインロッカーに及びません。
少なくとも僕的に。
というか「コインロッカーに似ている」という村上龍ファンである僕にとって高すぎるハードルを最初から設定したことが間違いだったのかもしれません。
文体もどこと無く村上龍に似ている。
どこか硬質で、力強くて。
モチーフも近未来のヒートアイランド化し、退廃した東京で、これもまた村上龍っぽいなぁとは思ったけれど、情報量・知識量ともに圧倒的に足りない。つまりそこには逼迫感・切迫感=リアリティーが無い。
ってことで上巻のみで読書放棄。
ごめんね、古川さん。
投稿元:
レビューを見る
この人の小説は本当にすごいわ。
言葉の力が本当にすごい。
暴力的に描きたいところで、暴力的に言葉を作れる。
村上春樹のは、比喩の使い方がうまいなぁと思ったけど、
この人は単語の使い方、文章の区切り方がすごくうまいと思う。
下巻早く読まないと。
投稿元:
レビューを見る
ぞくぞくしました。なんか、人の狂気と理性のハザマをみた気分です。あぁ、青春小説のひとつの完成形じゃないかなぁと思います。
パラレルストーリーだからかものすごく読みやすかったのですが、物語の重さに何度も挫折しそうに……。
お兄ちゃんの心がとにかく重くって、すっごく泣きそうになりました。
むしろ、久々に瞳が潤んだ小説かもしれないです。痛かった、です。そしてでも優しい話。
是非読んでみてください。
投稿元:
レビューを見る
この時期に読むのがベストな夏を舞台にした小説
幼い時無人島に流されたトウタとヒツジコ
救助された二人は兄弟として小笠原ですごすが
なかなか周囲にとけこめない
大人たちの思惑により二人は別れて暮らすこととなる。
そして成長した二人は東京へ
ヒートアイランド現象により熱帯化した東京
大量の移民、増える外国人犯罪
外国人排斥を主張する日本人は民兵を組織
謎の地下世界とそこに住む傾斜人
そして未知の病原体
トウタは東京で傾斜人と戦う友達を守ると誓い
ヒツジコはダンスの力で世界を滅ぼすと誓う
カラスがカミサマになる物語
もうちょっとこの世界に浸っていたかったので
サラリと終わるラストに少しガッカリ
投稿元:
レビューを見る
展開が目まぐるしくて掴めない。
自分の世界を持っているんだけど、
その世界に引き込むことが出来てないのかな。
終盤のヒツジコに免疫を持っている少女達は、
中々興味深かったので、下巻が楽しみ。
結末が不明すぎるので不安やけど。
そもそもあらすじがなぁ。。。