紙の本
画家として生きた女
2020/07/31 09:44
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
結婚・家庭という当時の枠組みに収まることなく、好きな絵を追い求めていく姿が素敵です。印象派の画家たちとの交流や、モデルとしての関係も掘り下げられていました。
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文体が少々読みにくいものの、すぐ近所で起こっていた出来事のように示されるので体感的に読み進めることができる。
表題のベルト・モリゾだけでなく、印象派全体、印象派の画家たちとその関係人物について多く触れられているので、印象派というグループについて、より身近に考えられることだろう。
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「私たちは誰でも、秘密を持って死んでいくのです。」
印象派の巨匠・マネの14点もの絵画のモデルであり、自らも職業画家であったベルト・モリゾ。パリ印象派画壇の紅一点として、主に当時の女性たちの生活を題材にして多くの秀作を残した彼女の人生を、その作品や今も遺されている膨大な資料から明らかにする。
19世紀パリ社会でまだまだ女性に職業画家としての地位が認められなかった時代、一癖も二癖もある印象派グループの男性画家たちに混じって、自分を見失うことなくその画風を貫いたベルト・モリゾ。この評伝にはそんな彼女の生い立ちから、当時の社会情勢、絵画に限ることなく文学や音楽と広範囲に亘るパリ文化人たちの交友関係までが詳細に述べられています。
モノクロながらベルトの作品はもちろんのこと、マネ・モネ・ドガ・ルノアールといった画家たちの作品も多数掲載されており、彼ら名だたる芸術家たちが刺激しあい切磋琢磨して作り上げた当時の印象派画壇を俯瞰するものともなっており、絵画に関心をお持ちの方には興味深く読めることでしょう。
一人の画家の評伝として、ベルトの周辺にまんべんなく光をあてた本書は、非常にバランスの良いものであって、とくに著者が特化して記述しているわけではないのですが、ベルト・モリゾファンとしては、どうしてもエドゥアール・マネとの関係が気になるところです。
彼が自身の作品にモデルとしてのベルトを度々求めたこと、ベルトもまたその画風に多大な彼の影響を受けていることはやはり見逃せないように思えます。マネの関心が彼女から離れ、彼女もまた縁あって彼の弟であるウジェーヌ・マネの妻となってなお、ベルトの中にマネについて「画家人生の中ではこの人一人」という気持ちはやはりあったのではないか。
著者は評伝の最後において、ベルト・モリゾ関係の資料の中に多くの友人とやりとりした書簡が数多く残っているのに対して、エドゥアール・マネとの間にはったの4通、しかもそれが取るに足らない書置きであることが奇妙であると指摘しています。欠落していることが返って不自然に感じられ、そこになんらかのベルトの「思い」を読み取っています。
ですが、『スミレの花束をつけたベルト・モリゾ』(表紙の絵です)『バルコニー』『休息』といった14点ものベルトを描いた絵、そこに描き取られた彼女の表情、言葉としては残っていなくとも、なによりそれらがその思いを雄弁に語っていると感じるのは、穿った見方でしょうか。彼女が培った柔らかな光に照らされた画風の作品さえもその思いに呼応しているように思える。
全てとは言えないかもしれませんが、内に抱えた「それ」に向かってほとばしる情熱は、まちがいなく人に訴える芸術となることを、ベルト・モリゾの作品は語っています。