紙の本
熊楠=知の星座
2006/11/23 01:21
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:脇博道 - この投稿者のレビュー一覧を見る
星は、一つ一つの、天文学的あるいは文学的特質もさることながら相互の関係性が見い出されることによって、より豊かな事象や物語を紡ぎだす。本書は、世界を形成する「事」に注目し、自らの専門分野である粘菌学や民族学のアカデミックな領域に閉じこもることなく、途方もない、知の星座、を生成した巨人、南方熊楠についての本である。
についての本と私は書いた。そう、本書は、単なる研究書でもないし、クロニクルでもないし、ましてや物語でもない。あえて記述するとすれば、それらすべてを包含しつつ、その先の到達点を目指した、卓抜した知のノマドである中沢氏による極めて刺激的なテクストなのである。
これほど面白く(面白すぎたことも若干裏目にでたのかもしれない)かつ深い思考の強度に満ちた本書が、刊行当時、熊楠研究のアカデミックな陣営から、少々煙たがられたのも、無理のない話かもしれない。
確かに、中沢氏の論考は、神秘主義的思考の導入により、突然、ロジックのジャンプが行なわれることがしばしばある。
が、このジャンプをしなければ、熊楠ほどの多面体には到底、肉迫できないと思われる。
例えば、ミナカタマンダラを始めとする、不思議な図像の数々。
図像学的にはとても解読できないし、その含有する意味だけを追求しようとすれば、非常に多くの重要な事どもを取り逃がす羽目になる。中沢氏は躊躇しない。氏が有する知のテクネーを駆使して一気に思考のジャンプを試みる。すると今まで見えなかった事が明確な輪郭をとりはじめ、楽しげな運動を開始する。熊楠の思考に接続するための扉が開かれる。あとは、様々な事象とアクセス、リンクを繰返しながら、熊楠の宇宙を飛び回ることが可能となる。
500ページ強の大部である。だが躊躇することなく一気に読んで頂きたいと思う。怪物的、とか、途方もない、という紋切り型を超えた知のノーブルサヴェージ南方熊楠の全貌を捕らえる事ができるおすすめの一冊である。
*この書評はせりか書房版『森のバロック』への書評の再録です(ビーケーワン)
紙の本
知の大相撲
2006/11/23 01:18
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記(ビーケーワン) - この投稿者のレビュー一覧を見る
南方熊楠自身が書いた本はいくつか持っている。正直非常に読みにくい。話の飛躍は凄まじいし その論理についていくことは凡才の僕には困難きわまる。
そんな南方に対して 中沢新一は 蛮勇を持って どうどうと立ち向かっている。それが本書の第一の印象である。一体 南方とは 博物学者であり 民俗学者であり 生物学者であり 哲学者であり しかもそのどれでもないという 桁外れの知性だが それに対し 中沢は全面的に戦線を拡大して そのどれもに付き合っている。状況を片手でわしづかみにするかのような 中沢の 南方を扱う手捌きが凄い。そう 時として 状況を把握するのは そんな蛮勇が必要なのだ。
南方と中沢が知の相撲をがっぷり四つでやっている。そんな気がする一書である。
*この書評はせりか書房版『森のバロック』への書評の再録です(ビーケーワン)
紙の本
中沢新一氏による粘菌の研究で有名な南方熊楠の思想を追った一冊です!
2020/03/29 11:31
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、宗教史学者として有名な中沢新一氏による南方熊楠の思想や考え方を紹介した一冊です。南方熊楠という人物は、我が国の偉大な博物学者であり、生物学者であり、民俗学者でもあった人物で、研究分野では粘菌の生態を解明したことでも知られています。中沢氏は、独自の鑑識眼で、南方の粘菌の生態の奥に直観された「流れるもの」とは何なのか?南方の思想とは一体どういうものだったのか?といったことを丁寧に解明していきます。内容構成は、「第1章 市民としての南方熊楠」、「第2章 南方マンダラの来歴」、「第3章 燕石の神話論理」、「第4章 南方民俗学入門」、「第5章 粘菌とオートポイエーシス」、「第6章 森のバロック」、「第7章 今日の南方マンダラ」となっており、少し難しいところもありますが、南方熊楠の思想がよくわかるものとなっています。
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南方熊楠、「偉人」「奇人」「巨人」近代日本の「神仙」・・1867年生まれ1941年没
の75年の生涯の軌跡の見事さとその知性の鮮明な輝き、時代を100年以上も見抜く先見性にただただ、脱帽、敬服、同じ日本人として誇りに思う。明治という時代は彼と同期の漱石など何故これほどの傑物、人物を生み出したのだろうか?中沢新一はのこの本で、熊楠の伝記でなく、彼の論文や書簡を超えてそこに表現された言葉の閾下や内部でひそかに歌われている歌に全神経を集中し、熊楠という法外な生命体のもっとも内奥に潜む思想にせまりたいと言っている。
それにしても、アノ時代に20歳で横浜からアメリカへ25歳でフロリダ、キューバ
ハイチ、ベネゼラ、ジャマイカへ曲馬団と行動をともにしながら菌類、地衣類を採集、研究し26歳でロンドンへ・・34歳で帰国まで大英博物館他で勤務・研究、ネイチャー誌に論文多数掲載、帰国後、故郷の和歌山、田辺市で隠花植物、菌類の研究を在野のアマチュアー?学者として・・。
熊楠の生物学、民族学、宗教学、神話に
精通しこの世界の不思議、根源の構造へ
挑んだ思想へのガイドラインであるが、いつの日か青春冒険譚を熊楠の生涯としての
伝記映画など・・充分に迫力ある世界を
誰かに描いてもらいたいものだ。
今、ニートや引きこもり、イジメに悩む若者に勇気と夢、希望を与えてくれる素晴らしい偉人、巨人がそこにいた事を、教師・学校は語る義務があると思う。
■詳細読書感想はhttp://amato-study.comに。
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奇人熊楠をちょっと変わった思想家である中沢新一が記した本。多岐にわたる分野に付き合ううちに、南方熊楠の奇天烈な世界にさ迷いこむ。それにしても、それを分析する中沢新一も実に好奇心の強い人物だなと思う。
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生物・民俗学・宗教学の先駆者である南方熊楠の思想を継承するための熊楠読本。彼の専門であった粘菌(動菌)の特性であるオートポイエーシスをとおして本当のエコロジー(生態・社会・精神のエコロジーの連動)について語っている。関連分野の学者は勿論、他分野の研究者や更には足下みえてない政治家は是非読んでもらいたい。
単眼顕微鏡がほしくなる。
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南方熊楠の思想についての本。
本草学と夢の思考と野生の思考は多様な領域をアナロジー
分類の博物学からシステムとしてのオートポエーシスへ
森のエコロジーは公楽論理の原神道マンダラ郷土
ニルヴァーナと幽霊と高次元と粘菌
中沢新一の本のなかでは一番読み応えがあった。一人の人間についてここまで粘っこく書いているのは他にない。それだけ南方熊楠は捕まえきるのが困難な多様な存在だったのだろう。こんな人間がいたことにわくわくしてしまった。中沢新一の以後の対称性人類学に繋がる一冊。
粘菌は動物でも植物でもなく、性別も持たず、生と死も曖昧な存在。
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今まで読んだ熊楠関連本中でも一番いいとおもった。
熊楠と中沢氏の2つの個性的な知の融合ってかんじ。
すごい生命力が溢れてて、ワクワクした。
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6月に読み始めて、途中で休読期間もありながら、読了するのに3ヶ月かかってしまった。
20世紀初頭を生きた、南方熊楠という、生物学・民俗学・宗教学に精通した不思議な人物の伝記。
思想というのは、アカデミズムに依ることで収束してしまいがちだが、彼の思想は、まさにその対極に位置し、収束せずに結実する、「南方曼荼羅」にたどり着いた。
レヴィ・ストロースに代表される構造主義思考がほぼ無意識的に思考回路の底となっている昨今において、南方の原始性を損なわない発散的思考は、情報に溢れた現代において、むしろ参考となる点が多い。
またじっくりと読んで、より深く理解したいものだ。
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ここから、中沢新一の「対称性人類学」へ繋がって行く、と。
南方熊楠「燕石考」について興味深く読みました。
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[ 内容 ]
生物学・民俗学から神話・宗教学に精通、あらゆる不思議に挑んだ南方熊楠。
那智の森の中に、粘菌の生態の奥に、直観された「流れるもの」とは何か。
自然や人間精神の研究の末織り上げられた南方マンダラの可能性とは?後継者のいない南方熊楠の思想、「旧石器的」な思考の中に、著者は未来の怪物的な子供を見出す。
対称性理論への出発点となった記念碑的著作。
[ 目次 ]
第1章 市民としての南方熊楠
第2章 南方マンダラの来歴
第3章 燕石の神話論理
第4章 南方民俗学入門
第5章 粘菌とオートポイエーシス
第6章 森のバロック
第7章 今日の南方マンダラ
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
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南方熊楠について書かれた本です。とは言っても、南方熊楠の伝記というわけではありません。熊楠の生涯に触れながら、熊楠がそのときどきで、何を体験し、何を考え、何を伝えようとしていたのか、そういう点を掘り下げて行こうとされています。さて、南方熊楠とはいったい何者だったのでしょうか。いまで言う文化人類学についても考えていたようですし、いわゆる民俗学的な研究もしている。さらに粘菌を調べたりもしている。写真を見る限りでは存在感のある不思議な人物です。私と熊楠との出会いは30年ほど前で、暗黒舞踏の白虎社(いまでも活動しているのだろうか)主催合宿に参加したときのことです。主宰者の大須賀さんが、「ミナカタクマグス」を知らないのか?と言っていました。私の頭は「・・・」人の名前とも思えなかった。そう、合宿をしたのも熊野の山奥の廃校でした。(熊楠は熊野で粘菌を調べていました。)それ以降、気になって熊楠についてかかれたものを少しは読んでいたのですが、どんな思想を展開していたのか、じっくり考える機会はありませんでした。では本書を読んでよく理解できたかというと、それも全く自信はありません。(燕石の話しのあたりまではなんとなくついていっていたのですが、仏教の話が多くなるとさっぱりイメージできなくなりました。)ただ現在にも通じることを、早い段階で考えていたのだろうということだけは伝わってきます。ミナカタクマグスの思想を現在によみがえらす必要があるのでしょう。
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南方熊楠の事が知りたくて購入したけど、一冊目にしては少しハードルの高い内容だった。前書きにある通り伝記ではなく、その思想を掘り下げ後継していくことに主眼が当てられている。それを正確に理解しこれだけの書籍に仕上げる中沢さんも凄いと思うが、南方マンダラなる思想に辿りつき、この時代から広く俯瞰した視点をもっていた熊楠さんはとても先進的で異端だったのだと思う。