紙の本
大正私小説の体当たり的な回帰
2008/06/21 15:07
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
力強い。
これは、力強い文学である。
もちろん、既視感というか、端的に大正時代のあるタイプの生き方をなぞるかのように、生き、書かれた本作であるのだから、いわゆる目新しさはないはずなのに、しかしそれでいて、珍しいほどに新しさを感じさせる、そんな
力強さが本作にはある。
しかし、それでいて、今日は大正時代ではない。
だから、その意味で作者は、倒錯を生きながら、力業で本作を現代小説にしてしまったということになる。
とはいえ、これは例えば第三の新人が「私小説」を方法論的に相対化することで、批評的な「私小説」としてよみがえらせたのとは、根本的に異なる事態であるといってよい。
というのも、本作には、大正私小説とのあいだに距離はない。
距離のなさそれ自体が、力強さとなっている。
珠玉の現代小説、そう呼ぶのに、本作はふさわしい。
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「けがれなき酒のへど」「暗渠の宿」の二編を収録。この小説の構造や手法に対して議論することはムダだと思う。今の時代にこれだけ生身の言葉書ける作家が果たしているだろうか。やはり痛快におもしろい作品であり、驚くべき作家だと思う。
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「苦役列車」が芥川受賞したんですがトヨザキ社長がこの作家のことをいろいろと面白く紹介してたので興味がわいて読んでみました。
「けがれなき酒のへど」と「暗渠の宿」の二編が収録されてます。
「けがれなき酒のへど」がどうでも彼女が欲しい、切実に欲しい、美人でも可愛くなくてもいい、普通の女と普通に仲良くなりたいと願い、風俗嬢に声をかけては騙され裏切られそれでも懲りずに風俗通いを続けるダメ男の話しで「暗渠の宿」は念願かなって同棲相手が出来るのだが、嫉妬心から彼女に暴力をふるい酒に溺れる主人公。
傲慢なくせに小心者で我儘で自分勝手で絶えず疑心暗鬼を感じて自虐的で鬱屈した性格でとことんダメな主人公なんですが、このダメさ加減がどうしようもなさすぎて滑稽でいとおしさまで感じてしまう。
ここまで自分のことを赤裸々にさらけ出すある意味すごい私小説です。
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幸せになりたいと常に願いつつも、いざその幸せを手に入れると、慈しむというやり方でなく、ぶっ叩いてその幸せが強固なものか確かめる。
この私小説作家が最後に手に入れるものは何だろう。
今後生み出されるであろう作品を読み続けることで確かめてみたい。
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水戸黄門と一緒である程度パターンがわかっててもやっぱり面白い。中編2編が一冊にまとまっている本だが個人的にはタイトルになっている「暗渠の宿」のほうが面白く、3,4箇所では声を上げて笑ってしまった。スタイル、パターン、文体は癖になるわー。
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ここまで自分のことを赤裸々に描ききるのはすごい。
ダメ男なのになぜかいとおしく思えるのは不思議だ。
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しょうもない男だなあと思う。何でこんな、非モテのDV男のネチネチした話を読まなくてはならないのか、とぼやきながら最後まで読んでしまった。読ませる力は凄い。久しぶりに私小説を読んだ気がします。またこの人の話を読むかは微妙。
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西村賢太の筆力には驚かされる。男の最も情けない部分をこんなにもさらけ出していて、情感豊かにユーモアを交えるなんて芸当ができるのはこの作家ならでは。時折藤沢清三の文章が引用されるが、これがまた間抜けな感じがして、逆に「ネタ?」とか思ってしまうほど面白い。
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全ては他人事だからこそ面白おかしく読めたのかもしれない。少しでも共感を抱いて心を乱せば、この本をすぐにでも投げ捨てたい衝動にかられる。冷静な感情で読まなければ結構身体にも毒。と言うのも私自身、主人公(作者)と似たような感覚が多少あるからかもしれない(暴力は一切無いが)。不器用なところ、何かが歪んで足りないところ、一方で変な部分が純粋過ぎるところ。そしてその事に全く気づいていないところ・・・あと女にモテないところね。
自分を鏡で見ているかのような、自己嫌悪と現実逃避の狭間をグラグラしながら読んでいました。
でもね、世の中にこんな奴が他に居たのかという仲間意識か安心感も実はあるわけで。勿論相手は素晴らしい作家さんでありますけども。
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このダメ男ぶりは期待を裏切りません。結局ダメなんですね。しかし,そのダメ男をみて僕は安心します。「最低な奴だな」って毎回思います。埃かぶった文体が好きです。
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『苦役列車』を読んだとき衝撃を受けましたが、2冊目だったのでそれほどでもなし。でもおもしろかった。『けがれなき・・』の方が好き。ただ彼女がほしいっていうとこが切実で笑えます。
自分のダメ人間ぶりをこんなに客観視できるのはさすがと思いつつ、開き直ってるだけのような気もしてきます。
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脳内語り続ける本。語り口とか着眼点に面白いところがあるから最後までストレスなく読めた。でも作者のあのイメージそのままだから何か小説って感じしない。物語の余白を想像する気がしないというか。
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「苦役列車」を映画で見、エッセイを読んでみて、私小説と本人が言うものを読んでみる気になった。
そのどうしようもない心象風景がやるせなく、救いもないが、半面赤裸々な表現・思考・行動は多かれ少なかれ男という性に内在するものであろう。
文体や表現も面白く、引きつけられる部分がある。
もう少し読み進めてみようと思う。
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「けがれなき酒のへど」
風俗嬢に入れ込んで貢がされた挙句、騙される男の話。秋恵サーガ前日譚。CRIMSONで例えるならGG&Fというところか。相思相愛の恋愛を追い求め下衆く打算するのではあるが、所詮、ロマンチックに愛を追い求めるオトコに勝ち目などなく、リアルに金を狙うオンナの手玉にとられてしまう。オトコの性が痛く哀しい。
「暗渠の宿」
秋恵サーガのデモバージョン。バイオレンスシーンは抑え気味。嫉妬深く嗜虐的な心理描写に図らずも同調してしまう自分を発見してしまった。
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貧乏で酒に溺れ、嫉妬に狂って暴力をふるい、大正期の藤澤清造に傾倒する男の修羅場と道行き。
何とも面白くない作品だった。