紙の本
詰め込みすぎ
2007/02/18 12:27
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
バブル崩壊と、それに続く日本の金融システムの大混乱を縦糸に、その処理を巡り検察庁・法務省と大蔵省が繰り広げた「権力争い」を活写するというのが本書の目的だが、その目的はどうやらはたせずに終ったようだ。残念でならない。本書の失敗の最大の原因は「欲張りすぎ」「詰め込みすぎ」ということだろう。とにかくカバーする時間が広すぎる。バブルが崩壊した1990年以降の事件、長銀を破綻に追い込んだ高橋治則率いるEIEというインチキ会社や、東大生・一橋大生の中でも秀才中の秀才を集めた憧れの職場だった銀行中の銀行、日本興業銀行が、ただの飲み屋のおばさんに4000億円も貸し込んだ事件からホリエモン事件まで手をひろげちゃうと、もう収拾がつかない。よく書けているのは大蔵省のエースで次期大蔵事務次官間違いなしと言われた杉井孝氏が大蔵省を依願退職するまでの経緯を描いたあたりまで。あとは、もう駆け足になっちゃって、事件をただただ追っているだけみたいになっている。これじゃあ、読まされるほうはたまらない。収穫らしき収穫といえば、昨今はやりの「国策操作」という言葉だが、検察庁や東京地検特捜部が行なう操作は原則すべて国策操作であり、検察が行なう逮捕は原則「一罰百戒」の見せしめが目的であり、百罰百戒が原則の警察とは根本的に事情がことなるということを教えてくれたあたりかな。自民党が朝鮮出身の政治家・新井将敬を検察に差し出すことを決断したことが新井自殺の原因だったことを匂わせる記述もほりだしものか。ま、ヒマなら。
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検事たちの発言、会合の様子が実に詳しい。かなり内側に食い込んで取材していることが伝わってくる。
だからこそ、彼らの言い分が無批判に引用されている面もある。
この手法を取る限り、国策操作の問題、裁判員制度への疑惑などは追及できないのではないか。(工業高校卒の検事がいたことにびっくり)。
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護送船団方式が崩壊し、法務・検察と大蔵省の蜜月も終焉をむかえ、敵対、摘発、意趣返しなどが続いた。
バブル崩壊以後の特捜検察と金融権力の15年を追った作品である。
霞が関の高級官僚と政財界との切っても切れない関係とノンキャリアとの確執などについて、まさに現場で起こった事象について踏み込んだ取材活動で得た情報が綴られている。
政財界の上層部での密室でのシガラミを勘案しながら、事件にするのか起訴するのか社会情勢が激変する中で、その都度困難な判断を求められる。
しかしながら、正義感の強いノンキャリアの現場の検察との確執は根深いものがある。
そんな中、ダブルスタンダードな価値観で逮捕・起訴される人々の人生はどうなるのだ。
取り返しのつかない人生を歩まされる人びとの視点では描かれていないのが、この作品の限界なのかもしれない・・・
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期待したほどの出来ではありません。新聞記者には、名文家であるライターと事件を追い求めるハンターという二つのタイプがいるそうです。両者を兼ねる人もいますが、例外に属します。著者は、後者に属します。この10年の金融行政に関する舞台裏を綿密な取材により、明らかにします。この取材力は本物です。ただし、材料と比較すると、面白くありません。ライターとしての能力が欠けているのでしょう。
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バブル期から現在まで、時代を象徴する経済事件とその背後にある社会の歪みを検察の動きを中心に追ったドライブ感溢れるノンフィクション。
国の行政機関である検察が国の政策に沿って権限を行使すること、所謂「国策捜査」は極めて自然な刑事司法の姿である、という著者の姿勢は賛否の分かれるところだが、現に検察(及び表裏一体の法務官僚)が日本社会の転換点にあって常にその進む方向をリードしてきた事実は否定し得ない。中でも本書が扱う、「省庁の中の省庁」大蔵省が絶大な権限を振るった「護送船団」型の事前規制行政システムから、ライブドア事件に象徴される事後チェック型の行政システムへと大きく舵を切ったこの20年の「国のあり方」に検察が果たした役割ははかり知れない。
一方で犯罪摘発を社会設計の手段として用いるというエリート主義は常に独善と紙一重だ。調査活動費問題では内部告発者の口封じ逮捕疑惑なども含め、検察の恥部が露になった。「天皇の認証官」として強烈なプライドを持つ彼らの仕事をチェックするはずの裁判署は「有罪率99.9%」という数字を挙げるまでもなく、検察の追認機関としてしか機能していないのが現実だ。
他にも、誰かが傷つくことを前提とした「事後チェック」なる仕組みが事前規制に比べてそれほど優れたものなのか、また「一罰百戒」を当然とする感覚は「法の下の平等」という大原則とどのように折り合いをつけているのか、など検察官らに問うてみたい疑問は尽きない。立場の違いを超え、様々な視点で考えさせられることの多い良書だ。
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世の中には悪い事する人多いんだなぁ。
お金は悩ましいですね。あっても無くても… 正当に儲けたものであれ、不正に儲けたものであれ、お金を求め始めると終わりがない様ですね。これで十分と思えないのがお金の怖いところですね…
皆が知っている有名な事件を追っているのにも拘らず、物語としての展開に欠けるため、読み物としての魅力には欠ける。
結局パラパラと斜め読みで終わってしまった。
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検察の活動とはどういうものかが垣間見える本。政局の混乱を避けるという理由で、捜査が中止になることはよくあるようで、こういうところは残念に思えた。また、世論がどうなるかで、捜査をどうすすめるかが変わるという事実も、仕方ないとは言え、幻想から覚めるに十分な話であった。
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特捜検察の権力の恐ろしさについて、考えさせられる。ほんとうに新撰組みたいなものか。本書の後半は駆け足気味だったが、読み応えあり。
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歴史を学ぶ。
それは随分と過去を探るような行為で○○時代のような時代の線引き、大きなイベントを学ぶというイメージだが、よく考えると、現代に最も直接的な影響を与えているのは近代であり、更に、令和に大きく作用するのは平成、昭和であるはずだ。本著で強く感じたのはこの事であり、私は昭和の出来事や論理をよく理解出来ていなかった。
イトマン事件や許永中、佐川急便事件や住専問題。平成期初期のバブル景気時に発覚した日本の戦後最大規模の経済不正経理事件と言われるイトマン事件は、絵画やゴルフ場開発などの不正経理が問題となった。
日米構造協議でアメリカが日本政府に、独占禁止法違反での告発案件に力を入れることを強く要求。これに応える形で1991年食品用ラップフィルムのメーカー8社の価格カルテルを独禁法違反容疑で摘発。石油カルテル以来17年ぶり。
こうした事件により、不可逆的に、徐々に社会はコンプライアンスを意識して、清き白河の如き環境になっていく。テレビはつまらなくなった、と言われてもどうでも良い。飛行機や会社でタバコを平気で吸っていたり荒れ狂った校内暴力、バブルで浮かれまくっていた時代など、信じられない。しかし、まだ古くあからさまな既得権益が蔓延っている。更なる良化を期待したい。