紙の本
反面教師としての「恐るべき子供たち」。
2007/08/19 19:16
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:求羅 - この投稿者のレビュー一覧を見る
傑作と名高いコクトーの「恐るべき子供たち」。難解なイメージが強くてこれまで手が伸びなかったが、新訳が出たことを機に読んでみた。
主な登場人物は、エリザベートとポールの姉弟、ポールの親友・ジェラール、エリザベートのモデル仲間・アガート、ポールの級友で憧れの存在・ダルジュロス、エリザベートに求婚するアメリカ人富豪・マイケルの6人。あくまで中心となるのは、エリザベートとポールの二人だ。本書は、近親相姦的な愛憎で結ばれた姉弟を描いた物語である。
二人の間には、外の世界とは異なる時間や道徳心が存在し、“無秩序”という秩序が支配している。その狂気じみた世界の舞台となるのが、二人の子供部屋。ここへ足を踏み入れる者たちは、最初は自由奔放な空気に魅了されるが、やがて自分たちのいるべき場所でないことを悟り、退場を迫られる。エリザベートとポールの関係が濃いので、二人の世界に入ってくるものは不純物のようにはじき出されてしまうのだ。
無邪気な雪合戦の場面から始まる前半は、退屈なほどゆっくりと進行する。厭世的な子供たちの生活には、けだるく投げやりな雰囲気が漂う。物語のスピードが加速するのは、後半のアガートの登場から。終焉へと向かって一気に駆け抜けていく展開に、大波にのみ込まれるような感覚を味わった。そして、衝撃的なラスト。
解説によると、コクトーの脳裏にはまず、結末の場面が浮かんだという。つまり、このラストのために「恐るべき子供たち」は書かれたといえる。それほど作者の思い入れの強いラストはとても印象的で、本を置いた後も、そのイメージはなかなか私の頭から消えることなく、びりびりと身体を痺れさせている。
登場人物たちの緻密な心理描写、イメージが飛躍する詩的な文体、物語の世界に引き込む圧倒的な力など、小説としては一級品で、本書のファンが多いのも肯ける。読みやすい訳文と相まって、物語に酔いしれた。
とはいえ、私はこの作品をどうも好きになれない。
小説を読む醍醐味は、そこで描かれる世界を味わうだけでなく、作者の思想を感じ取ることにあると思う。親友の死に直面し、その悲しみから阿片中毒者となったコクトーの死生観は、悲観的なものだ。人生は運命づけられ、そこから抜け出すことができない。エリザベートとポールが、結局子供部屋から出ることができなかったように。
だが果たして人間は、運命の前に立ち尽くすしかない、そんなちっぽけな存在なのだろうか。二人だけの子供部屋にこもり、思いを全うする彼らの生き方は、私にはあまりにも美しく映る。神聖なまでに純粋な世界は確かに魅力的だが、俗世の中でみっともなく生きるからこそ、見えてくる世界もあるのではないか。
これは、ともすれば、「恐るべき子供たち」の姿に共感してしまいそうになる、自分への戒めでもある。
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結局あぁ私はいわゆる女性が苦手なんだなぁと改めて実感した本でした。子供の無垢な恐ろしさというより、女性は子供の頃から女性ですって話じゃないの?決して特別な話じゃないと思う、これは。
(not紹介文)
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いくつか違う人の訳したものも読んだけれど、読みやすくて文章の雰囲気も良かったのでこの訳が好きです。
ポールの姉エリザベートは私の永遠のアイドルです。
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子供の無邪気な残酷さなのかこれ。姉弟もの?近親もの?ラストの緊迫感。姉さん怖いです。
挿絵は好評みたいだけど私はいらなかったなあ
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狭い空間で、限られた人間によって行われる劇。
ダルジュロスという男の存在が、この空間の進む方向が変わるたびに現れます(想像の中であれ)。
彼の存在がシンバルのように大きな音を響かせる、その描写のリズム感のよさが好き。
姉と弟は、自由でありながら静かに出口を失っていく。
出口を失っていく流れにあがらえない二人は哀しく、しかし
その流れによって失われない強さ、精神の自由さが美しい。
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誰にも邪魔されないこの子供部屋と遊戯の相手と労働で損なわれる柔軟で軽快な生活の素晴らしい力があれば最強。しかしその結末はこうなるしかなかったのだろう。
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本に取り込まれるかと思うくらい、
妙にはまった本。
美しく切なく、耽美です。
・・・しかし、この表紙・・・。
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岩波文庫で以前読んだものを新訳で再読。初めて読んだときには意味の分からなかった詩的な描写の数々が、改めてじっくり読むと非常に美しいことに気付く。イメージが次々と飛躍する幻想的な文体と、たたみかけるようにラストへ向かってゆく吸引力がすごい。
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とてもじゃないけど二度と見られない部分がある。姉弟の話なんだけど、結局姉ちゃんは弟を毒殺して自分をピストルで打ち抜いて弟を彼の恋人から奪還する(←実際はちょっとちがうけど、精神的にはこんな感じ)わけだけど、最後のその顛末が(おもに第二章?)よかったのでそこだけは熟読している。なんども。姉ちゃんの悪魔的な権謀術数は完璧だった。だけどそれまでの過程、おもに第一章には心苦しいものもある。ふたりとも若いので。弟の恋人が「撃つつもりだわ、私を殺すつもりだわ」って叫んだときに【ざまあみろ】って思った。もうすぐ死ぬ弟と、よりにもとって彼女のかたきでもある彼の恋人を一緒に殺すわけが無い。ジャン・コクトーの作品自体は好き。
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内容(「BOOK」データベースより)
14歳のポールは、憧れの生徒ダルジュロスの投げた雪玉で負傷し、友人のジェラールに部屋まで送られる。そこはポールと姉エリザベートの「ふたりだけの部屋」だった。そしてダルジュロスにそっくりの少女、アガートの登場。愛するがゆえに傷つけ合う4人の交友が始まった。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
コクトー,ジャン
1889‐1963。フランスの詩人・小説家・劇作家・映画作家。パリ近郊の富裕な家に生まれ、早くから社交界に出入りし、多くの芸術家と親交を結ぶ。特にラディゲとの交友は芸術活動を刺激し、またその死は阿片中毒に陥るほどの重大な影響を与えた。生涯にわたってジャンルの枠を超えた活動を繰り広げながら、その根源は常に「詩」にあった
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詩人として有名なジャン・コクトーの短編小説。
さすが詩人というだけあって、表現の素晴らしさにひたすら感嘆した。
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2010年1月17日 読むのが辛くて断念、あまりにも子供たちの妄想が重たく。結末が辛いのと理解できない。美しい姉弟と現実から逃げて子供部屋の世界で過ごす子供たちの話。文章が幻想的なイメージを壊さず書かれているが今の自分には理解できない。また、何かの時に再チャレンジ
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-部屋が外界へと乗り出したのは、ようやくこのころからであった。その包容力はいよいよ広くなり、積み荷の整理はいよいよ危険となり、波はいよいよ高くなった-
まだ10歳にならないうちに才能を認められ、詩、小説、批評、デッサン、演劇、映画など様々なジャンルで時代を牽引したマルチタレントの持ち主、ジャン・コクトーの代表作のひとつに数えられる小説。
引用の"部屋"は主人公の姉弟エリザベートとポールの創り出す、子供らしい、善悪の境のない、無秩序な、だからこそ、キラキラ透明感があって、居心地よくも感じる"子供の世界"のこと。ただし、"大人の世界"="外界"の中にあって"部屋"は風前の灯。
大人と子供の境の亀裂・融合は、誰もが人生で経験すること。普通なら一瞬で過ぎ去って、忘れてしまう、あの不安定な精神状態を見事に再現している。
言葉だけで目も心も潤す、"美しい"一冊。
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子供部屋での「遊戯」―
妄想の世界に入り浸る姉弟の悲劇。
読後感のいい話ではないが、私は結構好きだった。
ただ文章にいかにも「翻訳しました」感があって、あまり入り込めなかった。原語もこんな感じなのだろうか。
いつかフランス語で読める日がくれば、と思う。
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和訳がかなりすんなり入って来たのがまず好印象。 古典独特の読みにくさは感じさせないけれど、 息詰まるようなテンポは古典ならではでした。
コクトーが阿片中毒のときに書かれた小説ということで、 登場人物の精神的な部分での壊れ方が凄まじかった。
子供部屋といういわば幻想に囚われたまま、 大人になっても幼いままの姉弟の崩壊を見ていると、 タイトルのとおりの恐ろしさを素直に感じてしまう。
姉弟だけの世界で嫉妬や憎しみを持っていく様、 どこを切り取っても痛々しくて、読んでいて心が苦しくなる。
でも、そういう小説を読みたかったから手にしているわけで、 そのへんは本当に期待通りの一品でした。