紙の本
苦味の効いたコーヒーで一服、の短編集
2007/07/27 17:46
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
冷ややか、というか苦味が残る短編集である。表題作は他人の眼を気にして行動する人間、というものを一匹のイヌを上手く使って淡々と描いていく。天空から人間世界を見下ろす聖人を扱った話も幾つかあり、選び方かもしれないが宗教に対しての冷めた視線も感じられる。
ロシアとアメリカの対立を描いた「最終兵器」や病院の患者の扱いを描いた「七階」などは、風刺漫画のコマのような感じもする。著者は絵も描いたと解説にあるが、そのせいかもしれない。
どの作品も、読み終わってあまり楽しい、という気分にはならない。嫌な苦さではないが、ちょっときびしい。その中で、なにか暖かいものが残ったのは「天国からの脱落」である。これも聖人を扱った作品であるが、聖人はそれ以上の幸福を未来に望めない、という皮肉。そして地上の若者のつらくても熱い、未来のある姿に惹かれる聖人になにか共感を感じるのである。
この翻訳者は、同じく光文社古典新訳文庫の「ロダーリ「ネコと共に去りぬ」」も訳しているが、ロダーリは軽いお茶菓子で一服、という感じの短編なら、こちらプッツァーティはビター・チョコか、ブラック・コーヒーでの一服、といったところであろうか。
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幻想小説の短編集。
「ふとしたきっかけから心の片隅に芽生える不安が、やがて強迫観念となってつきまとい、登場人物の平穏を根底から脅かすという、幻想と現実とが交錯した強烈なテイストを持つ短編」という解説が、この短編集の雰囲気をよく表している。淡々とした語り口が絶妙で、心の隙間をついてくる作品が多い。お薦め。また、訳も良いと思う。新訳文庫の面目躍如。
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イタリア人作家の描く現実的で幻想的な短編集。
カトリックの思想に多神的な考えが混ざり、イタリアの文化を感じさせる作品です。
明るい話は少ないけど、面白かった。
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とつぜん出現した謎の犬におびえる人々を描く表題作。老いたる山賊の首領が
手下にも見放され、たった一人で戦いを挑む「護送大隊襲撃」…。モノトーンの
哀切きわまりない幻想と恐怖が横溢する、孤高の美の世界22篇。
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七階はいいですね。少しずつ変化していく現実を受け入れていくことによる恐怖。何かが確かにあったのかどうなのか、不安定な気分になるところがいいです。
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BS週刊ブックレビューで紹介されていた本。聖人や神々が登場するので、かなり幻想的で宗教的な話ばかりかと思いきや、その神様がハーマン・ミラーのチェアに腰掛けていたりするギャップが笑えます。どれもクォリティが高い短編ですが、たまたま家人が入院していたので「七階」にはぞくり、としました。だって同じ階だったんだもの…。
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どれも面白くて読みやすい話ばかりだった。
イタリア人作家らしく宗教との結びつきが強いものが多い。
個人的には『七階』と『グランドホテルの廊下』が好き。
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2008.10.5購入
表題作は非常に面白かった。
とっつきにくいが
なかなか味わい深い短編が多い。
神様というのは不思議な説得力がある。
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「『バカなことを!』アインシュタインは苛立った。『私の発見ほど、罪のないものはない。ちょっとした法則を見つけただけじゃないか。それも抽象的で、人畜無害で、私利私欲とは無関係なものだろう』 『あきれた男だ』イブリースは声を張りあげ、またもアインシュタインのみぞおちを指で突いた。・・・『いいか、お前が知らないだけなんだ!』『私が、何を知らないと?』だが、すでにイブリースの姿はなかった。」
まるで星新一のショートショートを読み進めるようなそんな思いが一篇毎に深まってくる。身構えることもできぬまま放り出される感覚に痺れながら、一つ、また一つとむさぼるように読み切っていく。
長編「石の幻影」では、余りにも白黒のはっきりした結末が鼻につくような気になったが、この「神を見た犬」を含む短篇集ではがらりと異なる印象を得る。個々の物語に明確な終わりは描き切られていない。それでも読む者はそれが何処に行き着くのか、行き着いてしまうのかを悟らずにはいられない。
実在する人物、場所などの符牒によってその指し示されるものが明確に読み取れるものもある。また別の物語では人間の根本的に持つ醜悪な性質を少々シニカルに指し示されて終わるものもある。幻想的、という表現は決して正しくブッツァーティを示しているとは思えないのであるけれど、その謎めいた舞台の設定は巧みである。その罠の魅力につられてつい物語の内側に絡め取られてしまう。するといつの間にか保持していた慣性の行き先が見当たらなくなるような断絶。現実と自分を繋いでいたはずロープが、プツッと切れる。
そしてしばし呆気に取られる。急いで自分が何処へ流されようとしているのか見極めようと、手掛かりを探ってもがく。その半ば溺れたような感覚を味わうことができること、それがブッツァーティを読む楽しみと言えるかも知れない。
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フェリシモ通販。「7階」が好きで購入したが、表題作含め他もいい。どれもこれもかわいらしくてほほえましくて好き。
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「天地創造」に始まり、「この世の終わり」で終わる短篇集。22篇収録。
聖人や神が登場する作品も多いのだが、彼らがみな、とても人間くさく描かれているためか違和感無く読めてしまう。
人間のひねくれた面や見栄っ張りな面を皮肉った表題作や、有名な「七階」などの不条理な作品、ブラックジョークを味わえるもの、ほのぼのとした味わいのものなど、多彩な作品集。
学生向きに編まれた短篇集からさらに選んだ22篇ということもあるのかもしれないが、どちらかというとソフトな印象を受けた。
山賊の元頭領の淡々とした感じと最後での意気のみせ具合いが格好良かった「護送大隊襲撃」が一番好き。
Selected Stories from Il Colombre e Altri Cinquanta
Racconti by Dino Buzzari
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■目的
古典を読む。
■見たもの・感じたもの(テーマ)
世界の不条理、人間の本質、危うさの美。
■感想
ブッツァーティは、「幻想文学の鬼才」と称され、また絵も手掛けていたのだそうです。
ジャーナリストだったからでしょうか、物事の本質をえぐり出す作風は素晴らしいです。何でも美化するのではなく、ありのまま直視すること、これは私の大好物です。思わず感嘆したり悲嘆したり、オチににやっとしてしまったりと、とても面白かったです。ファンになりました。
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堀江敏幸さんの本に出てきた「K」という短編に興味があって手に取りました。
この本では「コロンブレ」という名前で収録されてます。
日本の作家さんで言ったら…星新一さんみたいな上手さを感じます。
短時間に読めるボリュームの作品が詰まっているので手に取りやすく、あっという間に読了。
何度も読み返したい感じのものではないですが、一読をお勧めします。
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2009/10/10 購入
2009/10/16 読了 ★★★★
2022/12/31 読了 ★★★★★
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星新一さんのショートショートを髣髴させる短編集。神様の生活(?)とか人間のエゴとか、うまく皮肉をきかせた話が多く、非常に面白く読めた。