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みんなのレビュー9件

みんなの評価3.2

評価内訳

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紙の本

大馬鹿な優等生たち…

2007/11/09 17:08

15人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:hamushi - この投稿者のレビュー一覧を見る

 ウェルネスという巨大企業を背景にしたシリーズのなかの一冊ですが、これまでなかなか人物像をはっきり見せなかった最高経営責任者(COE)が、今回は主人公になっています。
 このシリーズは、ウェルネスの最高執行責任者(COO)であるところのヨシュアという、極めて狡猾ながら善良な人物が、作品ごとに変わる主人公たちをさんざんに引っかき回す役割を果たすことになっているのですが、その路線は、控えめながら、ここでも踏襲されていました。

 主人公のアンリは、十年前に悲惨なやり方で別れることとなったリシャールへの思いが癒えないまま、よい友人で理解者でもあるキャシーとの婚約を発表しようとしています。

 天使と見まごうばかりの美貌と、キレすぎる頭脳、そして強烈に「俺様」な人生観の持ち主であるリシャールは、イギリスのパブリックスクール時代から、二つも年上のアンリを圧倒し、恋人になってからも強烈な独占欲でアンリを支配していました。アンリはリシャールを深く愛していましたが、どこか自分に自信を持てず、いつかリシャールがもっと自分の価値観にふさわしい相手に乗り換えてしまうのではないかという、強い不安のなかで過ごしていました。わりとありがちなジレンマかもしれませんが、二人の関係が一朝一夕にできあがったものではないことを、丁寧に語りながらお話が進んでいくので、アンリの抱く切なさは、それなりにリアルさをもって迫ってきます。

 アメリカの大学での彼らの学業期間の終わるころ、祖父の農園を継ぐつもりでいたアンリのもとに、突然、ウェルネスのCOEにならないかという話が飛び込んできます。日本人と駆け落ちしたことで勘当された祖母が、実はウェルネスの一族だったからなのですが、あまりに唐突な話に困惑したアンリは、このことをリシャールに相談しようとします。ところがそんな時に限って、リシャールが後輩の美しい女性と浮気していることが発覚。かねてからの不安が一気に現実化したという思いに駆られたアンリは、白人至上主義のリシャールが、日本人の血を引く自分を受け入れるとは到底思えず、ぷちっとキレて、当時学友だったヨシュアに頼んで、自分との恋愛関係を偽装してもらい、リシャールをこっぴどく振り捨てたあと、そのまま行方をくらまして、ひそかにウェルネスのCOEに就任してしまいます。どちらかというと気持ちの優しい、穏やかな人格のように描かれているアンリですが、こういう人ほど、情が強い分だけ取り返しの付かない方向にキレてしまうものかもしれません。


 一方「俺様」なリシャールは、最愛のアンリの心変わりが自分のせいであるとは夢にも思わす(浮気の件は自動的に棚上げされたようです…)、プライドに妨げられてアンリの行方を捜すこともしないまま、腹いせにヨシュアを一方的に憎悪しまくり、仕事の上で散々に妨害工作を加えて引きずり下ろすことだけを生き甲斐にして、十年を暮らします。その経緯についてはシリーズの別の作品で語られているのですが、絶賛憎悪期間中のリシャールは、およそ人間的魅力に乏しいイヤなヤツで、こんなのじゃアンリに捨てられて当然と決めつけたくなるような体たらくだったため、読後、人物の印象がほとんど心に残らなかったほどでした。けれども十年の歳月とアンリへの思いが、お子様で俺様だったリシャールをも、それなりに厚みのある人間に成長させたようで、この作品ではいくらかマシになっていました。

アンリの婚約披露が数日後に迫ったとき、それまで音沙汰のなかったリシャールが、突然アンリの乗る車の前に現れ、SPの存在すらものともせずに、三日かけて話し合いをするという口実で、拉致同然にアンリを連れ去っていきます。十年分のこじれのエルネギーを、三日間でぎゅうぎゅうに凝縮させたあと、一気に発散させるクライマックスでは、超エリートでありVIPである主人公たちが、これでもかというほどバカ丸出しの人々になってしまい、なんともはやという感じですが、頭がいいくせに思いこみの枠にハマッて身動き取れなくなっていた人たちには、それぐらいがちょうどいいのかもしれません。個人的には、これまで善意の黒幕として常に高みの見物を決め込んでいたヨシュアが、キャシーに一発ぶん殴られていたのが、なかなかそう快でした。

 蛇足ですが、このジャンルの小説には、このお話のように、十年も放置してあった焼けぼっくいが猛火に包まれるようなパターンがよく見られます。学生時代か、社会に出たばかりのころに別れてしまったのであれば、いい加減職場でも中堅クラスになったころに再開したところで、お互いに歩む道が離れすぎていて、恋愛関係には戻らないのが「普通」だと思うのですが、この世界の人々は思いが強すぎるのか、あるいはもともとの燃料が過多なのか、ほとんど再開した瞬間に、過去の情念の火がそのまま蘇生して、あとは怒濤の展開でラストまで燃えさかってしまいます。


 男女間の恋愛小説は、ちかごろあまり読まなくなってしまったのですが、こういうパターンというのはそんなにないのではないでしょうか。十年は、縁の切れていた男女にとっては、長すぎる歳月です。宮本輝の「錦繍」など、好きあっていた夫婦でありながら、夫が浮気相手の無理心中に巻き込まれたせいで別れたあと、数年を経て再会したときには、元夫は別の女と所帯を持ち、元妻のほうは二度目の離婚を経た挙げ句(二度目も夫の浮気が原因でした)、知的障害児を育てるシングルマザーになっていました。お互いに相手を思う気持ちはあるものの、再び恋心が燃えさかる余地はなく、お互いの暮らしの土台を確認しあいながら、静かに文通をしつづけて物語は終わります。このお話だって、決して「普通」ではないと思いますが、こちらのほうが「自然」に感じられるのはなぜなのか。当然の摂理のごとく、十年如きでは真実の恋愛エネルギーが減じることがないということを堂々と歌い上げるBL作品は、やはりある種のファンタジーであるのだなと、あらためて思うのでありました。




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電子書籍

こじらせすぎ・・・。

2016/01/28 00:14

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:よっしー - この投稿者のレビュー一覧を見る

攻めの人物像を知りたくて購入。このシリーズは単発で読んでも世界観はつかめるけれど、全部読んだ方が、人の係わりやつながりがわかって、だからなの・・、と納得できる部分も多い。
まあ、この2人もこれだけ愛し合っているのに10年もこじらせたもんだと・・・。主役達も、周りで支えている人たちも自分の恋愛には不器用だけど、それ以外は超人的な人ばかり。とにかくハッピーエンドでよかった。
ただ、これだけ素敵な人たちが、みんなゲイになってしまって、その子孫の物語が見れないのが残念。

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2007/07/09 00:14

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2008/05/14 12:49

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2009/10/15 01:24

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2010/09/27 16:25

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2011/12/24 11:15

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2013/12/04 18:24

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2013/12/21 10:41

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