紙の本
「好きです」と本・人を語りはじめる新鮮さ。
2007/06/20 01:48
11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:和田浦海岸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
高島俊男著「座右の名文」(文春新書)が魅力です。
「好きです」と、本・人を語り始める鮮やかさ、すばらしさ。
こりゃ紹介するにこしたことはないでしょう。
「ぼくは内藤湖南がすきです。頭のいい人であり、学問ができる人であり、また書いたものはみなおもしろい」(p88)
「ぼくは津田左右吉が大すきです。すきということでは斎藤茂吉と双璧といえる。ただこの二人、性格がまるでちがう」(p135)
「元来ぼくは、柳田國男の文章とはあまり相性がよくない。しかし、『遠野物語』だけは別だ。近代文語文の最もすぐれた文章であり、卓越した文学作品であると思っている。手もとには、なんべんも読みかえしてぼろぼろになった『遠野物語』がある」(p159)
こうして柳田國男の『遠野物語』をとりあげたかと思えば、寺田寅彦では「この人の書いたものはどれを読んでもおもしろい」(p191)とあります。「もし、日本の文学者のなかでだれが一番すきか、と問われたら、ウームとしばし考えて『斎藤茂吉』とこたえるでしょうね、多分。茂吉のなにがすきなのか、といえば、その人物がすきなのである」(p199)
さてさて、この新書の核は「まえがき」にあり。
この10㌻ほどの「まえがき」を、丁寧に読めばそれでOK。
その「核」を種として、育った新書。桃栗は三年ですが、この新書は三年半。
いきさつを知りたい方は「あとがき」に詳細が語られております。
ことほどさように、「まえがき」「あとがき」がしめる位置の確かさ。
その確かさに、楽しみが充満している醍醐味があるのです。
それを、ちょびちょびと削っては紹介するのがもったいない。
勿体ないけれども、ここで終らせるにはしのびない。
ということで「まえがき」のエッセンス、
これだけは読んでのお楽しみとしておきましょう。
ちょいとぶつ切りに紹介するのはしのびない。
新井白石についてでは「『西洋紀聞』という本がある。白石がのこした多くの書物のなかでも最もおもしろい、感動的なものだ」(p24)
本居宣長の最後では「もちろんぼくも、宣長の思想に共鳴するものではない。しかし『玉勝間』という書物、これは・・宣長が年をとって、学問が熟して、まことにおだやかな、常識的な、たいがいのところは筋のとおったことが書いてあって、たいへんにおもしろい。そのへんが、ぼくはすきなのである」(p58)
この新井白石・本居宣長の二人は、つながっていっしょに読んでみると興味深いのでした。
また森鴎外を語るのに向田邦子の文からはじめております。ここの家族との接し方が夏目漱石の家庭への伏線になっておりました。幸田露伴の箇所はまるで高島俊男ご自身を解剖してゆくような雰囲気がただよいます。
そういえば「あとがき」は、「この本は、ぼくにとって初めての、しゃべってつくった本である」とはじまっておりました。そこにこんな箇所がありました。
「2004年いっぱい、ぼくが東京へ行くたびに五反田のアパートへ来てもらって、二人を相手に、しゃべりにしゃべった。録音はどんどんたまったが、これがどうにも文章にまとまるしろものではなかったらしい。たとえば露伴についてしゃべるとなると、話を聞いてくれる人がいるのをいいことに、露伴に関することならなんでもかんでも、とりとめもなく野放図にしゃべったからである。・・録音は、しゃべるにかけたと同じだけの時間をかけて聞くよりしょうがない。そのしゃべりの内容は、脈絡なく、あっちへとんだりこっちへとんだりである。・・結局一年あまりしゃべって、録音の山ができて、計画は挫折してしまった。しばらくはそれっきりになっていたところ・・・」(p220)
今回はこれくらいにしておきます。
というか、この魅力ある新書の紹介は、ここで挫折。
紙の本
口述筆記とは思えない素晴らしさ
2009/03/14 19:09
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:祖師谷仁 - この投稿者のレビュー一覧を見る
素晴らしい本だ。この本はあとがきにあるとおり、高島氏がしゃべり、別の人がそれを筆記したものだ。口述筆記の本は読みやすい代わりに、中身が薄くなり質が落ちるのがふつうだ。しかしこの本は少しも落ちていない。口述筆記だと正直に書いていなかったら私は高島氏自身が書いたものだと思っていただろう。高島氏が目が痛み原稿が書けなくなったという事情によるものだから、他の粗製濫造本とは時間のかけ方が違うのだ。
高島氏が文章家として取り上げたのは新井白石、本居宣長、森鴎外、内藤湖南、夏名漱石、幸田露伴、津田左右吉、柳田國男、寺田寅彦、斎藤茂吉の十人。新井白石は『お言葉ですが』の十一巻と重複する部分があるが、やはり面白い。本居宣長では『玉勝間』こそが最も面白いとか、夏目漱石の『坊っちゃん』は探偵小説であり、恋愛小説でもあるといった指摘など、目の覚めるような指摘が多い。戦前は右翼に攻撃され、戦後は左翼に攻撃される津田左右吉の不器用な生き方に自らを重ね合わせるところも好もしい。これらの作品をみんな読んでみたくなった。
紙の本
十人十色
2019/06/15 22:22
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:6EQUJ5 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「お言葉ですが」などの著書で知られる高島俊男さんが、自分の好きな文章家10人について語った一冊。(ちなみに実際、口述筆記を基本としています)
全体を面白く読みましたが特に森鴎外、夏目漱石、寺田寅彦あたりがオススメです。
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高島俊男という人はつくづく相性のいい書き手だなと思う。
何よりキレがいい。
この本は著者が好きな10人の文章についての本だが、其の10人についての概要が面白くて仕方がない。
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情報科教員MTのBlog(『座右の名文―僕の好きな十人の文章家 』を読了!!)
*https://willpwr.blog.jp//archives/********.html
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著者の好きな著作家10人をまとめたもの。
どの作品が、というよりも、その作者のどんなところが好きか。といった感じ。
比較的作品等から人柄を推測してその人自体が好きって感じの内容かな。
?能ある鷹が爪を隠さず。自己顕示欲の強い「新井白石」
?合理的な「本居宣長」
?よき父、よき兄、よき息子、完璧人間であった「森鴎外」
?大学を出ずに大学教授になった見識高い「内藤湖南」
?神経質症の「夏目漱石」
?あらゆる文献を記憶してしまう「幸田露伴」
?世に名をしめすことの出来ない焦燥感を抱えながらも自説を通す「津田左右吉」
?卓越した文学「柳田國男」
?物理学、音楽、絵画、写真、映画、俳諧を自在に楽しむ「寺田寅彦」
?朴訥としてユーモアのある「斎藤茂吉」
教科書でしか読んだことのないor全然知らない人たちばかりでしたが。
興味深く読めました。
個人的に一番好きなタイプは寺田寅彦さんかな。
「好きなもの 苺 珈琲 花 美人 懐手して宇宙見物」という戯れ歌が載っているんですが。
世にあるあらゆるものを楽しみ、”これはどうしてだろう?こうなんじゃないだろうか?”という感じで、いろんなものに興味を持つ姿勢が羨ましく感じる。
猫の随筆を書いているようなので、それも好感の上がった理由かもしれない(´∀`)
森鴎外も全然本を読んだことがなく。
厳しいヒゲ面の写真しか知らなかったけど。
帝国軍人で軍医総監でありながら、家族には凄く優しくって美味しい夕飯のおかずがあったら子供に分けちゃうとか可愛らしい。
斎藤茂吉の随筆も面白かった。
亡き父への思い出を綴ったしんみりしたものも載っているんですが。
「接吻」というタイトルでウィーンで茂吉が通りで見かけた男女のキスしている様について書かれたものなんですが、道を歩いていたら男女がキスをしていた。
通り過ぎたものの、気になって振り返ってもまだしている。
その様子を1時間くらいみていたけどその間もずーっとしている。
その場を立ち去って酒場でビールを飲みながら「長いなぁ、実に長いなぁ」と独り言を言った。
後でまた見に行ったら、さすがにもう男女は居なくなっていたよ。
という内容。
独り言も面白いけど、1時間立ち見、さらにもう一回また見に行くっていうのも面白い。
茂吉さん、見すぎ。
わりと有名な名著といわれる本を読んでいないなぁと気がついたので。
キチンと読んでみたいなぁと思いました。
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[ 内容 ]
著者がいつもそばに置き、くりかえし読んでいる、新井白石から斎藤茂吉までの十人の作品。
本書は、それぞれのどの作品がどう好きか、どうすぐれているかを、その人となりをまじえて解説する。
[ 目次 ]
新井白石―自分の優秀さをみずから書きのこした大秀才
本居宣長―神がかり的でもあり合理的でもあり
森鴎外―「満点パパ」と冷徹な創作家と
内藤湖南―日本初の大学出でない大学教授
夏目漱石―『坊っちやん』は「探偵・恋愛小説」である
幸田露伴―俳諧の注釈にすごみをみせた稀代の博識
津田左右吉―処世のへたな独歩の人
柳田國男―『遠野物語』をめぐる二つの立場
寺田寅彦―「仙骨」を帯びた漱石門下の異才
斎藤茂吉―にじみ出てくる可笑しみ
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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週刊文春での連載が終わって以来、高島先生の文章を目にすることがなくなって本当につまらない。毎回楽しみだったのになあ。
これは本の雑誌の企画から生まれたということで、実に本好きにはたまらない内容だ。新井白石・本居宣長・森鴎外・内藤湖南・夏目漱石・幸田露伴・津田左右吉・柳田国男・寺田寅彦・斎藤茂吉、この十人について、文章の味わいを中心に人となりまで縦横に語られていて、みんなその作品を読みたくなって困る。
一番かっこいいと思ったのはやはり前から好きな寺田寅彦だ。高島先生の言われる通り、何を読んでもハズレがなくて面白い。死の床につく直前まで至極活動的だったというのは初めて知った。鴎外も白石も茂吉も、へぇーというエピソードが随所にあって本当に楽しかった。
著者は目を悪くされていてこの本も口述筆記だったそうだ。新しい本が出るのは難しいのだろうか。もっと読みたいなあ。
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「好きなもの 苺 珈琲 花 美人 懐手して宇宙見物」これは寺田寅彦の言葉ださうだ。巧みなユーモアと人物そのものが現れていてをかしい。この本には新井白石から始まり、柳田國男、斎藤茂吉に至る10人の文章、著書、人物が高島氏独特の言い回しで紹介されている。
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高島俊男による「わたしの好きな著作家ベストテン」。下記がその10人。数字は生没年。★は私の個人的な「勉強になった指数」です。
新井白石や本居宣長などは、高校の日本史の試験勉強で名前をおぼえたぐらいですが、この著者の手にかかると、歴史的背景や個性的キャラが立ち上がり、実に面白かったです。
新井白石 1657-1725 ★★★
本居宣長 1730-1801 ★★★
森鷗外 1862-1922
内藤湖南 1866-1934 ★★
夏目漱石 1867-1916 ★
幸田露伴 1867-1947 ★
津田左右吉 1873-1961 ★★(仏像を不気味に感じても変じゃないんだ、と安心させてもらいました)
柳田國男 1875-1962
寺田寅彦 1878-1935
斎藤茂吉 1882-1953
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名言集のようなものかと思ったら違った。サブタイトルの通り高島先生が好きな文章家10人について語るもの。歴史の授業等で名前しか知らなかった人たちの生き方が面白く分かる好著です。
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これまた、渡邊十絲子さんオススメの一冊。
森鴎外がそんなに家庭的なパパだったとは!
斎藤茂吉がユーモア溢れる文章を書いたとは!
10人の文章家の知られざる面を知ることで、どうしてもその文章が読んでみたくなってしまう。
とりあえず、『折たく柴の記』と『遠野物語』を、その次は『寺田寅彦随筆集』を。
またまた読みたい本が増えてしまった。
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東京の漢学と京都の支那学の比較は面白い。また、津田左右吉や内藤湖南についてのエッセイもなかなか面白い。文章の風格ゼロだが、この著者にそんなことをとやかく言っても始まらん。
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「お言葉ですが…」シリーズで知られる著者が、敬愛する10人の文章家について、それぞれの魅力を語った本です。取り上げられているのは、新井白石、本居宣長、森鴎外、内藤湖南、夏目漱石、幸田露伴、津田左右吉、柳田国男、寺田寅彦、斎藤茂吉です。
「あとがき」によれば、著者が初めて語り下ろしに挑戦した本とのことですが、いずれも思い入れのある文章家だけに、1冊の本の分量にまとめるのに相当苦労したことが書かれています。著者や担当編集者の苦労はたいへんだったのでしょうが、できることなら著者に思う存分語らせたものを読んでみたかったという気がします。
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本書は、名文のサマリーではなく、著者の好きな作家の紹介文である。夏目漱石、柳田邦夫、斉藤茂吉、森鴎外などの近代日本を代表する作家を、著者がどのように愛しているか、理解しているかということが書かれている。柳田を小説家と理解していたり、漱石の坊ちゃんを探偵と愛の小説であると主張するようなユニークな捉え方は興味深い。しかも、それらの理由が、回りくどいともいえる深遠なものであり、近代小説好きには面白いと感じられるのではないか。 本書を読んで、自分がいかに、明治、大正の時代の小説家たちの作品を読んでいないか、あらためて気がついた。そもそも小説はあまり好きではないから仕方ないが、明治、大正の文豪たちの小説もたまには読んでみようかという気にさせられた。