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紙の本
それぞれの正義。
2008/06/12 07:27
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オレンジマリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
400ページ以上もある本書を、半日で読破してしまった事には自分でも驚いた。夢中になって、地下鉄での移動中も重たい本書を持ち運んで読み耽った。本多氏の、期待の一冊である。
ただのいじめられっ子ではなく、相当ないじめられっ子を要に展開されていくストーリーである。おぞましいいじめっ子だった畠田が、輝かしく楽しいはずのキャンパスに居た時の主人公の衝撃、手に汗を握ったくらいだ。不意に助け舟があり、主人公の生活は瞬く間に変わっていった…。
等身大の大学生活が描かれ、有り得そうな事件に有り得そうな設定。一物語としてではなく、もっと近いところから読める。弱いと決めてかかっていたのは主人公本人だけで、実はいじめ抜かれた先に得られた強さが買われて不思議な部へと導かれる。主人公が導かれた部は、キャンパスの平和を保ち続ける事。いくつかの事件を解決し、主人公はこれまでに無かったような歓喜を知る。仲間、友達、恋愛、先輩、希望、正義…。
上中下で言うと、下のカテゴリーに入る家庭で育ち、そのやるせなさや不公平さに食いしばる。人間の自然体ではないだろうか…。誰だって、自分の属さない世界は眩しく見える。奇麗事ではなく、もっとお金持ちだったら、由緒ある家庭に生まれていたら、もっと顔立ちが整っていたら…世界が違っていたかもしれない。誰しもが抱え得る感情を、包み隠さず主人公は訴える。大学進学にも苦労するような家計…。大多数の人の身に覚えがあるだろう。多くの人が共感できる感慨を、主人公は惜しげもなく表現している。
日本に限らず、世界中にそういう感情を抱いて、悔しい思いをして生活している人々は大勢いると思う。けれど、自分なりに懸命に生き抜いている。本書の主人公はそれを事細かに、そしてリアルに宿している。今属している世界から、どうやって出世していけるか考えあぐねている人だって、多いだろう。それがゆえに、法的に間違った方向へ向いてしまう人もまた、然りである。
人に手を差し伸べるもまた勇気、そして正義の一つであるけれど、踏み止まり、自身が身を置くべき場所を見極めるも勇気であり、正義の一つでもある。主人公が抱えていた葛藤全てにリアリティが感じられ、そして他人事としては考えられないものだった。社会的にさして強くも無く、けれど決して負けんとするその姿勢。自殺であったり、無差別殺人であったり、悲惨な報道が絶えない社会の奥底の一部であろう人間の心情が汲み取れる。そしてそれが深刻に重過ぎず、小説らしい軽やかさを滲ませているのは、本多氏の能力の証だと思う。展開や言葉遣いに吹き出しつつ、現代社会を自分なりに考えて読めた一冊だった。
紙の本
大学生の「今」を書かれた一冊
2008/03/02 01:20
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:一愛 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「人を傷つけない」そんな当たり前のことが守られていない世の中、正義を貫き死守する大学時代の青春物語。
高校時代までいじめられ続けた主人公にとって、人を傷つけるのは許せないことであったため、正義の味方研究部に喜んで入部をする。大学内でおこる様々な小さな事件を解決していくにつれ、悪いことを正す、部活の先輩達の姿にも憧れや尊敬を抱く。
しかし、閉ざされた学校の中でどれだけ平和に生きても、社会に出ると上など星の数ほどいる。ましては三流大学。勝負は始めから決まっている。
どれだけ頑張っていても結局つまらない未来しか見えない、そんな大学の内をとりまく不安の渦が見え始めた頃、主人公は間先輩と出会いその不安をぶつけた。すると先輩は思いもよらぬ言葉で主人公の心を大きく揺らす。
相撲で勝てないなら百メートル走で競えばいい。
相手の土俵なんかに乗らず、自分のレールを作ればいい。
間先輩との出会いが主人公の心を変えていく。
正義、悪、恋愛、心理、そして世の中の不公平。
それらに直面した主人公の成長が描かれた、
本多さんらしい心の綺麗になる一冊です。
紙の本
正義の負け犬
2012/10/07 17:13
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Tucker - この投稿者のレビュー一覧を見る
いじめられッ子の主人公、蓮見亮太。
が、大学に進学すれば、そんな生活ともおさらば。
なぜなら、元々、大学進学率の低い高校の上、同じ高校からの受験者がいない事を注意深く確認した上で受験したから。
大学でもいじめっ子はいるだろうが、高校時代の経験から、その見分け方なら身に付いている。
そんな連中と関わらなければいい。
バラ色の学生生活の始まり。
・・・と思いきや、よりによって一番タチの悪いいじめっ子だった畠田が同じ大学に入学していた事が判明。
しかもまた、捉まってしまう。
明るい学生生活は儚い夢だったのか、と諦めかけたその時、「救世主」が現れる。
助けてくれたのは、桐生友一。
高校ボクシングのインターハイ3連覇の肩書きを持つ猛者。
友一に助けられた後、訳も分からないまま、とある部室に連れてこられる。
その部室の看板には、こう書かれていた。
「飛鳥大学学生親睦会 正義の味方研究部」
その名前からするとオタク集団を連想するが、学生自治会以上、警察未満といった感じのグループ。
大学内のトラブル(特に警察沙汰にすると被害者まで傷付くようなケース)を監視し、仲裁する。
いじめられていた所を助けられたのがきっかけだったが、亮太は、この「正義の味方研究部」に「スカウト」されたのだ。
部員は5名。それぞれ、腕力・知力・交渉力などで図抜けた能力を持っている人たち。
自分は一体、何が買われたのだろうとクビをひねる亮太。
友一曰く、「ディフェンスにおいて、ほぼ完璧。攻撃も身に付ければ鬼に金棒」
高校時代、いじめられ、殴られ続けた事で(悲しいことに)ダメージを最小限にする方法を自然と身につけていたのだ。
自分が役に立てる事があるのだろうか、と思いいつつ、6人目の「正義の味方研究部」メンバーとして活動を始めることになる。
個人的には「正義の味方研究部」には、何よりまず、「危うさ」を感じてしまった。
その設立の経緯、これまでの活動内容を見ても、その名に恥じる事は何もない。
が、これから先は?
「正義の味方研究部」が暴走した時、それを止める仕組みがないのだ。
そうでなくても、わずかだが「上から目線」的なものを端々に感じてしまう。
最後まで読み進めると、どうやら部長を選ぶ際に歯止めになりそうな人物を選ぶ事になっているようだが、それもルールとして明確に決まっているわけでなく「申し送り事項」のようになっているだけ。
その条件とは「かつていじめられッ子であった事」
いじめられる「痛み」を「自分の痛み」として知っている者でなければならないようだ。
が、その条件も一歩間違うと「復讐」に向かってしまう危険性もある。
亮太も最初のうちは無我夢中だったが、ある大きな事件を契機に「正義の味方研究部」に違和感を感じてしまう。
かつていじめられッ子だったせいか、「悪」として叩かれる側の事情も理解できるのだ。
相手がやっている事は悪い事であり、見逃してはいけない事、未然に防ぐべき事ではある。
が、だからと言って、即、ルール違反と言って叩いてよいのだろうか?
自ら好んでやった者と他に選択肢がないからやった者を一緒くたにしていいのだろうか?
「1つの間違いを怖れて、9つの悪を見逃すのは間違っている。
ただ間違えた方にとっては10の中の1つだが、間違えられた方にとっては、それがすべて。
そして、自分は間違えられる側の人間だから、「正義の味方研究部」にはいられない」
という旨の亮太のセリフが印象に残る。
そのセリフに共感を覚える自分も「間違えられる側」の人間なのだと思う。
紙の本
弱きを助け強きをくじく正義のミカタとはなんぞや
2007/05/28 16:23
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
本多孝好の書き下ろし小説はストレートな青春小説。
高校3年間をいじめられっ子で過ごした亮太に
人生で最初の友だちと仲間ができます
筋金入りのいじめられっ子だった亮太は
その暴力の日々から、自然と防御の天才となっており
「強い人間」しか入れない「正義の味方研究部」に
入部が許されます。
「正義の味方研究部」というのは「正義の味方とは?」
「正義の味方というのはどういう存在であるか」を研究する部。
結局のところ警察沙汰にはならないが
学内で起きた小さな揉め事を解決するクラブのこと。
その創立に至る過程や正義の味方研究部が解決する問題に
大学生による複数レイプや、和姦問題、
留学生の集団失踪、学生起業といった時事ネタを
うまく盛り込んでいます。
本多孝好は物語設定とキャラクター造形がうまい。
この小説でも亮太のいじめられっ子ぶりや
正義の味方研究部の強い個性、
ちゃらちゃらした学生の挙動や
学生起業家の人柄や思考などは完璧におもしろい。
しかし終盤、亮太と正義の味方研究部との対決があるのですが
それが暴力になってしまうのはいただけない。
ただ「正義の味方」に居心地の悪さを感じ、
その理由を亮太が悟っていく過程は読ませます。
ちょっとかっこ悪いけれど、
亮太らしい人生を歩んでくれそうな予感に
満ちたラストはホッとさせます。