紙の本
含蓄ある分析が随所に光る良書
2009/08/17 13:19
14人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
大学の研究室から外交の現場へと身を移した著者の2年半の体験から、国連の現在と未来を論じた論考集。「世界にはアメリカを頂点とするシステムができあがっている。なぜアメリカが世界一なのか。それはアメリカが、最高の待遇をすることによって、最高の才能を集めるからである。言い換えれば、個人の能力を開花させることにおいて、アメリカは世界につながるシステムを形成している。これをアメリカ・システムと仮に呼ぶことができる。もっともわかりやすいのはスポーツの世界である。オリンピックの野球チャンピオンと、アメリカのチャンピオンとどちらが強いか。バスケットボールのオリンピックチャンピオンと、アメリカのチャンピオンとそちらが強いか。もちろんアメリカのほうである。国際政治の場でも、断然強力なアメリカを中心とするシステムができあがっていて、国連常任理事国の中でもアメリカの地位は圧倒的である。なぜならアメリカの軍事力なしに大きな紛争を処理することは不可能だからである。かくして国連はアメリカ中心に動かざるをえない。しかしアメリカは国連が嫌いである。それはアメリカがたんなる国家ではなく、ひとつの世界システムであって、(国連と)相互に衝突するからである」「日本は国連分担金の16.6%を支払っている(2006年までは19.5%)。これはアメリカの22%に次ぐ。他の常任理事国は英国が6.6%、フランスが6.3%、中国が2.7%(途上国扱いのため)、ロシアが1.2%である。私には安保常任理事国入り慎重論(実質的には反対論)は現金自動支払機外交推進論としか思えない。」「日本は2005年1月から非常任理事国を務めている。安保理の活動に参加していると、安保理にいるということが、いかに特権的な地位であるか、よくわかる。なかでも常任理事国の特権は圧倒的だ。非常任理事国であっても、そのメリットは相当なものである。情報の集まり方が、ぜんぜん違う。安保理のメンバー国と非メンバー国では、政治家でいえば有力閣僚ないしは党幹部と一般議員くらいの違いがある」「(湾岸戦争とその後の自衛隊海外派遣容認へと傾いた日本の世論の変化は、日本社会党や日本共産党が掲げた)一国平和主義の敗北を象徴する事実であった」「通常戦争をすれば責任者を処罰して(極東軍事裁判)、国境線を引きなおし(朝鮮半島や台湾の放棄)、賠償金を支払って(東南アジア諸国向けに日本は莫大な賠償金を支払っている)、それで終わりである。それが国際常識である。日本はそれを全部やってきた。中国には賠償金を支払っていないが、それは中国が放棄したからである。それに比べ、アメリカはヴェトナムに謝罪や賠償をしただろうか。中国は1979年にヴェトナムに攻め込んだが、これについて謝罪や賠償をしただろうか。植民地支配についての国際水準はどうか。イギリスやフランスやオランダが、旧植民地に対してどのような謝罪や経済協力をしたか、そしてその成果があがっているか、疑問なしとしない。」
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投稿者:ハム - この投稿者のレビュー一覧を見る
国連ができることとは何なのか。まとまりを欠いて、重要な決断を出来ないことが最近多いように思う。国連について勉強になった。
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外交は、社交ではなく、知的格闘技、だって。いろんなものを背負って、戦ってくれてる人がいるんだ。強くてかないそうもない大人を見ることがあると、うれしくなり、わくわくし、安心する。がんばろうと思う。
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コラムを集めたものを新書化。「日本は常任理事国に入るべき」という明確な主張はがあった。ただ、筆者が述べるその根拠、つまり国連に経済的貢献をしているからとその主張のつながりが見えなかった。また、なぜ日本という国が特別に国際社会に貢献できるかという疑問にも明確にこたえ切れていなかった。あとは、著者が経験してきた国連の仕事と靖国などの著者の歴史認識の列挙にとどまる。
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国連次席大使を務めた北岡伸一氏の、国連に関する著作。
もっともinternationalで一番のマルチ外交の場である国際連合における、「政治力学」を描き出してある本である。日々の安保理における活動や、安保理改革運動についての記述は実に興味深い。
中国に対する北岡先生流の反論、北朝鮮問題に対するアプローチは、まさに北岡伸一「らしい」記述であり、北岡伸一個人としてのハッキリとした態度を示すあたり、単純な保守とは一線を画していて実に気に入っている。決して思考停止には陥らないこと。そういったことが非常に重要であることを気づかされる。
気軽に手に取れて、北岡氏の思考を丁寧に読むことができる貴重な本。
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具体的。
文章読みやすい。
安保理改革に実際に携わった方の著書なので
雰囲気をつかむのにすごく助かります。
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[ 内容 ]
国家を超える結束の場として構想された国連が誕生して六十年。
冷戦とその後の激動を経て、その地位と役割は大きく変動した。
国際社会でアメリカ中心のシステムが機能するなか、国連は世界の平和と安全の維持という最大の目的を果たしうるのか。
また、一九二の「対等」な加盟国をもつ組織の意思決定はどうなされているのか。
研究室から外交の現場へ身を移した著者の二年半の体験から、国連の現在と未来を照らし出す。
[ 目次 ]
1 国連システムとアメリカ・システム(世界の中の国連、国連の中の日本 二〇〇五年世界サミット―総会のダイナミクス 戦後日本外交と国連)
2 国連代表部の仕事(外交という仕事 国連代表部の多忙な一日―二〇〇五年一月十日 安保理の多忙な一ヵ月―二〇〇五年七月 安保理視察団)
3 安保理改革の軌跡(安保理常任理事国入りの大義―二〇〇四年十一月 中国の日本批判に答える―二〇〇五年四月 改革はなぜ停滞するのか―二〇〇六年三月)
4 これからの日本と国連(グローバル・プレーヤーの条件―二〇〇六年三月 北朝鮮問題と国連)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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外交は説得と交渉によって合意に達するアートである。力だけでなく、説得が必要になる。重要である。詳しく自体を把握し、彼我の立場を十分に検討して、合意点を探ることが必要である。
インターネットによる日本の常任理事国入りは反対署名には、同じ名前の人が頻繁に1秒で40回も登場したりする。つまりネット攻撃されているのだ。
北朝鮮問題について万能薬などない。中国との関係は重要。
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〈メモ〉事実として、国連本部はアメリカに位置している。このことは常に意識しておきたい。
国連は60年余の歴史を持つが、米ソ協調期、冷戦時代、冷戦以後という3つの時代に、その役割は大きく変わった。p72
一部に、日本が常任理事国に入って、国連はどう変わるのか、あるいは、日本は常任理事国になれば、どのようなことをするのかと尋ねる人がある。私は、これは問題の立て方が間違っていると思う。現在、日本は、常任理事国のすべてとは言わないが、そのいくつかの国を上回る貢献を、すでに行っている。つまり、日本は常任理事国になっているのが当然なのであって、現状は差別を受けているといっても過言ではない。常任理事国入りは、この差別を是正するだけのことである。p74
〈メモ〉現場での職務の経験を軸にして書かれているので、臨場感・リアリティがある。日本政府国連代表部次席代表
鳩、ぴーす、うぉー、国連p79
知的格闘技としての外交p80
【サックス・レポートの要望】
先進国から途上国への資金の流れをともかく増やすことが必要であるといい、一人当たりGDP比0.7%を先進国は出すべきである。p128
日本の援助に哲学があるとすれば、それは「自助」である。明治以来、敗戦後の一時期を除き、日本は外国の援助なしに発展した。自ら努力する国を助けること、言い換えれば、主役は現地の人であって、国際社会ではないということが、重要だ。これをオーナーシップと呼んでいる。日本は堂々とオーナーシップを主張して、腐敗した政府はバイパスして、村おこし、教育、病院、井戸掘りなどをやっていくことがよいと思う。p177
日本のような、核を持たず、アジアの国であって、途上国経験を持つ、シヴィリアン・パワーが、安保理の常任理事国となることは、重要であり、むしろ日本の責任というべきだろう。それはたんなる日本の国益を超えた、世界秩序に対する日本の責任である。こうした大義があり、ある程度の展望があるとき、日本は当然、全力でこれに取り組むべきであろう。p206
小泉首相は、靖国神社に参拝するたびに、「あの戦争は誤った戦争だった、自分は戦犯を拝みに行くのではない、戦争に行かざるをえず、戦場で倒れざるをえなかった無名の兵士のために行くのだ」と述べている。p224
今、国連では、エンクローチメント(浸食)という言葉がはやっていて、安保理による総会権限の浸食が懸念されている。p237
二国間関係を持ち込むな、というのは、国連の基本ルールである。p240
外交はお金と違う。お金は使えばなくなるが、外交は適度に使えば、さらに強化される。筋肉を適度に使えば発達するのと同じである。p247
日本のPKO参加はずいぶん少ない。要員派遣国のトップは、バングラデシュ、パキスタン、インドである。ヨルダン、ネパールなども多い。こうした国々は、生活水準の高くない国である。PKOには兵士一人あたり月1000ドル程度の資金が出る。すべて兵士のものになるわけではないが、それにしても、これらの国々にとっては相当の水準である。したがって、PKOの主力は、途上国となるのである。p268
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できれば日本がG4を超えてで動くならばどういった選択肢があるのか、をもう少し読みたかった。
総じて現場の雰囲気が伝わってきて、すらすら読める。
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国連の現状と日本の外交政策に関して、国連の場を実際に経験した筆者が書いた本。印象に残ったのは、「外交は筋肉のようなもので、使えば使うほど強化されていく」という言葉である。
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国連に次席代表として席を2年半置いた著者が
国連の簡単な仕組みから、各国と渡り合う日々、
安保理の現場を臨場感を持って伝える一冊。
さすがに現場経験者だけあって話に説得力があり、
国連を少し身近に感じられた。
やや日本の力を過評価しているのではないかという面もあったが、
国連に働きかけ、国連の行動に影響を与えていくという主張には
納得できた。
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[unknownからUN knownへ]ときに期待をもって、ときに失望をもって語られる国際連合。次席大使として、アカデミックの分野から国連における実務の分野に飛び込んだ著者が目にしたものとは、そして日本が国連でなすべきこととは......。実体験を踏まえて書かれた国連の入門書です。著者は、日本政治史及び外交史を専門とされている北岡伸一。
概説的な紹介と著者自らの体験談が一冊に収められているため、多角的な視点から国連について学ぶことができます。巨大すぎて何が行われているのかわかりづらい組織であることは間違いないのですが、その巨大さが何から構成されていて、どのような役割を果たしているかの一端は本作で大まかなりとも把握できるかと。
〜どちらかといえば国連の枠外で起こった日本の発展と東アジアの発展の経緯を、国連を通して世界に提供していくことが、日本と世界の利益にかなうと考える。〜
一度足を運んでみたいものです☆5つ
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政治学者である著者が実際に国連で外交官として勤務していた経験を綴った1冊。
2007年刊行の本なので少し古いが、実際の現場の様子がわかりやすく書かれていて、読んでいて楽しかった。
この本を読んで実際の様子と日本のメディアが報道している内容は随分と違うのだな…と感じた。
日本のメディアは優秀な人材を潰したり貶したりすることが多く、それに迎合する国民が多いことはある意味で国益に反する、との著者の意見は正しいと思う。
そういった「国民」にウケそうな報道をするのだろう。
国連の予算の20%ほど(当時)を負担しても日本は常任理事国にはなれない。大国も小国も1国1票の投票権。
この本の時点で既に12年ほど議論されていた国連の安保理改革が未だになされていないことを考えると国連不要論に傾きがちだが、それなりに機能している部分もありますよ…ということは理解できた。
中国の日本批判に対する現実的な意見が特に良かった。
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保守派政治学者北岡伸一が国連大使として外交実務に携わった際の記録。想像以上に生々しい現場が垣間見えて、自分の中の国連のイメージがガラッと変わった。
Ⅰ国連システム
米国よりも途上国の方が強いのではと思える程に平等主義が徹底されているようだ。日本の分担金負担も重く、それに見合うだけの発言力の必要性を感じた。経済協力はそうだが、人間の安全保障が日本中心の発想だったことは驚いた。
Ⅱ国連代表部
国連に居る外交官は選りすぐりで、その中で激しい知的競争が行われていることが分かった。電話や交渉、会議を繰り返し、利害のすり合わせへと持っていくのは一苦労だろう。安保理での活動(特にハイチ・スーダンへの視察)は体力的にもきつそうだった。その中でも筆者は知的な仕事を魅力的に感じたという。
Ⅲ安保理常任理事国
筆者の歯痒い思いが伝わってきた。国連で日本の存在感を増すには常任理事国入りは必須だろうが、本交渉では米中の思惑やコーヒークラブ(初耳!)の反対をかわすために悪戦苦闘した結果、結局アフリカのよくわからない要求のせいで頓挫するという残念な結果に終わってしまった。G4は日本にしては画期的な戦略だとは思うが、安保理や国際関係の原理上なかなか難しいものがあったのだろう。
Ⅳこれから
キーワードはODA、PKO、安保理。筆者は国連重視を強調しているが、日本の経済低迷、少子化、アジアの台頭、米中対立を鑑みるに日本の国連での存在感(特に経済協力)は段々と薄れていくと思う。そういう意味では2005年の交渉がラストチャンスだったのかもしれない。ただ、最近は国連外の多国間連合(ASEAN/TPP)で日本が主導できる場所が増えている。そういう場所で巧みな外交を展開できれば国力低下を緩和できるかもしれないと思う。もう20年前の本なので、アフリカはもっと親中だし、日本の分担金は減った(19%→8%)。気候変動でも後れを取った日本が次にリードできる分野は何なのだろう。