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紙の本
戦いとその敵
2008/03/01 15:02
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、タイトルに示されたように、「ミステリ作家」と一般に見られがちな松本清張を、「純文学」に対する果敢な戦闘者として描き出し、返す刀で
、(当時で言えば、例えば「第三の新人」のような)「純文学」を主線とした文学史(記述)にも実践的に再考を迫る書物である。その意味で、本書の執筆者藤井淑禎もまた、闘う研究者だといえるだろう。そもそも清張のデビューは、直木賞候補となった後に芥川賞を受賞するといった具合に、脱=文学ジャンルの書き手として、両義性を刻み込まれたものであったはずだ。
もちろん、ヒューマニズムや政治、歴史に眼光鋭く切り込み、その帰結として高い結晶土と緊張感をたたえたミステリーが清張によって多く発表されてきたのだが、それに関する外部の議論は、ミステリーというフレームを自明視して清張を読むばかりで、そのことで視野狭窄になっていることに、とても意識的とはいえない状態だった。しかし、本書を読めば、そうした理解が実に皮相的で浅薄なものかがよくわかる。確かに、「第三の新人」は第一次戦後派と大江・石原に(芥川賞手ビュー期を)挟撃され、地味な作風でうってきたが、近年、彼らの内の数名がが文壇の「大御所」として他界していったのは記憶に新しい。つじゃり、保守本流とでもいうべき「純文学」という精緻は、正統的な芥川賞受賞者である「第三の新人」によって担われてきたといえるだろう。実際の文壇政治としても、文学的理念としても。
ここで、今日、松本清張と「第三の新人」の注目の集め方に関心を移してみるならば、その明暗はあまりにも明らかだろう。ただ、ここで忘れてはならないのは、そうした松本清張の文学的キャリアは、本書で藤井が指摘するように、理念としての、また、現実的な存在としての「第三の新人」(さらには、文学観を共有する諸先輩作家)を仮想敵、時には可視化された明確な「敵」との対峙・超克への意志によって、生み出されてきたものだというのだ。本書は、その具体的様相を、研究者らしい精確な小説の読解と、文壇的コンテクストや他作家・他作品との検証を通じて、鮮やかに描き出していく。その軌跡は、ともすると、「第三の新人」よりも「純」で、外見をミステリーというジャンルに覆われながらも、その実、すぐれて(純文学的な意味での)文学性に富んだ作品でもあったように思われる。
こうした事ごとに気付かせてくれる上に、その先でどのように清張を読むべきかを示唆した本書の議論は、清張「研究」の出発点であると同時に、早すぎた金字塔ということになりそうである。
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