紙の本
秋はゴシックの気配
2007/11/19 15:14
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:うみひこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
かさこそと足下で枯れ葉が音を立てる季節の今こそ、
イーディス・ウォートン描くこの『幽霊』の世界を訊ねるのには、
ふさわしい様な気がするのはなぜだろう。
秋のように、セピア色にくすんで行く世界こそ、
ゴシックな季節からなのかもしれない。
ここで繰り広げられるのは、ゴシックロマン好きなら、
誰でもたまらないうずきのようなものを感じてしまう
「お屋敷」に関する物語だ。
例えば、無人のお屋敷の敷地に主人公が足を踏み込む。
読者であるあなたも溜息をつきながらその後ろに付き添う。
だめ、その扉を開けては、だめ。
そんな必死の声も届かぬまま、扉は、やがて開けられる。
そしてそこで、主人公が見たのは…。
だが、この『幽霊』という短編集の中で、屋敷に絡んで語られ
るのは、霊感を持つ人や幽霊が見えるような特殊能力者だけが知
ることのできる、あちら側の世界の物語ではない。そっと扉を開
けて、古い屋敷の庭先まで入ったのだけれど、何か嫌な気分でそ
こから先に行けなかった、そんなあなたが感じたような、
恐怖と気配についての物語なのだ。
例えば、最初の物語の舞台はフランスのブルターニュにある
「カーフォル」の屋敷。ここで主人公が最初に出会ったのは、
静かに、でも頑固に通せんぼをする、一匹の可愛い小型犬。
でも、もう一匹の犬が現れたとき、主人公は、おや、と思うのだ。
そこから、謎が現れてくる。やがて、一種の謎解きが行われるのだが、
それは、この世の側での、人間界でのできごとにすぎない。
主役は、あくまで、カーフォルの屋敷とその庭へ入り込んでしまった
「わたし」と、犬。
犬好きの人にもかなりお薦めのこの物語を読めば、
イーディス・ウォートンのいう「気配」を感じることができるだろう。
長い間憧れであった、イーディス・ウォートンの短編集『ゴースト』の翻訳。
この『幽霊』では、さらに二編の短編が追加されている。
この七編の短編の中に書き込まれた彼女の描いた恐怖と気配に、
秋のような耐えられない寂しさを思わず感じてしまうだろう。
紙の本
古城の旅
2007/08/24 21:32
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:うさちゃん26 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヨーロッパの古城を旅した人や、邸園を散歩した人なら、風景描写で目に浮かぶ物があると思う。幽霊は、化け物ではないので、おどろおどろしい物ではなく、この世に思い残したことを人に伝えたいと願う心であろうか、、、、、。一つ一つのストーリーは短いが、夏の夜にゆっくり読めた。
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後ろが気になってしょうがない、そんな忍び寄ってくるような怖さは皆無。静謐さ漂う時代、空間表現はさすがだなぁ、とは思うものの、ストーリーに目新しさは感じられず、全体を通して、ややもの足りない気がする。ただ、このレベルなら十分、珠玉の短編集と呼べるかな。
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エイジ・オブ・イノセンスの原作者として有名な
イーディス・ウォートンのゴシックロマンス作品集。
『カーフォル』『祈りの公爵夫人』『ジョーンズ氏』
『小間使いを呼ぶベル』『柘榴の種』
『ホルバインにならって』『万礼節』が収録されている。
いずれも映画のワンシーンとして登場しそうなほど
具体的な描写で想像力をかきたててくれる。
明るい真昼の幽霊ってのは日本的な感覚ではないなぁ。
それがとても興味深い。
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読書日記。
幽霊はGに似ている?
いるかいないかよくわからない。
が、つねにいるのではないかと疑いは抱いている。
出会うときは夜中が多い。
ふと気づいたら、いる。
いきなり出会うことになるので、どこか驚愕する。
こわがっている人ほど出会いやすい。
探しているときにはなかなか見つけられない。
ことに悪さをしていないように思われるのに、なぜか恐ろしい。
古めかしい洋館よりも、むしろ現代的な住宅に出たときの方が恐ろしい。
出会う機会は減ってきている。
さてじつはこの文、イーディス・ウォートンの「幽霊」という短編集の読書感想なのだ。
この品のいい物語群をゴキブリと対比するのも申し訳ないが、なぜかあの黒光りするヤツを思い出してしまったのだ。
それで、類似点を考えてみたのだが。
最近の恐怖モノは、怖がらせることにはおそろしく進化している。
しかし、どこかガサツでもある。
びっくり箱的であり暴力的でもある。
情緒はない。
幽霊はやっぱり情緒的でなければねと物足りなく感じられる方には、こういうしめやかな幽霊譚はおすすめできる。
さほど怖くはないが、ファンタジーとして上質かと。
ことに好きなのは犬が出てくるやつ。
くわしく書くと興ざめなので、ここまでにとどめておくが。(2010年02月04日読了)
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いわゆるひとつのゴーストストーリーの短編集。家付き幽霊の話が中心です。
著者のウォートン女史はデンマーク系の裕福なアメリカ移民とのことで、アメリカ人とはいってもイギリス系の文化の中で育った人のよう。
お金持ちの奥様らしく、上から目線のあとがきが少々うざいですが、作品自体は、素朴で典型的な怪談とはいえ、詩的な雰囲気と美しい場面描写がすてきです。
カーフォル: 犬の青髭の話。幽霊よりも人間のほうが怖い。古い屋敷のたたずまいが美しい。
祈りの公爵夫人: カーフォルと似た設定の話です。いくら政略結婚でも、今ではさすがにこれほど無茶な話はないでしょうね。ラストがポオに似ています。
ジョーンズ氏: ああ鬱陶しい! こんなもんが憑いてたら、売れるもんも売れんがな。これも不幸な政略結婚の話ですが、恨めしいのは女性のほうなのに、加害者の怨念が残るって不思議。
小間使いを呼ぶベル: 忠義者の小間使いの話。せっかくの機転もあまり役に立ちませんでしたが…。これも不幸な結婚にまつわる話。
柘榴の種: タイトルはギリシャ神話のペルセポネの話から。イザナギ・イザナミの神話とか、この手の伝説は世界共通ですね。そういえば、この短編自体がハーンの『怪談』に採録された日本の幽霊話と似たようなシチュエーションなのですが、オチは逆さま。国民性の違いなのでしょうか。
ホルバインにならって: ボケちゃったかつての名流夫人の晩餐会にやってきた老紳士。ここでの「幽霊」は、まぼろしの晩餐会そのものでしょうか。オチが秀逸。
万聖節: とは、お盆のようなものかな。これは厳密にはゴーストストーリーではありませんが、何が起きたというわけでもないのに、いやそれだからこそ、現実にありそうな怖い話です。
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コワイの苦手だけど
ぜんぜんコワくナカッタ
元の文章がそうなのか
訳がそうなのかわからないけど
違和感のある文章が多かった
情景の描写はフツーに読めるし
上流な雰囲気が好きな人は気に入るかもしれない
ただほんとに怖くない
想像してもコワくない
そりゃー死人が出ればコワいけど
ホラーより怪談のほうが日本人の根幹に響くなー
やっぱ日本人だなーと思いながら
ギリギリなんとか読んだ感じ
正直、ちっともおもしろくなかった
洗練された文章だとも思わなかったし
(訳のせいかもしれないけど)
どう?コワいでしょ?
この感じわからないかしら?って
上品なおばさんに押し付けられてるイメージ
品のよい紳士淑女は気に入るかもしれない
個人的には庶民派なのでよくわからなかった
星は2つ
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❖本作には今日的なホラー小説のたたみかけるような物語展開・・恐怖の亢進はない。作品の質感としてはどれも静的で、不穏(緊張感)の高まりによってじわじわ読み手をしめつけるというつくりである・・そんな筆致からさむけを味わう(愉しむ)もの。『カーフォル』は読んでいると霧がこめてくるようであった。『柘榴の種』は既読作かもしれない。最もおもしろく読んだのは『ホルバインにならって』(幽霊譚というより幻覚譚か)。特に最後の場面転換はあざやかで、晩餐会の絢爛の情景を一瞬間に色のない褪せた寂寞の光景に一変させ見事であった。
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図書館でタイトルと背表紙に惹かれて手に取ったが非常に良かった。匂いや光の色までありありと浮かぶ美しい文章、日常に混じり合い陰鬱に影を潜める幽霊の存在。幽霊譚でありながら、深夜よりもしんと静まりかえった秋の午後に読みたい短編集でした。(あくまで上品でありながら)ホラー色の強い「ジョーンズ氏」「小間使いを呼ぶベル」、奇妙な高揚感と哀しみをたたえた「ホルバインにならって」が特に好き。