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紙の本
高任異色の経済小説
2007/12/16 21:28
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
高任和夫といえば、経済小説、企業小説では名が知られている作家である。本書もそのタイトルが『債権奪還』とある。てっきり、企業小説だとばかり想像していたのだが、そうではなかった。『債権奪還』などとあれば、多くの読者が勝手にそのように想像してしまうであろう。
銀行での勤めに嫌気が差して、退職した元銀行員のその後の物語である。最近、高齢化のせいか、企業戦士が退職または早期退職した後の話が多いように感じる。本書も実は企業モノとは関係がない。
他人の退職後の生活など、関係もなければ関心もないという読者も多いであろう。そのタイトルどおりの『債権奪還』に関する小説の方が受けたかもしれない。本書もあまり話題になっていないようだ。しかし、私はこの小説は現実感をうまく描写していると思う。私自身がそういう年齢になったこともあるが、毎日の勤務のなくなったサラリーマンは、抜け殻であるとよく言われている。
毎日朝起きて、行くところがあるというのは素晴らしいことだと感じている退職者は少なくないであろう。勤めている間は、退職したらあれもしよう、これもしようとすべきことを溜め込んでおくのだが、いざ退職すると、そんなものはあっという間に消化してしまうのだそうだ。
この元銀行員の主人公は昔の仲間との飲み会での付き合いが嫌でたまらない。一方で、飲み屋には行って、主人や常連さんたちとの仲間を作っていく。さらに、体調を崩して入院する破目になる。病院での患者仲間もできる。意外に社交的なのである。ここで完全に世捨て人になってしまうと、話が続かず、小説にはならない。
自暴自棄に陥るが拾う神が出現して、少し生きていく希望の灯が見えてくる。それやこれやでようやく退職後の行き方が定まってくるという筋立てである。この小説のタイトルが『債権奪還』である。
バブル崩壊とともに構造不況業種に転落した銀行員の姿を描き、行く当てのない退職後の身の振り方を考えさせる小説である。団塊の世代の大量退職時代には切実な社会問題でもある。退職だけではなく、配偶者の死、子供の結婚によって家族が崩壊する。この一つ一つが短期間に襲ってくるのが、この年代の試練であろう。
本書を読むと、これらが小説だけのものではなく、限りなく現実に近い環境であり、誰もが遭遇する人生の通過点なのかも知れないことが分かるのである。そう考えると、本書の主人公はむしろ成功例なのかも知れない。
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