紙の本
火星への夢
2007/12/23 22:19
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紙魚太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いやー、面白かった。ここのところ、早川書房は、サイエンス関係で良い本をいくつも出している。「エレクトリックな科学革命」、ドーキンスの一連の著作、全部面白いのだが、旨く訳文と読み手としての僕の感性が一致するものは少ない(原文で読めばいいのだろうがなかなか難しい)。この本は訳文も良くこなれており、とても読みやすいことに好感が持てた。2004年に火星に着いた探査ローバー「スピリット」と「オポチュニティ」があげた大きな成果については日本でも多くのメディアが取り上げた。その映像にテレビにかじりついた人も多かったのではないだろうか。本書は火星探査計画「マーズ・エクスプレーション・ローバー計画」の研究代表者が著した、その立案から、火星探査までのサイエンスドキュメントである。あのようなミッションはNASAが最初の立案から最後まで計画を立ててやっているものだと思っていた。しかし、その実際は、日本人の僕たちが想像もできなかった一般公募であった。しかもそれが現実になるまでの気の遠くなるような道のり。火星は距離的にも(光でも10分もかかるのだ!)、夢の現実化への道のりとしても遙かに遠い星なのであった。夢の競争相手との熾烈なプレゼン争い、予算の制限、相次ぐトラブル、。火星に到着するまでの長い道のりと、到着してからの様々な問題。火星に夢を託す人々と、国家の威信をかけたNASAの姿勢。ここに記されいるのは、まさに自分たちの夢の実現にかけた人々の悪戦苦闘と至福の時間の物語である。日本でも是非こんな本を出してほしい。「かぐや」でも「はやぶさ」でも、いくらでも面白い本がかけるはずだ。そんな努力をしないと、なかなか社会の理解と感心は得られない。何年か前に日本のロケット打ち上げの失敗時に、多くのメディアがその損失金額だけを取り上げて避難めいた報道をした。そんなときこそ、「負けるな日本」、「頑張れ日本」とエールを送りたい。日本ももっと世論を得るための努力をすべきだろう。しかし、アメリカの底力は凄いなあ。
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2007/12/3 これは2003年に火星探査を行った「マーク・エクスプロレーション・ローバー計画」の研究代表者が書いた迫真のドキュメント本です。
「マーク・エクスプロレーション・ローバー計画」とはどんな計画だったかというと、火星の上を2台のローバーで探査機を走らせて、火星に水があったことを調査するというプロジェクト。
リアルタイムでは、小耳に挟んだ程度で、どんな計画でどれだけスゴイ発見をしたのか知りませんでしたし、当時はそれほど興味を持っていませんでした。
NASAのプロジェクトと聞くと、天才科学者が集まってすっごく緻密にキチキチっとやっていて、というイメージがあったのですが、この本を読んでそのイメージが覆り、ドタバタの中で必死になんとか回しているというのが分かったとともに、それと同じくらい、いかにプロジェクトに関わる人たちが必死に自分の仕事とこのプロジェクトに夢とロマンを持って携わっているかということに感動しました。
話は著者である地質学者が火星探査プロジェクトをNASAから獲得するところから始まり、後半は実際に火星に到着してからの探査状況の話しになりますが、どちらもダレルところが無くて、ハラハラドキドキのストーリーで読ませてくれます。
宇宙プロジェクトは巨大な予算が掛かっているわけだから、やっぱりプロジェクトを獲得するのも、プロジェクトを変更するのも、書類、会議、プレゼン、予算獲得、根回しなどなどがあり、また非常に政治的な部分もあって、夢やロマンだけじゃどうしようも無いことが山のようにあるんですね。
そして、技術的な問題と予算、スケジュールの兼ね合い。これなんかも、僕らが仕事でやっているプロジェクト物と何ら変わらず、火星探査プロジェクトにも同じ問題があります。というか、当たり前だけですけど、火星なんて誰も行った事が無いし何が起こるか分からない分だけ、非常に厳しい。分からないものをあーだこーだ、みんなで相談しながら、これって決めて進んでいく描写がしょっちゅう出てくるのですが、非常にナマのプロジェクト物ぽくて面白い。
そんな厳しい制約の中で、このプロジェクトは予定以上に素晴らしい成果を上げます。そこは、このプロジェクトに関わる人たちの夢とロマンとプロ根性のおかげですね。NASAのプロジェクトでも結局は人なんだなあ、と見も蓋も無い事を理解することができました。プロジェクトものは結局は、そのプロジェクトに関わる人に行き着くかなぁと思っていたところなので、僕の感覚も間違ってないもんだ、ということが分かり意を決しました。これでプロジェクトものの仕事に復職しても大丈夫だ。何をやればいいかは分かった。
火星や宇宙はNASA好きの人は、もう絶対読むべし。プロジェクト型の仕事に携わっている人も、いろんな示唆を与えてくれると思うので、是非読んでください。そして、ハラハラドキドキするストーリー物が好きな人にも、人が頑張る姿を読んで感動する人にも、ぜひともおススメする1冊です。そして、ドキュメンタリーもの、ノンフィクションものとしても、もちろんおススメ。
僕の���い感想じゃ伝わらないくらい、いろんな方向から読める非常におもしろい本なので、皆様におススメの一冊です。
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惑星探査では世界で最も恵まれた組織であるNASA。しかし、科学者に用意された火星探査機打ち上げ枠は2年に1度。ミッションを勝ち取るためのライバルとの競争、打ち上げまでの絶望的な時間との戦いとなる探査機の開発。本の半分が探査機の旅立ちまでに費やされています。
私たちがニュースで接するのは探査機の華々しい成果ですが、熾烈な準備段階こそがこの本の醍醐味です。探査機が火星に到着してからの手に汗握る探査すら、そのご褒美なのではないかと思えてしまいます。
2台のマーズ・ローバーは、当初予定の90日を大きく超え、2009年現在もまだ、火星表面を走り回っています。
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2003年に打ち上げられ、2004年に火星に着陸し、何と現在も探査活動を行っている2台のローバー、「スピリット」と「オポチュニティ」。火星探査という超巨大プロジェクトの実現を目指す科学者たちの挑戦と挫折、そしてプロジェクト実現への道程を、このプロジェクトの研究代表者であるスティーヴ・スクワイヤーズが描いたノンフィクション。
臨場感ある文章で、読み進むうちにどんどん引き込まれてい。早川書房からの訳本なので、翻訳も申し分ない。
巨大プロジェクトは登場人物や利害関係者が多く、その間の調整に四苦八苦するのは何も宇宙探査に限ったことではなく、そこが自分の実体験と重ねて感情移入できるところなのだろう。火星着陸成功のカタルシスのところなどはグッとくる。
プロジェクトX好きにはたまらない1冊。
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2014年12月3日に、小惑星の岩石を持ち帰るために、はやぶさ2号が飛び立った。
この本はもっとスケールが大きく、火星探査の調査機オポチュニティが、10年以上も稼働していることだ。
気に入った点は2つ。
一つは、ソフトウェア開発のプロジェクトリーダーの立場にいるので、NASAの案件を取る試行錯誤、案件開始後に火星調査機の製造を巡る試行錯誤は、とてもリアルに感じる。
そして、火星に到着後に火星探査機が水の痕跡を求めて調査しているのを地球でフォローしているチームは、まさにシステム稼動後の本番運用フォローの部隊と同じだ。
もう一つは、科学者とエンジニアの宿命的対立と、それを乗り越えた科学者とエンジニアの共同作業による成果の偉大さだ。
つまり、科学者の立場は、真実の探求、自然界の仕組みの探求、制約なしの研究の結果を重視する。理想主義者。
一方、エンジニアの立場は、技術的課題の単なる解決ではなく、最も優れた方法で問題解決する。限られた予算、開発スケジュール、納期の制約の下、「まずまずのところ」で折り合って解決する。がんこな現実主義者。
しかし、科学者とエンジニアは宿命的な対立構造があるが、それを乗り越えたら、偉大な成果が得られる。
そんなエピソードが満載で、読んではらはらドキドキして面白い。
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いきなり打上げからいかない。最初の1/3は火星探査コンペ用の書類作成とコンペ落選の連続。
科学者とはいえ、予算獲得とそのマネジメントにも積極的にならなきゃいけないご時世、夢見るだけじゃいけないんですね。
ローバーたちの活躍は本書の後半でしっかりと書いてあります。
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凄い、火星を探索したローバーを企画して飛ばしたドキュメンタリー。ちょっと長くて冗長なのがたまに傷だが、面白く読めた。
地球から遥か遠くにローバーを届けて運用するのがいかにたくさんの問題に直面するかがわかった。また、プロジェクトってこうだよねとも思うのでよかった。