紙の本
イタリア・バロック期の特異な画家カラヴァッジョの人生と画業を辿る出色の書!
2007/10/21 18:03
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
カラヴァッジョは、近年急速に声価の高まっているイタリアのバロック期の画家である。その多くは、宗教絵画であるが、深い教義が分からなくても絵画自体がもつ魅力で見る者を圧倒する。深い闇の中から浮かび上がる聖母マリア、イエス、使徒たちの姿に天上から差し込む幽玄な光、その光と影の強いコントラストは、将にバロック絵画の扉を開いたというのに相応しい。と同時に、殺伐とした高度情報化社会にあって、カラヴァッジョの絵画が有する深い精神性は心の渇きを覚える現代人に訴えてくるものが非常に大きい。
本書は、そのようなカラヴァッジョの人生と主要な絵画を辿った美術評伝であり、かつその絵画の優れたモノグラフである。
本書を読んで、まず驚かされるのは、この画家の屈折した人生模様である。通常、世界的に評価されている画家は世俗の波に塗れながらも、画業一筋に打ち込んでいることが多いが、カラヴァッジョに限っては実生活における無頼振りが際立っている。その周囲には絶えずトラブルが付き纏い、暴力沙汰、過度の飲酒、いかさま賭博、漁色などを繰り返し、挙句の果てには殺人にまで手を染めている。そして、最後にはそれが基で暗殺者の兇刃に斃されている。当時としても、札付きのワルであり、一種の性格破綻者とも言えるのかもしれない。それにもかかわらず、あのような深い精神性を湛える絵画を描いたのであるから実に不可解である。
著者によれば、このような荒んだ実生活と輝かしい芸術との著しい隔たりは、その絵画制作の手法にあるという。つまり、カラヴァッジョは一端キャンバスに向かうと一気呵成に描くのを常として、その間の集中力はすざましいものがあり、画家の心身に極度のストレスを齎したという。絵画の完成後は、心身の緊張から自らを解き放つために極度の遊興や反社会的な行為を繰り返したのではないか、そうでもしないと身が持たなかったのではないかと推測している。カラヴァッジョの絵画を前にすると、いかに画家が精魂込めて描いたのかが分かり、著者の説に納得させられる。
それにしても、芸術上の頂点を極め、名声が高まった時期に、必ずと言っても良い程、周囲と深刻なトラブルを起こし、石もて追われるが如き放逐される人生を繰り返した様を見ると、やはりカラヴァッジョという画家は典型的な破滅型の芸術家であると思わざるを得ない。そこに、多くの人が魅せられる要因の一つがあるのかもしれない。
著者は、このようにカラヴァッジョの波乱に富んだ人生を辿ると同時に、多くの図版を載せ、初期から早すぎる晩年に至る絵画を丹念に論じている。例えば、前期では丁寧に人物表現が為されており、絵具も満遍なく塗られているが、後期ともなると、タッチは荒くなり絵具も地のキャンバスが見えるほど薄塗りになってくるという。それにもかかわらず、後期の絵には前期以上の妖しい美が輝いているとしている。
著者は、この他にも、ルターの宗教改革に揺れるイタリアの社会状況や、その結果としてバロック芸術が生まれた美術史的な背景も論じており、カラヴァッジョという画家が世に出た必然性にも触れている。
著者は、前著『カラヴァッジョ-聖性のビジョン』でサントリー学芸賞を受賞しており、本書はこの著者にして初めて成った優れたカラヴァッジョ芸術の手引書となっている。
投稿元:
レビューを見る
カラバッジョに対する理解が進み大変おもしろかったです!
「マタイの召命」のマタイが立ち上がる前の瞬間、「聖パウロの回心」のパウロの脳内の変化など、実際にこの目で見てみたいものです。カラヴァッジョが好きになった本です。
投稿元:
レビューを見る
カラヴァッジョの名と絵を知る人で、「あぁ、あの殺人を犯した、放浪の、呪われた天才画家……」といったことを知らない人は少ない、と思われます。むしろそちらのイメージが強烈で、自身の絵画を本気で観賞した人は少ないかも。これは、近年日本で刊行された、彼の生涯を追って作品についても語られるモノグラフ。入手しやすいカラヴァッジョへの入門書として。地図、図版(白黒だけどしょうがない)多数。とても参考になります。私も実は、彼の展覧会、国内で1度しか観たことがありません。でもそれらの絵は、私の想像どおり、というよりは想像を遥に超えたものでした。バッカスとかメドゥーサの絵が有名かもしれませんが、宗教画はものすごい迫力です。生々しすぎる、とも言えるのでしょうか。しかし、カトリック絵画どの場面を考えても、それを描こうとして、画家によっては、生々しくならぬなどということは到底考えられません(ボッシュなどは「特別編」だとしても)。カラヴァッジョの絵は、どれも人物の表情(眼)が印象的です。安易に「殺人まで犯した異端の画家だから」という分析はやめましょう。さて、それでお前さんは好きなのか嫌いなのか、と尋ねられれば…そう、好きです、少なくとも「嫌い」とは言えません。でも、対峙するにはそれなりの覚悟が要ります、その時の体調も選びます(それでも知らぬうちに致命的な一撃を受けるかも)。カラヴァッジョ展を一緒に観て、そのあと東京一おいしい珈琲屋(と私は確信してる)で珈琲をご一緒した、ついでに夕食まで御馳走になったあの方、昨年亡くなりました。これからはカラヴァッジョを観るたびに、彼女のことを思い出すことでしょう。
投稿元:
レビューを見る
カラヴァッジョの作品から人生から全てが分かりやすく書いてあり、絵もたくさん収められていて見やすかった。カラーだともっと良かったけどそれはしかたない。題名ではないがイタリアへ旅に出かけたくなった。
投稿元:
レビューを見る
バロックの画家カラヴァッジョの短い生涯.天才が故に偏屈で怒りやすく殺人事件までおこし、逃亡生活をおくる.しかし支援者に恵まれていたことも事実.マルタ島でみてきます.
投稿元:
レビューを見る
カラヴァッジョの展覧会に行き、そこで彼の生涯が波瀾万丈だったことを知って読んでみた。
イタリアの北から南へ移動して行ったカラヴァッジョの足跡を辿りつつ、それぞれの時代に描かれた絵を解説している。
当時の時代背景や彼の人間性、起こした事件、絵のテーマや鑑賞のポイントなど、わかりやすく書かれていて面白かった。(イタリアの固有名詞は覚えにくくてちょっと辛かったけど)
人生の得意の絶頂に自分でそれをぶち壊しては逃亡を余儀なくされる性格破綻者ではあるが、だからこそ見る者に劇的なインパクトを与える傑作が描けたのかもしれない。
投稿元:
レビューを見る
絵画作品と作者の間には、どこまで関係があるのか。カラヴァッジョの場合、やはり作品と人となりや、その時の状況が大きいように思われた。読んでから、ちょうどカラヴァッジョ展で実際に観ることができたので一層面白く読めた。
投稿元:
レビューを見る
カラヴァッジョの生涯とその全作品並びにその当時に制作されたカラヴァッジョ以外の作品を紹介した、昨日から開催されているあべのハルカス美術館の「カラヴァッジョ展」を観に行く前のお供としても最高の1冊。
恥ずかしながらカラヴァッジョの名前を知ったのはちょうど一年前に「カラヴァッジョ展」のチラシを見た時なんですが、そんな僕でも知ってるフェルメールさんやレンブラントさん、ルーベンスさんもカラヴァッジョがいなければ登場しなかったといわれているようで、まずはそれにビックリ!そして、殺人ほかいろいろな犯罪に手を染めた話は事前に友人から聞いていたのですが、ビックリするくらいくだらない理由で犯罪に手を染めていてその点にもビックリ(笑)。でも、どこか憎めない人間の弱さみたいなのも感じられて、とっても面白い本でした♪
長すぎず短すぎず、マニアック過ぎない程度にほどよく丁寧で分かりやすい文章で説明されていて、西洋美術に詳しくない人でもスラスラ読める感じの本。カラヴァッジョの逃亡経路がちょうどイタリア北部から南部までを横断している感じなので、カラヴァッジョの作品を巡る旅のガイドブックとしても良い一冊だと思いました☆おススメ!!