紙の本
歪んだ反米本。親米大陸が増殖中であることもお忘れなく!
2008/03/16 21:13
22人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
歪んだ本である。著者はいわゆる全共闘世代で、現在は、あの例の「週刊金曜日」にも深くかかわっている御仁である。こういう人物が書いたものであるから、またタイトルからしても、どういう内容かは想像がつくものであるが、読んでみて、まあ、げっそうりさせられるものであった。
まず、断っておくが、本書が己の趣旨に合わせて都合よく切り取った歴史の「事実」の切れ端一つ一つは事実であるということだ。米国の中南米政策は、一言で言えば、アメリカの外交官やCIA関係者が私利私欲と短期的利益のみを目指して、滅茶苦茶やった歴史であり、まあひどいものである。特に、チキータバナナの生みの親ユナイテッドフルーツ社が自社の利益増進のためCIAとつるんで米国の外交政策を壟断した歴史は、傍目に見ても「ひでえなあ」と思えるものヴぁばかりである。ただ米国は19世紀末までは「西部劇」を地で行く国であり、一流の人材は欧州しか向いていなかったので、中南米なんか「どうでもいい地域」と思っていたという事情もある。このあたりの米国の事情含む外交史もきちんと押さえておかないと、なぜ米国の中南米政策が、かくも低級なものに終始したかが理解できないであろう(特に無学のものには)。これは第二次大戦後に米国が行なった崇高な対欧州外交政策(マーシャルプラン等)と比較すれば、「これが同じ国の外交か?」と思えるほどのコントラストである。
米国の外交政策は一般に帝国主義を拒否したエヴァンジェリカルな「正義の政策の体系」であって、およそ私利私欲の政策体系(英国やフランス等の帝国主義)とはかけ離れたものであるといえる。その唯一の例外が米西戦争と、それにともなうキューバ・フィリピン領有の課程で、セオドア・ローズベルト大統領が主導した「棍棒外交」は、いわば米国外交史の鬼子であることは、学のある者には常識の話である。
本書を読んでいると、米国は一貫して私利私欲に駆られた「新自由主義政策」なる「悪の政策」を履行しており、それがゆえに中南米全体を敵に回し、中南米には米国に対する怨嗟の声で溢れかえっているように受け止められてしまう。しかし、こういう「反米史観」は事実は大幅に異なる。
私は1990年代前半に中南米を回った。驚いたのは中南米の貧しさである。当時のアジアは日本を頂点とする東南アジアの雁行的発展のピークあり、大東亜共栄圏が戦後約50年にして現実のものとなったかの状況であった。超円高が日本企業をして東南アジアに集中豪雨的工場移転をおこわしめたのが東南アジア発展の原動力であったのだが、東南アジアに工場を最初に移転し東南アジア発展の契機をつくったのは、実は日本企業ではなく米国企業であって、日本はアメリカの後を追ったに過ぎない。中南米は米国と丁度緯度でいうと日本と東南アジアのような位置付けにある。にもかかわらず私が驚いたのは中南米が経済的にあまりにも米国との関係が薄く、中南米、とりわけ南米は米国ではなく欧州の支配下にあったのだ。憎い憎いアメリカの桎梏を離れ欧州企業の支配下に入れば、じゃあ幸せになれたのかというと、およそそんなことにはなっていなかった。欧州というのは、今も昔も搾取の権化なのであって、アルゼンチンもブラジルも自動車産業はプジョー、フィアット、ルノー、VWの支配下にあり、彼らはとんでもない搾取を南米で行なっていた。償却が50年位前に終ったクズのような金型を持ち込んで時代遅れの自動車を製造し、独占をいいことにそれを法外な価格で現地の人たちに売りつけていた。「ここは共産主義下の東欧か?」私がアルゼンチンに降り立って、最初に感じたのがこの言葉である。南米が豊かになったのは、メキシコやブラジルなど留保条件をつけながらも独自のやり方で米国との交易を大々的に行なった国から順番に豊かになったのである。ブラジル、メキシコ、チリは豊かである。一方、ベネズエラ、キューバ、ボリビアなどは貧しくなる一方である。本書ではボリビアは米国企業に対し反対ののろしを上げたかのごとくかいてあるが、あのとち狂ったモラレス政権が狂気の刃を向けたのは米国だけではない。ボリビアに対する最大の投資国であったブラジルの天然ガス田に軍隊を派遣して接収したのもボリビアなのである。
暗黒の歴史のみをあげつらえば、どの国も極悪非道の国として描くことは可能である。欧州諸国のアフリカやカリブ海での悪行三昧、南米のインディオは人間でなくサルだ(だから殺しても罪にはならない)と真剣に議論した欧州人(アルゼンチンやパラグアイのカフェには今でも山のようなインディオの射殺体に誇らしげに足をかけるスペイン人の狩猟記念写真が飾られているという)、中央アジアで虐殺を繰り返し帝国領土を拡大していったロシア人(モスクワのトレチャコフ美術館にはヴァシーリー・ヴェレシチャーギンの戦争の結末という絵が展示してあるが、これはロシア人がトルコ系諸族の風習を真似て、虐殺した中央アジア人の生首をピラミッド状に積み上げたものを描いたものとされている)を見れば、それは明らかであろう。人類の歴史とは征服と虐殺の歴史なのであって、歴史とは「勝ったもののみが歴史を語る贅沢を許される」という面があるのである。何も米国のみが蛮行を行なってきたわけでない。
それでも、米国は世界中から支持されている。なぜか。米国のみが、フェアで、オープンで、チャンスを提供している国だからである。中南米諸国で豊かになっているのは、過去の恩讐を乗り越えて米国との関係を強化した国から順番に豊かになっている。これは冷厳なる事実だ。
先般、欧州で、あらたにコソボが独立したが、コソボ独立同時に高々とかざされたのはコソボの旗と共にアメリカ合衆国の国旗=星条旗であった。同じことはバルト三国でも起きた。ポーランドでも起きた。グルジアでも起きた。ハンガリーでも起きた。中南米のひねくれた連中が垂れ流す反米音頭をどこ吹く風と、世界には広大なる「親米大陸」が今日も増殖中であることも理解しておかないと、諸君の頭脳も週刊金曜日並みのレベルに留まることとなるであろう。
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朝日新聞社員らしいバイアスも強いが、なんで南米に似たような軍事独裁政権が多く誕生したのか、と思っていたら、国境を越えて軍部が協力・連携して弾圧にあたるシステムを(インターポールを真似て!)作ったからであり、その背後に米軍アメリカ学校があって(イラクにもつながる)拷問や弾圧の仕方を教えていたからだ、ということがわかってびっくり。
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アメリカ万歳!な日本に警鐘をならす
といったら聞こえはいいけど、
中南米ってどこもかしこも「左傾化」してるわけじゃないんじゃん?
アメリカって本当に中南米に不利益のみしかもたらさなかったの??
ラテンアメリカの貧困の現状は、
アメリカに全面的に原因がある!
みたいな書き方はどうも気に入りません
でも、そういう考えもあるんだ
という意味でいい教訓になりました
あと、コラムででた話が面白かった!
日本とハワイに婚姻関係があったら…
ハワイはもちろん、日本の対米関係も
今とは違った形になっていた…かもね
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中南米の本と言うより、アメリカの中南米支配を告発する本だ、ということを念頭において読んだほうが要旨が掴みやすいですね。そういう意味ではまとまってますね。難点をつけるとしたら、左派政権でも問題のあるところが多いのに、美化しすぎのような……と感じます。チャベスとかモラレスに関しては特に。自分の不勉強でうまく言えないのですが、何も知らない人が読むと、見落としちゃう部分が多そうです。
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南米はいまや自立しようとしている。
ボリビアのモラレス大統領、ベネズエラのチャベス大統領、そして元祖反米国家のキューバのカストロ政権。
今までアメリカ型の新自由主義経済を受け入れてきた南米ですが、いまは貧困層を助ける社民主義的経済を打ち出し続けています。今の日本にも十分問うものがあるでしょう。
そういう南米の国々の歴史の平易な解説です。(ちょっとアメリカを叩きすぎではないかという感がありますが。それだけ酷いをことをしたということでしょう。)
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小山先生が授業で紹介してた本。
かなり反米に偏ってるけど、
中南米とアメリカの歴史・裏事情を垣間見れる。
2009.7.12
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アメリカが中南米に対してどんなに酷いことをしてきたのか告発するような内容。かなり一方的にとらえてるように感じたが、アメリカという国に対しては十分な警戒心が必要であることは伝わった。
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[ 内容 ]
中南米の近代史はアメリカによる侵略と支配、収奪の歴史である。
アメリカはその政策をまず中南米で実践し、その後中東、アジアなど他の地域で大規模に展開してきた。
中南米がたどってきた道を知れば、アメリカがこれから世界で、日本で何をしようとしているのかが分かる。
そして今、アメリカが推し進める新自由主義経済政策による格差の拡大から、ブラジル、ベネズエラをはじめとして、中南米のほとんどの国が反米左翼政権となり、反米大陸といわれるほど独自の路線を打ち出している。
最新のデータを駆使しながら、アメリカと中南米諸国の歴史と実情、未来に迫る。
[ 目次 ]
第1章 中南米の新時代(反米化した石油大国 続々と誕生する左派政権 なぜ反米化したのか)
第2章 アメリカ「帝国」への道(アラモを忘れるな―大陸国家へ メイン号を忘れるな―域外への拡大)
第3章 中南米を勢力下に(奪われた運河―パナマ バナナ共和国―グアテマラ)
第4章 民主主義より軍事政権(南米の軍事政権 中米紛争 カリブ海への直接侵攻)
第5章 立ち上がった中南米(砂糖の島―キューバ 反米政権の誕生 南米共同体へ)
[ POP ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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この本は面白かった! おすすめ。
戦後にアメリカが中南米でおこなった実力行使と権謀術数の数々。
中南米にこれだけ左派政権が樹立できているなんて知らなかった。
これがアメリカへの反動というから痛快!
とくにベネズエラのチャベス大統領、すげぇ。
日本もこの流れに乗ればホント面白いんだけどな。
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文章も内容も朝日新聞的なのは否めず、その部分でまず好き嫌いははっきり別れそう。書き方も一方的だが、報道も少ないこの地域で何が起きているか、それを知る意味ではためになる一冊。
個人的には一度は読むことをおすすめしたい。
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▼国際統合論Ⅱの参考書として通読。「南米南部共同体(メルコスール)」への言及こそ微々たるものではあったが、どうしてまとまろうとするのか、その動因が良く分かる一冊であったと思う。
▼努力すれば報われる――はずだったが、上へと登るハシゴを外され、それが叶わない夢であるのだと私たちが痛感するようになったいま、ようやく新自由主義が万能であるという“神話”に疑いの目が向けれられるようになった。
▼しかし、これが国内に存在するアン・フェアな貧富格差の構造の問題であるだけならまだしも、国境を越え、それこそグローバルに展開していたのである。その理解なしに、彼らを「反米」「左翼」と一括りにしてしまえば、多くの事実を見過ごしてしまうだろう。
▼本書はアメリカ近現代(政治・外交)史を違った視点から見直すには良いと思。だが、キューバの話をするのにソ連が出てこなかったり、あるいは各国の現状への言及が好意的なものばかりであったり、やや物足りなさを感じたのも事実である。
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2012.9.20
反米に寄りすぎてる感はあるが、アメリカという国がどういう国かがよくわかる。これ読んでると日本はまだマシかと思えるが、本当はそうじゃないのか?
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非常に参考になる。これより前に新米保守の藤井厳喜氏による『日本人が知らないアメリカの本音』を読んで、おバカに説明するようななんちゃってアメリカ史を読んでしまったので、丁度良い脱洗脳&消毒ができて大変ありがたい。
それにしても、アメリカの汚いやり方に読んでいる途中で何度も吐き気を催した。
「おわりに」ある、従米だけでは日本がアメリカの餌食になるだけとの指摘は正しく現実のものになりつつある。
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中南米の国々の政治、経済事情を通してアメリカという国がどういう歴史を辿ってきたかの大まかな流れが理解できる良書。
7年以上前に書かれたものだが、今の中東情勢に関してもアメリカのこういった視点を持ってみるとアメリカのやり方は変わっていないと感じる。しかし、中東にはその同じやり方は通じなくなっているし、世界はアメリカのやり方の限界に気付き始めているのではないだろうか。
今の日本があるのは冷戦構造によりアメリカとしての戦略的位置づけによるものという話は知っていたがそれがアメリカがやってきた流れとして理解でき腑に落ちました。
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2007年刊行の本なので、サブタイトルのような「中南米がアメリカにつきつけるNO!」のような状況が中南米にあるかどうかは疑問だ。ベネズエラのチャベス大統領は死去したし、ベネズエラは経済破綻してしまった。
しかし、それでも読む価値は大いにある。
アメリカが中南米にどんなことをしてきたか、私たちはあまりに知らない。この本を読んだ私の第一印象は、日本が朝鮮半島や中国でかつてやってきたことと変わらないではないか、というものだった。
決して、過去に日本が大陸や朝鮮半島でやってきたことを擁護するつもりはない。しかし、アメリカは中南米で同じことをやってきたのだ。日本が傀儡政権を作ったのは中国だけだ。朝鮮半島や台湾は併合した。
しかし、アメリカは初期においては、先住民やメキシコから土地を奪ったし、中南米では、敵対的な政権は転覆させ、傀儡政権をいくつも樹立している。
中南米を通じて、アメリカの暗い一面がわかる本である。