紙の本
本は薄いが内容は濃いぞ。でもやっぱりちょっと薄いかな…
2008/02/19 01:39
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:バタシ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は高島翁が数年ぶりに出した中国を題材に出した新刊である。筆者は高島翁の大ファンなので期待して発売日に購入したのだが、少々がっかりした点がいくつかある。
まず一点目。題名のとおり本書では中国における治世に失敗した皇帝を題材にした歴史評伝である。中国史上治世に失敗した皇帝には事欠かないが、なんと本書で扱われている皇帝はたったの二人である。二人でも「たち」には違いないが、「たち」というからには四人は紹介されているだろうと期待していた私には少々ショックだった。
二点目。本書に収められている二篇の文章は多少の手直しがされているものの、本書が初出の文章ではない。つまり別々の本に載っていたのを引っこ抜いて、お化粧を直して合体させたのが本書の正体なのである。多少の書き下ろし部分はあるが、すでに私のように出典元の文章を読んでいる人には新鮮さに欠けるし、おまけに一篇一篇の文章が比較的短いので、ちょっとボリューム不足である。著者の講談社から出ている「中国の大盗賊・完全版」を想像して本書を買った人は間違いなくがっかりするだろう。
三点目。文章の形が全後半で大分異なる。前半の煬帝を扱った篇は元々が高校生向けの学習誌に掲載されていたこともあって、かなり平易に書かれている。ところが後半の建文帝を扱った篇は「文學界」という文藝春秋から出ている小難しい雑誌が初出なので、煬帝の篇に比べて大分難しい。前半と後半で文体が違ってはいけないということはないが、大分ちぐはぐな印象を受ける。いかにもムリヤリ1冊にまとめたという感じだ。
では文章がつまらないというと、そんなことはない。いつもの高島翁の如く、縦横無尽に筆を走らせ、バッサバッサと巷間俗説を斬って捨てる。読んでいて爽快である。高島翁の著作は数多いが、やはりこの人は中国の歴史を書いた物が最も優れている。筆致は軽やか、文章も流れるが如く、まるで当世一代の講談師の話を聞いているかのように、読者を惚れ惚れとさせる。
それだけに本書の分量の少なさがいかにも残念である。せめてもう一人書き下ろしで南唐後主や宋の徽宗といった亡国の皇帝を書き足せなかったのかと思う。
正直この1冊ではどうにもボリューム不足である。しかし文章の質はいい。ぜひとも「中国の大盗賊・完全版」と合わせて読んで、高島翁の描く中国史の世界を堪能してほしい。
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流石は高島俊男。
前後半で文体が違うのだが(理由は読めば解る)、どちらも面白いことにはかわらない。
まず煬帝についてだが、文章が平易なためにわかりやすく、引き込まれ、文章が平易であるにも関わらず読み応えがあると文句のつけようが無い。
隋末唐初という時代の面白さがよくわかったし興味が湧いた。
後半は建文帝出亡伝説を扱った幸田露伴の「運命」に触れているわけだが、
露伴翁を二流とバッサリ斬り捨てていて、まさに愉快痛快。
こういう文章を書けるのは高島氏以外におるまい。
本当にこの人の本にハズレはない。
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絶対に面白いと思って購入したら、やっぱりとっても面白かった文庫。
とにかく面白い。中国史が好きでも嫌いでも、詳しくても初体験でも読むといい。
中国入門としては田中芳樹さんの『中国武将列伝』を長く押してましたが、
多くの人物を知るにはいいけどちょこっと1人あたりの文章量が少なく、
面白いとのめりこむなら高島さんかなぁ、と思う今日この頃。
この『しくじった皇帝たち』は大きく分けて二本立て。
隋の煬帝と、幸田露伴の『運命』の建文帝について。
どこか面白いとこを抜き出して書こうと、パラパラめくっていますが、
どこも面白くてどうにも抜き出せません。とりあえず読むといいです。
煬帝っていうと私も親殺しで戦争するわ運河掘りまくるわ散財するわの
暴君・暗君の印象がかなーり強かったので読んでいて目から鱗がポロポロ。
幸田露伴の『運命』も知ってはいましたが、
どこまで史実でどこから創作なんだろうかと思ったりしていたので
まあ原文も含めいろいろ読んでいてとっても意外でびっくりしました。
面白いですよ、これ、ほんと。騙されたと思って読むといい。
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随の煬帝と明の建文帝のお話。
煬帝は不当に非難されているので名誉を回復しようというお話。
建文帝は幸田露伴の「運命」批判。
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古本で購入。
隋の煬帝と明の建文帝、偉大なる父が築いた王朝を失った2人の二代目。
この「しくじった皇帝たち」を、中国史読み物の名手・高島俊男が切る!という感じ。
収められた2篇のひとつ目、「隋の煬帝」は高校1年生を読者に想定した、語りかけ形式の文章。
書いてあることは煬帝にまつわる概説と言っていいのだが、著者の煬帝評がいい。
曰く「ふつう」。
Q.煬帝は宮殿の造営や大運河の開削を盛んに行いゼイタクである。そして労働力の徴発と度重なる戦争で人をたくさん殺した。悪虐無道の暴君ではないか!
A.皇帝はみんなゼイタクだし、皇帝はたいてい人をたくさん殺す。これらの点でも煬帝はふつう程度。
隋を滅ぼし、“隋の歴史を編纂した”唐の書くまま煬帝を暴君としてきた「常識」にハナをひっかけるようなバッサリ感がたまらない。
唐高祖・李淵を「偽善者」と両断するのもいいですね。
残る1篇は「露伴『運命』と建文出亡伝説」。
叔父の燕王(永楽帝)に攻められ、燃え盛る宮城に消えた建文帝の「出亡(脱出逃亡)」伝説を素材とした、幸田露伴「生涯第一の傑作」とされる『運命』が、いかにタネ本『明史紀事本末』そのままであり、いかに文章(原文含め)がたいしたことなく、それを無批判に激賞してきた昭和期の知識人がいかにダメかをバッサバッサと切りまくる。
ついには「露伴はやっぱり二流だなあ」と高島センセイ。すごいな。
「皇帝たち」と言いながら出てくるのが2人だったり、内ひとりは話のメインでさえなかったり、加筆部分の文体が変わっていたり、やや残念な本なのは確か。
ただ高島俊男の本がおもしろいのもまた確かなので、読み物として読むのが○。
高島節に触れるなら、まずは『中国の大盗賊』(講談社現代新書)がいいかも。
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[ 内容 ]
父から受け継いだ巨額の富を浪費し、建国から二代で亡国の憂き目に遭った隋の煬帝。
悪逆非道の暴君で名高いが、父を殺し帝位を奪ったのは事実か。
祖父から帝位を継ぐや否や奸計を巡らし次々と叔父たちの王国を取り潰した明の建文帝。
燕王率いる叛乱軍の侵攻による落城の猛火の中を逃げのびたとされるのは事実か。
国家経営をしくじった二人の皇帝―その興亡の顛末をホントとつくり話の襞にわけいり、史実の闇に光をあてた歴史評伝。
[ 目次 ]
隋の煬帝(さあ煬帝のお話のはじまりだ;煬帝はホントに「父殺しの大罪」をおかしたのか;父の遺産を気前よく使って;大臣が叛乱をおこしたl乱世の英雄はこの人、李蜜だ;みじめな煬帝の最期)
露伴『運命』と建文出亡伝説(『運命』と建文出亡伝説;「自跋」について;『駿台雑話』の建文帝;建文帝はどうなったのか?)
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
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「皇帝たち」というタイトルとは裏腹に、煬帝と建文帝という二人の話のみ。建文帝に関しては皇帝がしくじったというよりは、その皇帝についての著作を行った幸田露伴がやらかした件をほじくり返している内容。従って「しくじった皇帝たち」と言われても、「そんなか?」という読後感想になる。文自体はまあ読みやすいが、この著者の特徴として話は常に上から目線なので、それが気にならないなら。
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小中学生向けの学習まんがを読んでいたら、明の建文帝が出てきた。建文出亡伝説には触れていない。ただ「行方不明」とだけある。そこで『しくじった皇帝たち』を再読する気になった。ついでに前半の「隋の煬帝」も読んでしまう。後半、しくじったのは皇帝というより幸田露伴の方だろう。
漢文の書き下し文に出てくる漢字で読めないものが多い。「彬」を音読みで「ひん」など、調べないと判らない。日暮れて道遠し。