紙の本
噛めば噛むほど味が出る、スルメのような一冊
2009/04/19 13:00
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エルフ - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公の「わたし」は小さな古道具店でアルバイトをしている、店長の中野は三回も結婚し子供もそれぞれにいるのに愛人とのことですったもんだのあるダメ男、店長の姉マサヨさんはいい歳なのに愛に生きている少女みたいな不思議な人、彼氏なのか同僚なのか分からないタケオ。
この4人の中で起きる日常の出来事が書かれているだけの作品にも関わらず何故か惹かれるものがある。
しかもこの本、人情ものかと思えばその芯にあるものは直球の恋愛ものなのだ。
ダメ店長の憎めない恋愛騒動、歳の離れたマサヨさんの愛の告白や、わたしとタケオの不器用なのだか何なのだか分からないけれどうまくいかない恋。普通に想像すると生々しい男女の恋愛なのに何故かキラキラと輝いて見えるから不思議である。
何か大きな出来事があるわけでもないのに次第に中野商店に自分も出入りしているような居心地の良さと、その世の中から少し浮いているような時間が永遠に続くとは思えないほんの少し漂う切なさが微妙なバランスで保たれている。
長居は出来ないけれど居座りたいなぁと思わせるこの感覚がこの本の良さなのだ。
そしてエピローグとも言える最後の短編がまた味わい深い。
おそらく誰にでも居心地の良い空間、時間、仲間に囲まれた期間があったと思う、しかしそれは一過性のもので永遠にその時は止まってはくれない。
変わってゆくものだということを前提にしてある居心地の良い空間というのが逆に読んでいて幸福感を感じさせてくれた。
噛めば噛むほど味が出る、スルメのような一冊である。
紙の本
川上弘美「古道具 中野商店」、せつなくもおかしい3つの恋模様。
2010/11/10 14:30
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オクー - この投稿者のレビュー一覧を見る
川上弘美の小説にはいくつかスタイルがあるのだが、これは「センセ
イの鞄」に近いスタイル。個人的には非常に好きな世界だ。舞台は東京
の西にあるとある町の古道具屋。「骨董じゃないよ。古道具なの。うち
の店は」と店主の中野さんが言う通り、店内には雑多なものが所狭しと
並べられている、そして、そこには、中野さん、店員のヒトミちゃんと
タケオ、時々顔を出す中野さんの姉マサヨさんがいる。この小説で大切
なのは「古道具屋」という空間、そこに流れる空気感だ。「センセイの
鞄」のあの居酒屋のような。その空間にいくらか個性的ではあるけれど
それなりにふつーの人々がいて、それぞれにそれぞれの恋模様がある。
あまりに不器用なヒトミちゃんとタケオの恋。泥沼的な中野さんとその
恋人サキ子さんの恋、しっとりと哀しいマサヨさんと丸山氏の大人の恋。
ヒトミちゃんとタケオとのうまくいかなさ、がなんともいい。50代半
ばのマサヨさんの恋はさらによい。出て行った丸山氏に対して彼女が語
る言葉が胸を突く。そして、2人の本当の別れ。これはちょっと泣ける。
ラストもなんだかツーンと寂しくて、たまらない。
ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より
紙の本
なんかいいんだよね
2018/12/04 01:31
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ルイス - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本を読み終えてからもう一年は経つ。
でも中野商店の店の様子がいまだにはっきりと脳裏に浮かぶ。
それぞれキャラが立っている登場人物たち。。
浮気したりダメ男なんだけどなぜか憎めない中野さん。
中野さんのお姉さんも最高だった。
主人公が恋したりはあるが、特にドラマティックなことは起きない日常系。
またそのうち読み返したいと思う一冊でした。
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「センセイの鞄」のときもそうだったけど、この作家さんはアタシには合わないみたいっす。まったりかと思いきや、実は理知的な文章かつ構成なところが、アンポンたーんなアタシにはムリ目なんだと。
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古ぼけた映画をそのまま文章にしたような。
どこかにある日常をそのまま切り取ったような感じ。
少し湿っぽくて薄暗いかもしれないけど。
決して、寒くも悲しくもない不思議な感じ。
生温い温度とせつなさが混じり合って。
茫洋とした色を放っているイメージです。
登場人物全員が自分の色を持っているのですが。
くすんでいるけど、自分の意志はしっかり持っていて。
誰の色も違う色なのに似たような匂いがします。
温度は低くもないけど、決して高くもなくて。
でも、心のどこかが鈍く痛むような。
それでも、絶望とかいう感情とは違うもの。
何度も読むたびに印象が変わっていきそうです。
老いるということについて考えてしまう一冊です。
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恋愛というよりも、結局は中心人物たちの成長物語かもしれません。
どうやら直接的な性の描写が私は好きではないようです。
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年の離れた4人というのは、古道具屋を営む中野さんというおじさんと、中野さんのお姉さんで50代のマサヨさん、中野商店でバイトというか手伝いをしているタケオと、私ことヒトミさん、の4人。マサヨさんが、なんというか細かい面倒くさいことはすっとばして本質をひょいっと上からずるしてつかんでしまうようなさばけた感じのおばさま(おばさんではない)で、いい感じでした。二十代のヒトミが自分のことを「女の子」と語るのを聞いて、「三十代だと、自分のこと女の子って言っちゃいけないのかな」とつぶやき、ヒトミがいいんじゃないですか、本人がその気なら、と答えると、「五十代はどうかな」といい、五十代はちょっと、と、ヒトミが正直に答えると、そっか、とため息をついたりします。
ヒトミが計画的でなくタケオを食事に誘い、家においでよ、今夜でもいいよ、と言って約束してから部屋が散らかったままだったことに気づいてあわててかたしたりするときの心情。なんだかとても良くわかる気がします。恋愛なんて考えてするものではないと思いながら、一所懸命に考えている感じ。
とてもおもしろかったです。
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呼吸をしないで生活しているみたいな人たちのお話だと感じました。こういうふうにたんたんとした文章すき。
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川上弘美さんの書くダメな男の人は、本当にダメなのに素敵です。
話としては、いつものようにぐだぐだと日常が続いていく内容。
でも、その日常の中で起こるスケールの小さい事件がいいです。
やっぱり川上さんは、食べ物をとてもおいしそうに書かれます…
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生協3冊で15%オフ。川上さんの新刊!(文庫の・・・)と思い、即購入。おだやかな感じで、ぼんやりとふるぼけた情景が目に浮かぶような。[08/04/17]
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中野さんって変な人ですね。
なんだか子どもみたい。
淡々と進んでいくストーリー。
その中で少しづつ変わってく人々。
そんな中で、私には中野さんだけが変わらない
(わざと変わろうとしていないのかな?)存在に思えました。
でも、それが中野さんらしくて、そのままで居て欲しいなと思いました。
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特になにか事件が起こるわけでもなく、たんたんと日常が描かれているのだけど、どうにも続きが気になる。そんな感じで読み進んでいました。主人公の恋なのか執着なのか分らない、じれったい感情がとうとう爆発するところは泣けました。女子なら一度はこういう思いに泣いた日々があると思います。
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東京近郊の古道具屋「中野商店」。
バイトの「わたし」と「タケオ」。店主の「中野さん」と「サキ子さん」。中野さんの姉「マサヨさん」と「丸山氏」。
小さな古道具商店を舞台に繰り広げられる、じれったい恋と友情のおはなし。
久しぶりに川上弘美。
「パレード」で「ツキコさん」に再会したばかりで、感覚が混ざって変な感じがしました。
やっぱり川上弘美は長編より、「龍宮」のような短編のほうが好きかもしれません。
川上弘美の文章はしめっぽいような、ざらっとしているような、麻の布のようなものだと感じます。
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やっぱり、いい味を出してるなぁ。この淡々としていて、クスリと笑えるような、それでいてちょっと寂しい雰囲気は、川上さん独特。ときどき、無性に読みたくなる方です。
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登場人物それぞれに魅力的。読後感も爽やかだった。
恋愛と携帯について、母と話した事があったが、この時の結論をうまく表現して
くれている部分があった。
『携帯なんか、嫌いだ、とわたしは思う。いったいぜんたい、誰がこんな不便な
ものを発明したのだろう。どんな場所どんな状況にあっても、かなりな高率で受
けることのできる電話なんて、恋愛ーうまくいっている恋愛も、うまくいってい
ない恋愛もーにとっては、害悪以外のなにものでもない。』