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噓発見器よ永遠なれ 「正義の機械」に取り憑かれた人々 みんなのレビュー
- ケン・オールダー (著), 青木 創 (訳)
- 税込価格:2,750円(25pt)
- 出版社:早川書房
- 発行年月:2008.4
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紙の本
映画やドラマで余りに有名なこの装置がいかにして生まれ、どれほど広く社会に拡散したかを、二人の対照的な発明者を通して追う
2010/09/21 23:51
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Skywriter - この投稿者のレビュー一覧を見る
アメリカの映画やドラマで広く取り上げられているこの装置を知らない方は少ないだろう。その嘘発見器を取り上げた本書のタイトルから、強烈にアメリカの物語であることが伝わってくる。それもそのはず、嘘発見器はアメリカで生まれ、事実上アメリカでしか用いられていない技術なのである。
なぜ、嘘発見器はアメリカ以外の国で広く使われないのか。一つには、嘘発見器がその名に反して、嘘を見抜く装置ではないことが挙げられよう。本書でも繰り返し説かれているが、嘘発見器が示すのは、嘘発見器に掛けられた人物が信じているかどうかを明らかにする装置に過ぎない。要するに誤ったことでも確信さえ持っていれば嘘発見器では見破れない、ということだ。加えて、嘘を付くときのストレスを計測する技術であることの限界もある。つまり、嘘を付いていなくとも、質問にストレスを感じれば嘘発見器は反応してしまう。
催眠療法により捏造された記憶を元に、娘から性的虐待を訴えられた父親が、記憶を”回復”(実際は作られた記憶に過ぎない)した際に、荒唐無稽な話を嘘発見器は見破れなかったことが『悪魔を思い出す娘たち』で明らかにされている。
そのため、社会に浸透しているかに見えるアメリカでも、裁判で嘘発見器の記録を証拠として提出することはできないのである。
本書は、この誰もが知り、社会に広く拡散していながらも未だに科学ではないとされてしまう不思議な装置、嘘発見器の歴史を追っている。
嘘発見器を開発したのは、ジョン・ラーソンというアメリカ初の博士号を持つ警官だった。だが、それを広めたのはレナード・キーラーという、ラーソンの一番弟子だった。二人は嘘発見器の驚くべき力と、その限界を把握していた。その上で、ラーソンは精神病への治療に用いることができないかと考え、キーラーは嘘やはったりを用いてでも捜査に用いられるよう骨を折った。二人により嘘発見器は世に放たれ、皮肉なことに二人の人生は嘘発見器に振り回されてしまったように見える。
著者は徹底した取材で、ラーソンとキーラーの人生をあぶりだしている。嘘発見器に何を見て、嘘発見器がどう用いられるべきか、二人の意見は悉く食い違う。厄介なのは、どちらにもそれなりの筋があり、論理があることだろう。読者もどちらの側に好意を感じるか、あるいはどちらを正しいと考えるかの判断は分かれるだろう。そして、嘘発見器がなんともアメリカらしい発明であることに驚かされると思う。
私が驚いたのは、アメリカ内で嘘発見器が実に多様な使われ方をしてきた、ということ。警察での取り調べについては勿論知っていたが、企業が従業員の忠誠度を計るためにまで使用していたのは知らなかった。政府機関からゲイを追放するために使われたことも。嘘発見器が恐るべき踏み絵と化していた事実には多少の恐ろしさも感じずには居られなかった。心の中を測定する機械の恐ろしさを知らしめるのに、嘘発見器は先陣を切ったのだろう。嘘発見器よりも洗練されたように見える技術は次々開発されていく。しかし、そこには常に解釈が絡んでいるという現実を忘れないようにしたいと思った。
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