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キリスト教政治思想に関心を持つ研究者たちの論文集。興味深く読んだのは、植木献氏の「契約とコモンセンス―リンゼイのデモクラシー理論における伝統」と、千葉眞氏の「新帝国主義とキリスト教原理主義」。前者は、日本ではピューリタニズムのデモクラシーへの貢献の文脈で引用されることの多いリンゼイを扱っている。著者によると、リンゼイがピューリタン・コングリゲーションにおける契約に意識的に触れず、もっぱらコモンセンスに注目したのは、彼が置かれていた当時の社会状況に対する実践的目的のためであったとのこと。後者は、アメリカのキリスト教、特にいわゆる宗教右翼を支えるキリスト教ファンダメンタリズムの問題を扱っている。適切に社会を導くことのできる公共的神学者の不在を嘆いているが、これは著者の博士論文でも扱ったラインホールド・ニーバーのような存在をイメージしているのだろうか。様々な思想的・宗教的立場を超えた共通のプラットホームを形成する公共哲学の必要性を延べているもその線の故であろう。このような公共的な営みは非常に重要であるが、しかし、キリスト者としての思想と実践の一義的な場は「公共」ではなく「教会」(信仰者共同体)ではないだろうか。その意味で、「教会的実存」を重んじた社会倫理を志向する、平和教会の伝統にもう少し焦点を当てて欲しかった。