紙の本
ヒトデの細胞が可愛い、けなげといきなり言われても、なかなかすぐに共感するのは難しいだが・・・。
2008/08/29 15:36
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
細胞の意思?自発性?なかなか広く「興味を引く」タイトルではないだろうか。しかし、内容はかなり高度な、「発生生物学」である。
著者の見解は「生き物」というものについてとても深い、何十年もの研究生活をとおして得た、細胞とはどういうものかの考えが集大成された結果なのだろう。細胞、という「生きている単位」が自発的に判断、行動、調整している、ということは、たしかにある。それを「細胞の意思」という言い方で著者はまとめて表現している。これは、ある程度発生生物学や細胞学を知っている人には、「一つの提言」としておおきな意味を持つ話として伝わるのではないだろうか。
ただ、読めば読むほどこの哲学的な、認識論ともいえる境地にたち、著者の説に共感するためにはある程度同じ道を歩まないとわからないのでは、とも感じて仕方がない。
著者自身も、何度も「言葉の使い方」に警告は発しているのだが、「意思」の定義からして普通のものとは少し違っている。そこのところを安易に飲み込むと危険かも、と感じさせる危うさも感じられたのである。
適当なたとえではないかもしれないが、山頂への地図と山頂からの写真だけでは、ほんとうに言いたかったことが伝わってこない、というところだろうか。一歩一歩、途中での景色の変化や自分自身の変化も加わって著者がつくり上げた考えは、深いだけに、簡単に分かったと思ってはいけないのだろう。
そういう微妙な難しい問題、著者が長い年月をかけて練り上げた結論を、それでも著者は「わかりやすく・誤解のないように語ろう」ととても努力している。
しかし、いきなりヒトデの「大食細胞(が広がっている姿)」が可愛い、といわれてもなかなか伝わらないのではないだろうか?読みようによっては「マニアック」にもとられてしまうかもしれない部分である。説明に具体例をいれて分かりやすくとの工夫も随分とされているのだが、「写真のこの部分がこうなっているのは・・・」というのも、それが「すごい」と思うためには、やっぱりある程度の専門的な経験がないと難しいだろう。
「自発的」ということをどうとらえるか、興味がある方は「じっくり」「背景の生物学も理解しながら」読んで欲しいと思う。
じつは、文章をチェックする編集も一寸不正確なまま見逃しているところが気になった。
1)エコリンという物質の説明で「この蛍光タンパク質は、蛍光を当てるだけで光ってくれる(p86)」とあるが、蛍光物質は蛍光ではない普通の光でも光るのではないだろうか。
2)「強焦点レーザー顕微鏡を使って・・(p96)」というのも、「共焦点」が正しいでしょう。注)に強いレーザー光とあるから間違ったのだろうか。
細かいところであるが、気を使って欲しい。本著の内容を理解できる知識背景があるかたには、こういうところが「たいした本じゃない」という評価につながり、著者の提言への評価も落としてしまうかもしれないからだ。
投稿元:
レビューを見る
細胞は生き物だ。彼らに共感をもって寄り添うこと、これなしに生命や人間を理解することはできないのではないか。彼らにも意思、すなわち、自発性があるのである。
投稿元:
レビューを見る
[ 内容 ]
体内に異物が侵入すると、自らをカーペットのように広げ、仲間たちと協力し合いこれを覆ってしまう大食細胞。
目的地である生殖巣に向かって、さまざまな困難を乗り越え胚の体内を移動する始原生殖細胞。
外的変化にしなやかに対応しながら的確に行動する細胞たちのけなげな姿を生き生きと描き、生命を分子メカニズムの総体ととらえる硬直した発想を超えて、細胞こそが自発性の根源であることを力強く打ち出す。
生命という複雑な現象の本質に迫る野心作。
[ 目次 ]
第1章 細胞には三種類ある
第2章 細胞たちの華麗な組みダンス
第3章 細胞の思い、人間の思い
第4章 始原生殖細胞の旅
第5章 胚の細胞は、けっして赤ちゃんじゃない
第6章 細胞は生き続けたいと思っている
第7章 極限状態から立ち直る細胞たち
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
投稿元:
レビューを見る
「細胞には意思がある」という著者の主張であるが,結局「観察者の心理状況を研究しているだけ」かと思う.
投稿元:
レビューを見る
細胞は懸命に健気に生きようとしている。
細胞をひとつの工場に見立てたところはアンチ・オイディプスの欲望する機械の描写と重なった。
やっぱり生きるっていいなぁ~
投稿元:
レビューを見る
細胞が意思を持った生き物だということを
学会の注目を集める危険を侵してまで
しっかりと主張している内容であり
信頼も置けると思うしとても愉しく読む事が出来ました
正に私達人間社会の縮図だとも思えるし
部分と全体の関係を外してひよらずに
自己主張にかまけず前を向いて生きる姿に
人間も我を取り戻すチャンスがあるのではないかと
希望を抱ける内容です
生命の膨大な歴史を早回しのドラマに仕立てで
見せてくれる細胞の生き様を通して
生命本来の姿勢を目の当たりにするようでもあります
生半可な知識によって道を外し
暴力に依存する迷路に迷い込んだ人間が
今後どう舵取りすればいいのかの
ヒントとなってくれているようですらあるように見えます
私の中にも60億という途方もない数の組織があり
その歴史と未来があり
私の外にも家族があり友人がいて
似て非なる瀕死状態の社会があります
この大自然の無限の営みを感じることで
現状の社会を見直すことができれば
自滅へと向かう侵略行為を打開する方向性も
示すことができるかもしれません
抜粋要約
細胞たちは部分的な諸手続きに関するメカニズムに
操られているのでなく
もう少し大きな個としての最終的な姿をイメージしている
その姿に近づくために集中して工夫をこらしている
これらはDNAの範疇にはいらない
何故なら遺伝はDNAを部品とする立場の細胞自身なのだ
DNAは部分のレシピーをコピーで伝えるだけで
全体像は細胞自体が持って分裂増殖していく
生命そのものでもあり全体と部分の関係で連鎖している
生き物は縦横に繋がることで相補的に満たされ
環境とも自律的に参加して共生する
生き物が外部に対して搾取したり毒となる状態で
垂れ流しにすることは衣食住を失うことになる自殺行為に
ほかならない
投稿元:
レビューを見る
ちょっと読むのに時間がかかってしまった。そのため、途中でノーベル化学賞受賞の話が出た。たぶん、本書で細胞の動きを観察するのに使われている技術も、下村先生の発見からはじまっているのかもしれない。さて、細胞に意思があるとは「?」なのですが、でも、細胞の動きを観察していると、意思があるとしか思えないのです。どうしてそっちってわかるのとか、なんでみんな上手に集まるのとか、そんな感じです。ただし、とってもくわしく実験の様子が書かれているのですが、ほとんど私にはついていけませんでした。なんとなく、雰囲気を感じることができただけです。本当はビデオで見せてもらえるのが一番なのかもしれません。そういう意味では、やはり公開講座なんかに参加するほうがいいのでしょう。どこかでやっていればいいのだけど。しかし、本書を読み終わって思うに、本当に福岡伸一さんは、一般人のハートをつかむのがうまいのだなあ、と感心してしまいます。
投稿元:
レビューを見る
細胞の「仕組み」の解説はそれはそれでおもしろいのだけど、意思というところはそれほどの内容ではなかった。
擬人化を問題にするつもりはないのだけど、では擬人化とどう違うのかとか、意思とはなにか、というあたりが深くなくて細胞の「構造」には詳しくなった気はするけど。
投稿元:
レビューを見る
養老孟司さんのオススメ本の一つ
アミノ酸が構成している炭素と水素と違うように
細胞というのはそれを分解して理解しようとしては間違える
細胞を理解することが生命の理解の第一になる、
と考えている
細胞が人間と同じように思い悩み予測し相対し決意し、決定する生き物
意思を持つ-自発的、主体的な考えを思い何かをしようとする
脳や脳の働きとしての意思のルーツは細胞である
細胞がしているのは私たちが車に乗って買い物へ行くという日常の行動と本質的に違いはない
働いているのは細胞かメカニズムかへの良い設問として
「100m競走のピストルが鳴りました。走っているのはランナーですか、筋肉ですか」
答えはランナー
筋肉はより早く走れるようにランナーが鍛えたもの
"生きようとする細胞の「意思」、周囲の状況にいち早く把握してしようとする細胞の「監視行為」、死に抵抗する細胞の「創意」、このような能力を細胞にみとめることが、生き物に対する私たちの理解を大きく前進させる鍵であり、これができるか否かに、生物学の行く末がかかっていると、私は考えています。"
あとがき
"もともと人間が自然の成り立ちを知りたいと思ったのは、なによりも自分たちがどこから来て、なぜここにいるのか、生きているとはどういうことなのかを理解したかったからではないでしょうか。
そのために自然を解析し、生き物を見つめてきたのです。"
"生きている私たちの「人間」を知るための最初の一歩は細胞から。生き物の最大の特徴である「自発性」の根源としての細胞を理解できずに人間を理解することはできないでしょう。その細胞は、膨大な種類と数の化学反応の、想像を絶するほど複雑なバランスのうえに成り立っているのもです。走り続けることで成立しているこのようなシステムを、分子メカニズムとしてとらえ尽くすことはできません。
中略
私たちが細胞を「生き物」として認めることができさえすれば、これまで気づけなかった多くのことが見えてきます。細胞を私たちと同じ生き物と認め、共感を持ってこれに寄り添うことが、やり方によってはけっして擬人的でも、情緒敵でも、非科学的でもなくできることを、私は本書で実例をもって示したつもりです。"
マボヤ 東北での珍味のホヤが脊椎動物の最初の片鱗としての細胞を持っているとか
原始生殖細胞は受精わずか1ヶ月で次世代への細胞を作り始める準備をするとか
生命最初の大気は酸素なかったけど、酸素ができたから、初期の生命(バクテリア)にとって酸素は有害だったから酸素をエネルギーに変えるミトコンドリアというバクテリアを細胞の中に入れた
細胞は原核細胞 パプロイド(単細胞) ディプロイド(有性生殖で合体、2重ラセンDNA持っている)
の3つ
二重らせんのディプロイドは分裂回数に制限があり、死がある
イオン化したものは細胞は受け取るが
イオン化してないものは受け取らない
排泄アンモニアにして出していくとか
細かな細胞のメカニズムなどを説明してて生物とってない私のような人間にはちょっと理解が難しいけど面白かった
色々世界観が広がる感じ