紙の本
彗星のように消えてしまった幻の書店を追う…
2009/03/09 17:03
10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 なおこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ボン書店という小さな出版社が姿を表わした。出版社といっても社員を雇い事務所を設け、というのではない。
たった一人で活字を組み、自分で印刷もして、好きな詩集を作っていたらしい。(略)
そして数年後、彗星のように消えてしまった。」
目録販売の古書店を営む内堀弘さんは、そのボン書店の鳥羽茂さんについて丹念に調べ上げ、そして彼の生きた道筋を追った。
一冊にまとめられたのは今から10数年前の1992年、そして去年文庫化されたとき、あらたに文庫版のための少し長いあとがきが加わった。
読み終わって、しみじみ大分の梨の樹に想いを馳せた。
確実に今の世に残されている鳥羽さんの生きた証、彼が手がけた詩集もさることながら、この梨の樹をよくぞ内堀さんが探し当ててくださったことよと頭が下がった。
読後の感動のあまり、なにから書いてよいのか、気持があふれすぎて困ってしまうのだが、大分の地は、鳥羽さんの最期の地、そしてそこで枝を広く伸ばして生い茂っていた梨の樹は病身の鳥羽さんが息子さんと一緒に植えた梨の苗木にほかならない。
ボン書店、昭和七年から十三年にかけて活動し、十数冊の詩集を出した後、姿を消してしまった、幻の書店。
しかし、彼が手がけた詩集の見事さは、ほんのわずかにではあるにせよ、人々の心に残り続けた。
内堀さんは調べに調べた。幻の書店を、幻となった鳥羽さんを追った。
そして彼が慶応ボーイであったこと、
岡山出身であったこと、
ボン書店時代には奥さんと息子さんがいたということ、
奥さんと共に病気になってしまったこと、
息子さんと二人で大分に行ったこと(文庫版のための少し長いあとがき)
…などなどの事実を突き止めた。
なにがそこまで内堀さんの気持ちを奮い立たせたのか…。
それは、鳥羽さんの、ボン書店の詩集があまりに素敵だったからに違いない、そして彼の引き際があまりに唐突だったからなのではと想像した。
詩集作りへの鳥羽さんの熱い想い、時代を超えても伝わるもの…、心をゆさぶるものを感じてしまったなら、もはや止められないよなぁ~。
そういう私も内堀さんの文章に心底引き込まれてしまった。
ボン書店発行の詩集を一度、手にとって見たいものだ。
そして、「刊行人・鳥羽茂」と印刷されている文字を見たい…、そんな想いも強烈にこみ上げてきた。
関わった人は存在しなくなっても、書物は残る。
あらためて、この事実を思い知った。
古書に囲まれて生活をされている内堀さんだからこそ書けた一冊なのではないかとも思った。
あふれる気持の100分の一も書けず、もどかしい限りです。どうぞどうぞ読んでください。
ちょっと前のNHK週刊ブックレビューで岡崎武志さんが紹介された一冊でした。迷うことなく買った一冊でした。
紙の本
無名の出版人が残したもの。
2017/02/08 13:54
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投稿者:ひらひら - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦前、たった十数冊の人を惹きつける詩集をつくった鳥羽茂という人物に迫った一冊。
詩を専門にあつかう古書店店主である著者の丁寧で諦めない取材、静かだが力強い文章には圧倒される。
そして無名の人が確かに生きていたことを証明するような「あとがき」。
zineや電子書籍の普及により、アマチュアが本を出版する機会が増えた今、よりいっそうの価値を持った一冊だと思う。
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昭和初期、小さな小さなたった一人の出版社。
あの時代でも自分の仕事に熱くなれる人がいた。
参ったなあ。
凄い本出会っちゃった。
実は最後まで読むのが勿体無くてちょっとずつ読んでる(笑)
短い一生を熱く、熱く、そしてぶれずに駆け抜けたある青年の実話です。
読了してないけど5つ星決定。
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昔出版界に彗星のように現れて消えた「ボン書店」。
その発行者鳥羽茂氏の足跡を丹念に追った力作です。
本をつくることにこれほどの情熱を持った人がいたのだと深い感銘を受けました。
追記がとくによいです。
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この本は2009年1月の「週刊ブックレビュー」で紹介がありました。
ホームページより紹介します。
本の内容
昭和の初め、東京に小さな出版社がありました。
今はほとんど記録に残っていないその出版社と、たったひとりで経営していた青年?鳥羽茂?の軌跡を追った一冊です。自ら活字を組み、印刷し、美しい装丁でモダニズムの詩集などを出版していた?ボン書店?。その活動は数年で終わっていました。古書店主である著者は、長年にわたって資料を集め、関係者に取材します。ふだん語られることの少ない、本を作る人への思いがあふれた一冊です。
1930年から1939年までの「戦争前夜」ともいうべき時期の話です。
田村隆一らの「荒地」のことが出てきますが、ねじめ正一さんの「荒地の恋」を思い出しました。
ボン書店は「売れそうもない詩集」を出し続けますが、「あのころはそれでも不思議と食べていけた」という老詩人のつぶやきは意味深です。
いまは、食べられなくなっている時代なのでしょうか。
広告の「注文が殺到し矢のような催促」というセリフは著者も眉唾と評していますが、笑えます。
文庫版のP176に誤植を発見しました。
「ないかもれない。」とあります。
鳥羽茂の晩年の詩には「祖母山」が出てきます。
鳥羽は阿蘇に帰省します。
高森駅で下車、河内村、五カ所村ということばの記載があります。
祖母山には五カ所の登山口があります。
鳥羽茂親子は大分県の緒方村(のちの緒方町、いまの豊後大野市)に行きます。
鳥羽茂はこの地で28歳で亡くなります。
開戦前夜のことでした。
緒方町出身の知人がいました。
その方はわたしと同年代ですが、もう亡くなっています。
竹田の近くで原尻の滝という有名な滝があるところです。
祖母山も一度だけ登ったことがあります。
この本を読んでまた行きたくなりました。
この本を読んでいて、知人がやっている出版社を思い浮かべました。
家内制手工業のような出版社です。
私たち夫婦はそこで行われていた読書会で出会い、その読書会にはいまでも通っています。
30年のお付き合いです。
出版社と印刷所が一緒というのはボン書店も創言社も同じです。
この本は知人からいただいて読みました。
くださった方はわたしに読んで欲しいという意図をお持ちだったとおもいます。
本の中に埋もれて暮らしたいという願望は果たせぬ夢ですが、生涯持ち続けたいものです。
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100515 by 朝日081221:今年の一冊。本が奇跡を起こす瞬間。。
文庫版のための少し長いあとがき
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単行本にはなかった、「文庫版のための少し長いあとがき」を読みたいためだけに、この文庫を買いましたですよ。
どうして、私自身もまったく知らない、無名の人の消息がこんなに気になるのかわからないけど、とにかく気になった。
最後は、しんみりと淋しいけれどちょっと暖かい気持ちにもなれて、しみじみといい本でした。
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まいったなあ。
人の心にこんなに美しい詩や本を残して、去っていかないで。。。
田村隆一の
「空から小鳥が墜ちてくる
誰もいない所で射殺された一羽の小鳥のために
野はある」
を思い出す。
Into The Wild も思い出してしまった。
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昭和7年から13年にかけて、当時の若手モダニズム詩人の詩集を刊行していた出版社の物語。
丹念な調査と、抑制の効いた文章によって少しずつ明らかになるボン書店とその店主鳥羽茂の姿が哀しくも美しい。
ちくま文庫で再刊されるにあたって「文庫版のための少し長いあとがき」が追加されており、このあとがきがすばらしい。本編ではどこか実在性が薄く感じられた鳥羽茂の姿だったけれど、このあとがきの最後に一瞬だけ目の前に現れ、去っていったような気がした。それはノンフィクションなのに、まるで上質な幻想文学作品を読んだかのような気持ちにさせてくれる。
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古書店主でありエッセイストでもある内堀弘が描いた鳥羽茂の横顔。
1920年代中頃から1930年代初め、文学・哲学・美術の領域において、
反伝統主義の立場で創作活動を展開したモダニズムの人々なる一群が存在し、
その時代の後半に立ち上げられた、
ボン書店と名乗る小さな出版社が東京豊島区にあったとか。
出版社といっても自宅兼印刷所に過ぎず、
実質、鳥羽自身が一人で活字を組み、印刷して、
モダニズム詩人たちの作品を本にして世に送り出していたという。
働いても働いても、碌に売れない代物ばかりだからサッパリ儲からない、
でも、好きだからやめられなかった、そんな愚直で情熱的で、
だけど孤独を好んだらしい男の短い生涯を、
僅かな手掛かりを繋ぎ合わせ、足りない部分は推理で補って綴った評伝。
エピローグの後に付された「文庫版のための少し長いあとがき」に、
単行本刊行時には不明だった事情が詳らかにされたことが記されていて、
それがまるでミステリにおける、どんでん返し、大オチのようで、
甚く感動した。
不器用なりに自身の美学に忠実に生きた鳥羽さんもカッコイイし、
そういう人物に光を当ててくれた内堀さんも素敵だと思う。
ラスト、目頭が熱くなった。
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詩というジャンルは全くの門外漢だが、歴史の中に埋れてしまった才能に満ち溢れていた人物を紐解いて行く話の持ってき方は、どこかワクワクと読み進めてしまう面白さがあった。確かに他の方々のレビューにも有る通り"あとがき"がさらにこの話を盛り立てていると思う。
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[ 内容 ]
1930年代、自分で活字を組み、印刷をし、好きな本を刊行していた小さな小さな出版社があった。
著者の顔ぶれはモダニズム詩の中心的人物北園克衛、春山行夫、安西冬衛ら。
いま、その出版社ボン書店の記録はない、送り出された瀟洒な書物がポツンと残されているだけ。
身を削るようにして書物を送り出した「刊行者」鳥羽茂とは何者なのか?
書物の舞台裏の物語をひもとく。
[ 目次 ]
第1章 ボン書店の伝説
第2章 出立の諸相―一九三〇~三二
第3章 『マダム・ブランシュ』の時代
第4章 追跡鳥羽茂
第5章 転換の諸相
第6章 消えてゆく足跡
終章 一九三九年夏
資料
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
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知人の古書店主にこの本に興味があると言ったら借してくれた。読み終わって思わず、「すごい本を読んででしまった」と感想を伝えてしまった。詩専門の古書店主が昭和初期モダニズムの時代に発行されていたボン書店発行の書籍に魅せられ、刊行人・鳥羽茂をたどる旅。と言っても本編は前段が昭和初期モダニズムとシュールレアリズムの様子が描かれ、後半が鳥羽茂の足取りを追っている内容といった感じ。時代の中に突然現れ、いくつかの詩と同人誌や書籍を残して消えた鳥羽茂の姿はまさに幻のようで雲をつかむようで、実在したのかと思うほど。しかしこの「文庫版のための少し長いあとがき」で思わぬ奇跡が起こったことを知る。私も解説の長谷川郁夫氏と同様、その部分で目頭が熱くなってしまった。そして鳥羽が大地に残した爪痕を丁寧に拾い上げた内田氏の労力と、神様がそのご褒美をくれたような結末に、読了後の震えと興奮で知人の古書店主に「凄い」と伝えたくなったのだった。これからこの本を読もうと思っている人には、書籍ではなく是非文庫版で読んで欲しい。鳥羽氏のことだけでなく昭和初期の詩にまつわる様々な運動、同人誌刊行の様子も知ることができ、当時の日本の文化的豊かさ知ることができたのは収穫。
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単行本(白地社版)だけでは未完結
文庫で加筆部分を読まなければ
その結末を読まねば
そしてその結末の先を読まねば
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とある詩の出版社として短い間に印象を残した個人の肖像です。
著者が古書店主でもあり、装丁や書誌情報の流れは
網羅的でツボを押さえており、図版も充実していて
それを眺めるだけでも楽しい。
ただし、後書きがズルすぎる。
表には出なかった人だから直接に聞き書きをするわけではない。
各種出版物の足跡や、交友のあったであろう人への取材、
他の同人誌への寄稿や出身学校へのアプローチなど
著者の取材は熱意を持って、近づこうとしていく。
けれど、1930年代に活動していた小出版社の
一人事業主なんて足取りが掴めなくても当然である。
結局生まれなどもはっきりしないまま、
おそらく最後の住まいになったであろうところを訪れて終わる。
これだけでも十分に力作なんですけれど、ね。
冒頭に申し上げた通り、後書きがズルすぎるのであります。
初読のときはうっかり後書きから読まないようにしていただきたい。
それにしても日中戦争も始まっている中で、
詩人は詩をこねくりまわしていたのだという事実。
別に希望を見出すようなことではなくて、
そうするしかできない人たちはやはり、そうしているのだな、と思う。