紙の本
問題の所在の明確化
2012/05/17 21:14
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投稿者:ひろひさ - この投稿者のレビュー一覧を見る
語義の定義をした上で、問題の所在を的確に抽出し、それに対する著者なりの
見解を明確にしていて、どの立場からも評価できるものです。
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民族、あるいはネーションという概念及び議論について学部生や一般向けにまとめられた本。正直、ソ連史研究の第一人者が一般的な命題を論じるとは驚いた。しかも無理矢理自らのところに引きずり込むという歴史にありがちな手段や方法ではなく論じている点は評価出来る。
綿密性や実証性に拘る筆者らしく議論を取り上げてはその問題点や課題を挙げたり、また文末の文献紹介の前に一文をふしたりと・・・この辺は読み手の好き好きでしょうね。
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世界史の知識が乏しいので難しかった。
ロシアがグルジアやチェチェンで紛争を起こすのは「在外ロシア人」を保護するためだということがわかった。アメリカのメルティングポット論で、融合の目標とされたのは、「WASP(白人・アングロサクソン・プロテスタント)」をスタンダードとしたもの。とのこと。バルトの人々の目から見れば、第二次世界大戦終了期にやってきたソ連軍は「ファシズムからの解放者」ではなく「占領者」でしかないことがわかった。民族間の違いは深いものだと理解しておかなければと感じた。
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そもそもタイトルが含む学術的領域が広すぎるので、どのような解説がなされ自分の頭の中が整理されるかだけを期待していましたので、それには十分答えうる良書だと思いました。ソ連・ロシアを専門とされる著者・塩川氏が、域内の民族問題を中心に論じられている箇所はこれまでにヨーロッパ人が描いた植民地の民族に関することや、本書でも言及のある『想像の共同体』を書いたベネディクト・アンダーソンが自身のインドネシアでの滞在経験をもとに表したアジア民族観が有名な中では今までにないエリアに光があたっています。
特に個人的に参考になったのはポーランドやバルト三国とソ連との関係です。ポーランドは20世紀における領土的蹂躙の歴史から他の国よりもはるかにおおくの経済的・人的被害をこうむったというイメージが先行して頭の中に埋め込まれてしまっていましたが、塩川氏の描き出すポーランドは領土的大国であり、周辺諸国に住まう民族と近しい人々が国内領土の周辺に住まうことをどのように捉え、国家として巧妙に利用してきたかが描き出されています。このポイントにおいて、私のポーランド観は変わったといえます。
著者も述べている通り、民族や国家という言葉にたいして個々人が抱く帰属意識の濃淡はさまざまですし、他者に利用されることでイズムが燃え広がることも広く知られていますが、その定義も世界的に見ればバラバラでまずは同じ言葉を使っていながらも意味が異なることが専門家である学会においてさえ今なお存在することが、筆者の経験談から示されます。民族や帰属意識、国家観にかんする学問とは、個々人や集団のアイデンティティをいかに定めるかと同意味ですから古くからあるものですが、事例の多彩さも地域性の色合いもまったく異なりがちであるがゆえに世界的統一見解を生み出しにくいものなのですね。
副題につけられた「ナショナリズムという難問」とは言い得て妙です。ナショナリズムとパトリオティズムの違いへの無理解、日本国籍をとった韓国人を「在日韓国人」と呼ぶ意識の根底にある日本人のエスニシティへの視点、エスニシティへの一方的な危険視、などなど読んでいて自分が民族問題からはなれている間に忘れてしまったこの問題の多様であるがゆえに求められる寛容さを取り戻せたかな?とも思うのです。帯に「入門書」と書かれている通り、この本は入門書です。ここから次に進むための
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東京大学法学部教授(ロシア現代史)の塩川伸明によるナショナリズム論
【構成】
はじめに
第I章 概念と用語法―一つの整理の試み
1 エスニシティ・民族・国民
2 さまざまな「ネイション」観―「民族」と国民」
3 ナショナリズム
4 「民族問題」の捉え方
第II章 「国民国家」の登場
1 ヨーロッパ―原型の誕生
2 帝国の再編と諸民族
3 新大陸―新しいネイションの形
4 東アジア―西洋の衝撃の中で
第III章 民族自決論とその帰結―世界戦争の衝撃の中で
1 ナショナリズムの世界的広がり
2 戦間期の中東欧
3 実験国家ソ連
4 植民地の独立―第二次世界大戦後(1)
5 「自立型」社会主義の模索―第二次世界大戦後(2)
第IV章 冷戦後の世界
1 新たな問題状況―グローバル化・ボーダレス化の中で
2 再度の民族自決
3 歴史問題の再燃
第V章 難問としてのナショナリズム
1 評価の微妙さ
2 シヴィック・ナショナリズム?
3 ナショナリズムを飼いならせるか
あとがき
日本語の「ナショナリズム」という言葉には極めて多様な意味が込められている。それはもちろん英語で"Nation"と表記される単語の多様性にもつながっている。国内においては「偏狭な」「排他的な」あるいは「愛国的」といった形容詞を付加されることの多い「ナショナリズム」という言葉であるが、その「ナショナリズム」という言葉の持つ意味を、歴史的な民族-ネイション関係を軸に語るのが本書の目的である。
第Ⅰ章ではヨーロッパ諸言語においてネイションに含まれる民族主義的(民族は政治化したエスニシティと定義されている)な語義の濃淡を指摘した上で、民族とネイションを4類型が提示される。すなわち①民族>国家領域、②国家領域>民族、③民族≒国家領域、④ディアスポラ状態がそれである。
以後第Ⅱ章から第Ⅳ章までは基本的には19世紀以降の広くヨーロッパを中心とした民族問題を論じている。ただ、一般的な国民国家・ナショナリズム論と異なるのは著者のホームグラウンドが東欧・旧ソ連圏であるということである。ソ連という巨大な他民族国家は、域内のアファーマティブ・アクションのように諸民族を力強く保護する一方で、マジョリティであるロシア人の中に「逆差別」意識が広まるという奇妙な問題をはらんでいた。そして、冷戦終結に伴う旧ソ連圏での多くの独立国家誕生は、その領域の切り分け方により、民族的・政治的なマジョリティとマイノリティとが入れ替わったり、交錯することによって時に武力衝突にまで発展する地域まで現れた。
本書の末尾では、第一次大戦以来掲げられてきた「民族自決」論の現実的な限界を示しながら、理性的で先進的とされる西欧の「シビック・ナショナリズム」と野蛮で後進的とされる非西欧(東の)「エスニック・ナショナリズム」というナショナリズムの善悪二元論に疑問を呈している。歴史の文脈から個別具体的な「ナショナリズム」を評価すべきだというのである。
アンダーソンや多くの社会学者が論じるような、ナショナリズムや民族問題に深く関わるマス・メディアの影響にほとんど言及されていないことに少し不満を覚えたが、全体としてよく整理された入門書であり、巻末の文献案内も親切である。
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本書は19世紀以降、近代西欧社会に始まるエスニシティとnation stateにおける「民族」の概念、そしてその受容に対する姿勢について、広く浅く歴史を紐解きながら解説していく。
ネイション意識を「創造の共同体」と取るべきか、それとも「歴史の中の連続性」が次第に形作っていった自然発生的な概念なのか。多くの実例が引き出され、著者も読者も様々な視座から考察が可能となっている。だが結局答えはどちらでもある、としか言えないし、本書内でも著者はこの問題について結論を避ける。
そもそもヨーロッパの極一部から生まれた「ナショナリズム」が「進歩した」西洋文明と共に布教、または受容されていく中で、違った形に変質していくことは必然であろう。オスマン帝国や清のような独自の文化ヘゲモニー観を持つマルチ・エスニシティ国家。ハプスブルク帝国やロシア帝国で行われた「公定ナショナリズム」の試みと挫折。西洋の植民地から新たに独立するやいなや国家としての共同体意識の欠落に直面したインドネシアのような国々。それぞれが言語・文化・土地・風俗などで歴史的に形成されてきたエスニシティ概念と、国家=共同体の構成員資格としての「民族意識」形成の間に生じた様々な問題に向かい合ってきた。これらを一義的に「ナショナリズム」という言葉で片付けるようなことは不可能であり、この近代社会の難問に取り組む姿勢にこそ、本書の知的面白さが潜んでいるといえる。
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それはもう・・。もつれた糸を丁寧に解くような文です。
でも、それがアポリアたる所以。
控えめで(かっこ書きがあまりに多いかも)、緻密で。
それらも好感が持てました。
結論は「紛争が悪循環しないうちになんとかしましょうよ」というものでしたが、それはどうなんかなぁ・・・とも思います。
そんなことは誰だってわかっていますからね。
でも、世界の色々なことが勉強になりました。
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羅列的。それぞれの問題について、軽く、代表的な事実というか見解というかを知りたいならよいのではないかと思った。とっかかりの本という印象。
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第Ⅰ章と第Ⅴ章に関しては、筆者のナショナリズム論に触れられていてとても興味深い。とくに各国の「エスニシティ」「ネイション」などの使われ方の違いは、それぞれの歴史的背景などとのつながりが分かり、大変面白かった。
第Ⅱ章~第Ⅳ章に関しては、ほぼ近現代史。
高校世界史で問題になっているトピックも多く、個人的には総復習??って感じになりましたが、「あぁそっか!!」て思った点もあり、面白かったです。とくに清朝と少数民族の関係は、うまく教科書その他の教材からは引き出せなかったので、改めて納得。
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[ 内容 ]
地域紛争の頻発や排外主義の高まりの中で、「民族」「エスニシティ」「ネイション」「ナショナリズム」などの言葉が飛び交っている。
だが、これらの意味や相互の関係は必ずしかも明確ではなく、しばしば混乱を招いている。
国民国家の登場から冷戦後までの歴史をたどりながら、複雑な問題群を整理し、ナショナリズムにどう向き合うかを考える。
[ 目次 ]
第1章 概念と用語法―一つの整理の試み(エスニシティ・民族・国民 さまざまな「ネイション」観―「民族」と「国民」 ナショナリズム 「民族問題」の捉え方)
第2章 「国民国家」の登場(ヨーロッパ―原型の誕生 帝国の再編と諸民族 新大陸―新しいネイションの形 東アジア―西洋の衝撃の中で)
第3章 民族自決論とその帰結―世界戦争の衝撃の中で(ナショナリズムの世界的広がり 戦間期の中東欧 実験国家ソ連 植民地の独立―第二次世界大戦後(1) 「自立型」社会主義の模索―第二次世界大戦後(2))
第4章 冷戦後の世界(新たな問題状況―グローバル化・ボーダレス化の中で 再度の民族自決 歴史問題の再燃)
第5章 難問としてのナショナリズム(評価の微妙さ シヴィック・ナショナリズム? ナショナリズムを飼いならせるか)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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民族・ネーション・エニシティ等についての定義や概念の説明を1章にしており、古典的な「民族とナショナリズム」「想像の共同体」「国家とエスニシティ」などの理論的な解説をしている。
その後、主にヨーロッパの国々の成立を通じて国民国家の登場、民族自決の中での帝国の崩壊と多民族国家の誕生、冷戦後の世界、ナショナリズムの現代としての問題などを実例で考えていく。
1章は、エッセンスのみであるので、類書である程度の知識があると、そのエッセンスの素晴らしさがわかると思う。
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自分は受験生なのだが世界史勉強のより深い理解への助力となった。
国公立志望の浪人生など比較的時間に余裕のある人が世界史論述や現代文学習にアクセントを付けるために役立つだろう。
と私大志望が評しました。
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"ネイション"や"国民"などこの分野では幾度と耳にする、しかし混同しやすい言葉の定義から始まり、国民国家や民族自決をキーワードとして冷戦後や現代におけるナショナリズムに触れることができる。
『ナショナリズム』(岩波書店)がナショナリズムの起源や19世紀末〜20世紀初頭の歴史的変遷に重きをおいているのに対して、こちらは各地域のナショナリズムの動きがサクッとさらえる鳥瞰図、といえるだろうか。
あっさりしていて物足りない感じがしなくもない反面、読みやすさやとっつきやすさは本書のほうが上に感じた。
最終章「難問としてのナショナリズム」がおすすめ。この分野への知的好奇心が掻き立てられること間違いなし。
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1.塩川伸明『民族とネイション ナショナリズムという難問』岩波新書、読了。新書ながら国民国家とナショナリズムの歴史と現状についての優れた、視野の広い入門書。概念を整理した上で、現在までの歴史を考察する。万能薬を夢想するより、紛争を抑える一つ一つ努力が大切と指摘している。
2.塩川伸明『民族とネイション』。ナショナリズムに関する一般化された理論は、考察における作業仮説としては必須の前提となる。しかし著者は、どの理論に対しても一定の留保というか距離を置いている。ゆえに「良いナショナリズム」と「悪い~」との二分法があるが、どの立場にも懐疑的である。
3.塩川伸明『民族とネイション』。ナショナリズムを巡る議論には、大きな対立や論争がつきまとう。しかし著者は論争の整理を重視しない。論者がモデルとする国民国家の実体に違いがあるからだ。ゆえに本書では各地域の国民国家形成のあり方の「実態」を重視する。ロシア専門家ならではのアプローチ。
4.塩川伸明『民族とネイション』。扱う地域は、旧ソ連地域にとどまらず、生誕の地・欧州からアジア、南北アメリカと幅広いのも本書の特徴であり、ナショナリズムと国民国家の重層性が理解できる。歴史的な実態から出発し、理論を再検討した優れた一冊です。若い人に読んで欲しい。了。
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正直、理解できたとは思っていない。
どこかに侵略されたこともなく、宗教をカルトを混同する日本人にはわかりにくい話。
そして、世界がどのように変遷されていったかがわからないとこの手の話を理解することが難しいことがわかった。
正直、エスニシティなんて言葉恥ずかしながらしなかったし。
わからないでやめるのでなく、もっと勉強したい。