紙の本
どんな怪奇小説よりも恐ろしい結末が待っている。
2009/09/09 05:43
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:wildcat - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『この絵本が好き!(2009年版)』の
海外翻訳絵本部門の第4位に選ばれた本である。
著者・アリス・ウォーカーは、『カラーパープル』で
ピュリッツァー賞と全米図書賞を受賞した黒人女性作家。
大人になって絵本を読むようになったため、
最近気づいたのだが、絵本の翻訳は、
詩人の手によることも多いようだ。
主な著作に訳書ではなく詩集が紹介されている。
最近、読んだ絵本では、『かかし』の訳者の
小池雅代さんも詩人だった。
本書を訳した長田弘氏も詩人である。
絵を描いた、ステファーノ・ヴィタールは、
「世界各国の伝統絵画を研究し、独自の画風をつくりだした」のだという。
濃い色彩で描かれた世界は、なんともいえない鮮烈な印象を残す。
詩の言葉とこの絵が創り出す世界は、
最初はどこか遠くの国のことのようで、でも、違う。
私たちの世界と確かにつながっているのだ。
ページを繰るごとに、
いろいろなものを思い浮かべてみてと、本書は語りかけてくる。
池のそばのカエルたちを、
わら束のにおいをかいでいるロバと
わら束を積んだうえにすわって
すりきれたたづなのはしっこをにぎっている男の子を、
窓の側にいる若い母親を、
大きな森を。
戦争は、すがたをかくして近づいてきて
カエルたちを押しつぶしぺちゃんこにしてしまう。
ロバと男の子の頭のうえに落ちてくる。
大地そっくりの迷彩色の服を着た戦争が
けわしい丘を登ってゆっくりと母親と赤ん坊のほうへ近づいていている。
森のうえの空高いところで戦争は灰色の雲になる。
そして・・・。
思い浮かべるイメージは、だんだん視覚的なものでは済まなくなってくる。
だんだん内感覚に迫ってくるのだ。
なんだか自分自身が侵食されているような感覚になってくる。
今まで読んだ絵本の中で、
もっとも怖いもの、もっとも気持ちの悪いものが、そこに、あった。
味覚と嗅覚と触覚を襲ってくる。
吐き気を催すようなそれは、
でも、確かに、あるものをきちんと描いているんだ。
そして、最後に訪れたもの。
それは、どんな怪奇小説よりも恐ろしい結末だった。
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二〇〇一年九月十一日。覚えているわね、あの信じられない同時多発テロのあった日のことを。あのとき、みんな何をしていたのかしら。確か、夜遅くのことだったと思うわ。
確か、私は好きな人とワインを飲みながらテレビを見ていた。
家族で団欒していた人も人もいると思う。職場の仲間と電車の時間を気にしながら酔っぱらっていた人もいると思う。机に向かって勉強していた人も、夫婦喧嘩して茶碗を投げつけていた人もいたと思うし、子作りに専念していた人もいると思うわ。
ある国ではちょうどお父さんがお昼の支度をしていたのかもしれないし、別な国のある村では学校帰りの子どもたちが道草を食っていたのかもしれないし、また別の国のちがった町では売れ残った品物をぶつぶつ言いながら片付けている商店主の憂鬱があったかもしれない。それでまた別の国の別の町では反応の悪い客に涙目になって歌っている歌手がいたのかもしれないし、その客の中には株で一儲けして有頂天になっているふざけたやつがいたのかもしれない。
そんなこんなでいつもと同じように時間が過ぎていたはず。幸福な人も、不幸な人も、怒っている人も、泣いている人も、行き詰まっている人も、はしゃいでいる人も、みんなそれぞれの人生という時間を過ごしていたはず。
そしてそのときニューヨークは新しい一日が始まろうとしていた。いつもと同じようにはじまり、いつもと同じように過ぎて、いつもと同じように終わっていく一日が始まろうとしていた。ところがぎっちょん、ニューヨークは大変な惨事に包まれてしまった。あのそれが新しい世紀の何かを予兆する一撃だったのかもしれない。わたしはそんな気がした。そしてその予感はあたった。
それから何が起こったかって?そう、アメリカの報復よ。その報復の嵐はアフガニスタンの村々をおそった。いつもと同じように一日を始めようとしていた村人の上に、テレビなんか見たこともない子どもたちの上に、テロとはまったく縁のない女たちの上に、今日の安泰を祈ろうとしていた男たちの上に。爆弾が落ちてきた。銃弾がたたきこまれた。熱い炎がそそがれた。そして多くの村が焼かれ、いやとなるくらいの人が死んだ。
戦争が始まったんだ。戦争はどんどん広がっていった。イラクという国がずたずたになり、たくさんの人が死んだ。
『カラー・パープル』という小説でピューリッツァ賞を受けた作家アリス・ウォーカーはこの中で戦争の恐ろしさを知ってしまった。戦争はふつうに暮らしている人々を、ふつうに暮らしている生き物たちを、ふつうに流れていく時間をぜんぶ食べ尽くしていく。そのことを人は知らなさすぎる。知らないと戦争は私たちの上に突然降ってくる。あのアフガニスタンの子どもたちが予期しなかったように。
戦争がgood ideaだと思う人がいたから、戦争は起きたのよ。Why war is never a good idea? アリス・ウォーカーは問いかける。そのわけを。答えはほらわかっているでしょう、あの後のふつうでなくなった村や町や国を。ふつうに暮らせなくなった村人や子どもたちや女たちや男たちを。ステファーノ・ヴィタールの説得力ある絵がアリスの文に力を与えている。読み返せば読み返すほど戦争���good ideaではないことがわかってくる。ぜひ子どもたちに読ませてほしいし、それよりおとなが読むべきかもしれないわ。
☆☆☆☆
どの教室にも一冊は置きたいわね。えっ?予算がないって。そのくらい自分で買いなさいよ、それで戦争が少しは遠のくんだから。
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6年1組 2011/9/6
4-3 2015/6/23
4-4 2015/7/7
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作品としての完成度はそれなりだが、この語り口では戦争が天災で加害者のなきものとの誤解を招きかねない。戦争を描く際はそれが人災であることをより強調すべきかと思う。
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戦争の恐ろしさを、醜さを詩のように語りかける本。語り口は柔らかく、難解なことばはないものの、その言葉が何を意味するか考えることができるのは小学高学年以上だと思う。ベースのアジア風アフリカ風南米風の鮮やかな民俗的な絵に襲いかかる最後から2番目の絵の「戦争」の姿の立体的でおどろおどろしいことと言ったらハリウッドのホラー映画並で、幼い子どもはトラウマになりそうなくらい。
戦争怖い!戦争嫌い!と刻みつけるに十分過ぎる力がある。
しかし、この本の欠点は、戦争が私たちを含む、それこそ赤ん坊に乳を与える母親のような普通の人間が起こす可能性があるということを伝えていないこと。人殺しはいけない、自然破壊はいけない、文化財の破壊もいけない、と殆どの人は思っている。しかし、自分たちの投じた一票が戦争したい人たちに利用されていることに気づかない限り、戦争は繰り返す。戦争は恐ろしいモンスターではなく、人間の顔をしているのだ。
戦争が起こればどんな酷いことになるかは、この本で十分伝わる。しかし、どうしたら戦争を起こさずにいられるかを考えさせるには至っていない。小学高学年以上ならそこも同時に考えさせたい。
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[江東区図書館]
図書館入口のコーナーから適当に借りてきた一冊。
夏なので、恐らく戦争モノコーナーになっていたんだと思う。
なぜ戦争はよくないか。やや大人目線で、怒りをうちに秘めた教師が凛として生徒に伝え諭すような印象を受ける本。
半ば強制で読ませたけれど、こういう本を読んで一瞬でも現実を顧みられるようになってくれるといいな。
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アリス ウォーカー (著), ステファーノ ヴィタール (イラスト), Alice Walker (原著), Stefano Vitale (原著), 長田 弘 (翻訳)
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息子が図書館で選んだ本。
見るからに暗そうな装丁。
戦争を擬人化した語り口で、淡々とその悲惨さを述べていく。
余韻を残し、オープンエンドな感じで終わる。
3歳児には理解不能まちがいなし。。
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タイトルからもわかるように、文章は直接的でシンプルだが、内容は哲学的。情緒に訴えかける力強い絵柄。最初は穏やかで色彩に溢れた情景が、だんだんと醜く戦争の色に染まって行くのが恐ろしい。
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アリス・ウォーカーが好きなので買いました。
子どもには少し怖すぎるような気がして、もう少し大きくなってから読んであげようと思って隠しています。小学校高学年かな?
なぜ戦争がよくないのか、シンプルに訴えかけてきます。
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戦争を擬人化して表現している。
原著だともう少し分かりやすいのか・・
訳者が良くないわけではなく、日本語だからわかりづらいところがある気がします。
子どもが読むと、ただただ戦争が怖いということは分かっても、戦争の本質が
わからず戦争を天災のようにとらえてしまうかもしれない。
戦争がなんたるかということを理解している人が、
戦争を始めることとは無関係な人たちへの戦争が及ぼす具体的な
影響を深く考えるには良いと思います。
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2001年9月11日のテロ攻撃に対して、アメリカが報復した現実に衝撃を受けた、「アリス・ウォーカー」の思いが詰まった絵本。
子ども向けの、直接的でない優しい文体と、様々な見せ方や表現方法を使い、興味を持たせる絵柄で、戦争の恐ろしさを教えてくれているが、時折、大人が読んでも考えさせられる描写もありました。
特に、戦争は自分の考えは持っていても、自分の襲おうとしているのが誰なのかを知ろうとしないことや、戦争はたくさん経験を積んでも、すこしも賢くならず、自分のものじゃない、どんなものも平気で破壊してしまうこと等、明らかにやり方を誤っていることに気づいていない様には、悲しみしか湧き起こらない。
他の作品でも同じ思いを抱きましたが、普段通りの、当たり前の生活をしている人の人生を無条件に終わらせようとしていることが、どれだけ理不尽で愚かな行為なのかを考えてほしいし、自分の家族がそうされたから仕返しでやったのなら、尚更、その悲しみ、辛さは分かるのではありませんか、と。
人間だけでなく、自然環境や動植物への影響もそうですし、本当に戦争のメリットって、何なのでしょう?
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今まさに一年を超え続いているロシア・ウクライナの戦争とは何なのか、世界中の人間が感じていることを子どもたちにもわかりやすく描かれています。皆んなに読んでもらいたい絵本です。
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〝「戦争」は、とてつもない大喰い。 戦争が食べないものが何かある? 戦争は酷い味がする。 人の体を蝕む。 異臭や思いもよらない副作用のことなど、戦争は決して考えないのよ... 戦争は、子育て中の母親たちの処にもやって来るの。 戦争は何も見ようとしない。 ミルクの大切さを。何より人間の大切さを見つめることができないよ、戦争は! 〟・・・『カラ-パ-プル』でピュ-リッァ-賞を受賞したアリス・ウォ-カ-が、子どもたちに伝えたかった戦争の醜さ。(Why War Is Never a Good Idea)
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「つねに弱いものの立場にたって、社会に問いかけてきたアリス・ウォーカーが、2001年9月11日のテロ攻撃に対して、自国アメリカがおこなった報復の現実を知る。そこには、平和だった毎日の暮らしを破壊され、親を亡くし、さまよう子どもたちの姿があった。「戦争」が何なのか、わからないままに巻きこまれ、傷つく子どもたちをこれ以上ふやしたくない-、アリスの強い思いにステファーノ・ヴィタールが心にせまる絵でこたえた一作。小学生から。」