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紙の本
奇抜さと王道のバランス
2011/10/28 21:31
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
全く知らない作品、作家だったけれど、ソ連みたいな多民族が混在する学園生活、というのが基本設定だと言うことを知り、東欧関係を調べていた時だったので俄然興味がでてきたので読んでみたのだけれどこれがとても面白い。全三巻で完結しているのでまとめて書く。
いかにもオタクな妄想トークが暴走したりするトリッキーな語りは今風なんだと思うけど、物語的にはむしろ王道の、あるいはほとんど古風な学園ものというべき作品で、最近のラノベに良い印象を持ってない人こそ読んでみると良いんじゃないか。能力バトルでもなく、日常系部活ものでもなく、キャラ萌えで引っ張るのでもない、学園青春物語だ。
二百六十八もの王国や「自治活動体」を内部に抱える活動体連邦というのが舞台で、これは明らかにソ連風。そして「本地民」でじつは中央活動委員(この活動、とか委員会とかがとっても社会主義体制チック)の父を持つ主人公にして語り手レイチ・レイーチイチが全寮制の高校に入学するためにやってくるところから話が始まる。この高校はもともと本地民には野蛮だとみなされている連邦内の王国民らのための学校で、レイチはいろんな因果でここに入学することになり、そこでシャーリック王国王女、ネルリ・ドゥベツォネガと知り合う。
この小さな王女がまた野性的というか大仰な言葉遣いと王女ならではの高踏さを持ちつつも、ちょっと文化的に違うところからきたせいで、出会って早々野外で小便に及ぶというインパクトを与えてくれる(後にゲロも吐きます)。萌えキャラ路線から全力で逆走していくキャラ立てだ。
クラスには他の王国から来た人もいて、言葉が通じなかったり、既婚の同級生がいたりといった異文化コミュニケーションあふれる学園生活となっている。私は、アルバニアのイスマイル・カダレがソ連のゴーリキー大学に留学していた時のことを書いた『草原の神々の黄昏』を連想した。ゴーリキー大学にはラトビア、アルメニア、ギリシャ、グルジア各地から学生が集まってくるわけで、作者もこうした連邦国家ソヴィエトの多民族ぶりを下敷きにしているのだろう。
本地と政治的に対立している王国からも人が来ていたり、クラス内で本地民と王国民のあいだに溝があったりする。ここら辺は第一巻の中心軸で、クラスが次第に仲良くなっていくのが描かれているあたり、王道学園ものといっていいんじゃないか。
第一巻では学校の自治委員というのがキーになっていて、そこで囚われている友人のために戦う話だし、二巻の劇対決も同じく、クラスの仲間たちと力を合わせて権力側や大人に対して一泡吹かせる、という構図があって、これを読んでいて随分昔に一冊だけ読んだ宗田理を思い出した。
二巻では父との微妙な関係が本筋と絡んで語られ、進路の問題も出てくるし、最後には学校卒業後の各キャラのビターなその後までを描いているあたり、モラトリアムとしての学園生活というものを正面から書いた、ある意味で非常に古典的なスタイルの話だと思う。今はあまり言わないようだけれどジュヴナイルといわれたジャンルのものに近いように思う。
そういう王道的な話にパンツがどうだとか言う語り手の妄想ネタトークがぶちまけられているのだけれど、この語りは語り手自身の本心(というかかっこよさげな振る舞いへの照れ隠しというか)をごまかす韜晦としても機能している。語り手の韜晦は自分の本心を隠す機能を持つと同時に、今風でない物語を現代的なラノベとして成立させるための小説としての戦略でもあると思われる。
日常的な世界にいる主人公の元に、別の王国から来た王女が現れ、親しくなっていくうちに、等身大の世界から、少女を介してより大きな社会、世界や冒険の世界が開けてくる、というのは少年が夢見る冒険、ボーイミーツガールものの大定番だ。大長編ドラえもんがこの路線の典型的なもので、本作もファンタジックな大冒険こそ起こらないものの、そうしたボーイミーツガールものの定番の構図を採用した作品だろう。ある懐かしさとともに、モラトリアム期の高校生がどう自分の人生を考えるかということを真面目に扱っている点が非常に好印象で、良い意味で教育的というか、まさに高校生にこそ読んで欲しいと思わされた。
わたしが「ジュヴナイル」という言葉で思い浮かべるのは、こうした懐かしさを感じさせる定番の構図と、大人になった作者が子供に向けて子供の問題を真面目に問うていく教育的な要素、というのが感じられる時だ(一般に言う意味とは違うかも)。その意味で、本作は現代ライトノベルの形を借りつつ、ジュヴナイルを語りきった作品だと私は考えている。
きわものと見せかけて文章もしっかりしているし、バックボーンがちゃんとある人なんだろう。劇中劇がやけに面白いと思っていたら元ネタがプーシキンの『大尉の娘』だったりするし、ケータイ小説の文章を古文調に翻訳したところなどは教養の無駄遣い過ぎて笑ってしまう。
奇抜なタイトルとトリッキーな語りとは裏腹に、とてもしっかりとした青春学園ものを物語るというアクロバットを成立させた非常に興味深い作品。作者はこれ以降ほとんど動きがなかったけれど、近々新刊がでるようだ。
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