紙の本
強国に従うしかなかった隣の国の物語。どうしても現在の世界情勢につなげて考えてしまう。
2007/05/24 15:17
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
元のフビライは高麗を属国とし、そこから日本も支配しようとした。日本への侵攻を企む元の命令に苦しむ高麗。元寇を日本でも、元でもなく、その間に挟まれた高麗の目線で描いた歴史小説である。
著者のいわゆる「西域小説」の最後にあたる作品である。「楼蘭」「敦煌」「蒼き狼」など、作者の描いた「西域」の小説はそれぞれに面白い。この作品では、元寇という、日本が直接関係した事柄について、目線を変えて考えさせるという点での面白さが加わっていると思う。
急速に強大化する元に貢物をしなくてはならない弱い隣国。文化を受け入れ、血縁関係を結ぶなどで自国の保証を得ようとするだけではなく、領土を広げようとする元に物資や人材をも供出せざるを得ない。さらには自ら望むわけでもなく、元の先鋒となり、海の向こうの日本へ兵を送り出す。
力のない国は強国に巻き込まれ、その傘の下で従っていくしかないのか。高麗の王族、民衆の苦しみだけでなく、フビライの側に積極的について冷酷なまでに自分の生れた国を駆り立てる人物、内情を理解するだけにあいまいな態度で終始する老獪な元の使いなども描きこまれている。そのことが、歴史の中でも実際にこうあったであろうか、と思わせる複雑な人間の活動、心模様を伝えてくる。
史実を踏まえているとはいえ、小説であるので「そんな事実はなかった」とあれこれ文句を言うことは幾らでもできるかもしれない。大切なのは、「こうも考えられる」目線をくれたことだと思う。弱い国は、いつの時代も似たような選択をせまられているのではないだろうか。現在の世界情勢をどうしても繫げて考えてしまう一冊であった。
投稿元:
レビューを見る
歴史のなかで主導権をとれず、耐えながらも役割に殉ずる人生に胸がふさがれる。派手さはなく、爽快感も無いがなかなか良い読みおわり。
投稿元:
レビューを見る
フビライが生きていた当時の高麗の内部を書いた本。ここから読み取ったのは、朝鮮半島にある国が、いかに中国に恐れを抱くのか、これに尽きると思う。中国が兄で、朝鮮は弟(親と子だったか?)、という構図。支配されればこのようなもの、と割り切ってしまうのは簡単だ。しかし、韓国、北朝鮮の人間からすれば、そうはいかない。彼らからすると、中国は潜在的に敵国なのではないか。
歴史を読むのが面倒だったから評価は低いが、内容から言えば、4つ星位だと思う。
投稿元:
レビューを見る
さすがと言うべき御大の大作。被征服国家の悲哀と一言では表せない歴史。誰が主人公なんだろう、とちょっとぼやけているという点で星4つ。
投稿元:
レビューを見る
朝鮮半島の悲惨な歴史の一幕を見たような。地理的な状況もあり、常に大陸の巨大な権力に怯えざるを得なかったのであろう。それに比べると日本は島国というだけで呑気なものなのであろう。それぞれの国には地理的な状況に基づいての歴史が必然となってあるものである。歴史はくり返すというのもあながち真っ赤な嘘ではない。
投稿元:
レビューを見る
流し読み。同じ(こちらは朝鮮の歴史)中国歴史時代小説の大家、陳舜臣にも言えるんだけど、歴史資料を日本語訳で読ませるような小説って楽しめるのかな、それってあくまで資料であって小説じゃないよね。正直おもろなぃ。
投稿元:
レビューを見る
日本の目から見たら侵略者であり、暴風により2度にわたり奇跡的に防衛された元寇ですが、それを当事者であった高麗の国から描いた作品です。
元の圧制に対する高麗の硬軟あわせた数々の外交戦が主体に語られます。その中でフビライや側近の洪茶丘、高麗国王・玄宗、宰相・李蔵用など多くの人物が登場します。しかし、誰かを主人公に立てた物語と言うよりも、史実に沿って俯瞰的に描いた作品です。かといって史書と言うわけではなくて、血が通っていると言うか、物語でもあります。そのあたりのバランスが絶妙です。
投稿元:
レビューを見る
元の圧政のもと翻弄されつづけた高麗の苦しみがビビッドに感じられ、そのときの歴史にまさに立ち会っている感覚が味わえた。
投稿元:
レビューを見る
「島国根性」なんて言葉がある以上、「半島」にもそれに類する言葉が生成されがちな事情はあるとは思ってたけれど、隣の大国の理不尽さにヒドい目にあい続けたらそりゃ「恨」が醸成されるよな。唐辛子が持ち込まれる前の話。
投稿元:
レビューを見る
二度にわたる元寇を日本の目でなく途中経路にある高麗から見る。武力により属国となった高麗では王や首脳が無理難題の要求に何年も苦しみを味わう。世界史的にも島嶼の地域を無理して征服する意味は不可解だが、いわゆる中華思想のなせる技か。2021.3.24