紙の本
読む前に抱いていたイメージを良い意味で裏切ってくれた実力派作家の登場。その心地よさは万人受けするものだと信じています。愛情に溢れた読者の背中を押してくれる作品集。
2009/05/11 17:21
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
初出「旅」を加筆・修正。
12篇からなる短編集。連作というわけではないが少しずつ話の関連性があります。
その関連性が少しリラックスできますね、まあ読んでのお楽しみということで。
宮下奈都、初読みです。イメージというものは怖いですね。作者の名前だけで抱いていた若々しいイメージとは違っていた。
しかしながら老成した文章でもない。瑞々しいけど完成度も高い文章を堪能できる作品だと言えますわ。
なにより一字一字丁寧に書かれた文章という印象ですね。
ちょっと前後するが作者について簡単に紹介しますね。
1967年福井県生まれ。上智大学文学部卒。
2007年長編『スコーレNo.4』でデビュー。本作は2作目となる。
人生はまるで旅のようだ。
これは実際の旅(旅行)だけでなく、日常から離れること(想像上も含む)をも意味する。
私がこの作品から一番感じ取ったことですね。
主人公はまるで私たち読者の分身のような普通の人々。
OLに始まり、看護師、主婦、大学生、母親などなど。
まあお決まりのようにそれぞれが少しですが鬱屈した部分を持ち合わせてます。
その鬱屈した部分というのは、私たち読者と大同小異。
作者はまるで読者の胸の内を知ったかのように語りかけてくるのですね。
そして少し日常から離れてみることで、自分自身を振り返ったり出来ます。
日頃いろんなことに振り回されて生きている主人公たち。
でも読み進めるごとに作者はいろんな味付けを施すことによって、主人公達に変化を与えます。
その味付けは読者にとってはまるで“暖かい眼差し”にほかならないのですね。
そこがこの作品集の一番の心地よさであり、他の作家に負けない手腕なのでしょう。
まず最初の「アンデスの声」に度肝を抜かれた。
死に間際にわかる祖父の架空の旅先、遠い南米です。
そして祖父の生き方を肯定している作者に共感しない読者はいないであろう。
まず物語にどっぷりつかることを余儀なくされるのである。
全部素晴らしいのですが、一篇だけ選べと言われたら「白い足袋」かな。
田舎に帰って幼なじみの結婚のために足袋をはいて走るシーンはとっても印象的。
自分の足の裏も痛む感覚、忘れられませんわ。
本作を読み終え、この心地よさに浸れた短い時間を心から喜びたいなと思う。
再読する時は旅のお供に携えたいな。
そうだ、タイトル名の素晴らしさは読み終えたあとに実感できたことを最後に付け加えておきたい。
たまには遠くの街に住むあの人に想いを馳せるのもいいですね。
活字中毒日記
紙の本
ごく普通の女の子達のフツーの人生…でもそれが眩しい
2012/08/19 20:35
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:桔梗 - この投稿者のレビュー一覧を見る
すこし不器用な女の子達が 迷い傷つきながらも 自分の足で立とうともがいて
そして前に一歩を踏み出す
そんな彼女達のごく当たり前の平凡な日常を切り取った12の短編集
12コの話はすこしずつ繋がっていて
いろいろな女の子達を見つめるやさしい視線がどの章にも流れ
読み終わると 短編集というよりはひとつの長編作のようだとも思う
自分は何をどうしたいのかもわからないまま でもこのままじゃいけない なんとかしなきゃと思い 一歩踏み出す
こだわってたことを流して 歩き出すのに必要なのは“自信”
大事なのは自分を信じること
簡単なようで難しいことなんだけど ちゃんと自分を信じてあげたら
何があってもきっとまた前に進めるし 怖くなんかない
そう思う
派手な女の子や優秀な女の子 くるくると要領良く世渡り上手な女の子でなく
普通の女の子が 地に足をつけて懸命に生きようとする姿に共感を覚えるし とても眩しい
フツーの人生だって すっごくキラキラしてるよ!と思える そんな本だ
紙の本
読み終えるやまた読みなおしてみたくなる
2016/05/04 17:38
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:koji - この投稿者のレビュー一覧を見る
どう手に取ればいいのか思案してしまう
綺麗で繊細だけれど存在感のある
薄く透明なガラスで作られた
ワイングラスを思わせるような作品でした。
ステムもボウルも気をつけて
力加減して持たないと壊れてしまいそうなのだけれど
本当は見た目以上の強さと許容を持ったグラスたち。
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大好きな作家さんの新刊。旅をモチーフにした短編集。『アンデスの声』の真っ赤な花のイメージがぱぁーっと頭の中に拡がるような感じ、田舎の家での日だまりやすすけた感じ、そのどれもかそこに息づいているような感覚を受けました。今回の本では色が鮮やかに感じられる作品が多かったように思います。他にもほっとするようなスープの味とかちょっと薄めミルクティーとか、土鍋で炊いたご飯のお茶漬けとか、読んでいて香りも味も漂ってくるような文章が魅力的でした。読んでいてとても心地よく、ほっとさせてくれる場所があります。
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○ちょっと落ちてるときに「王様のブランチ」で紹介されているのをみて、数日本屋でさがして見つけた瞬間思わず買ってました。短く、いろんな人がつまってる話で、もっと時間を気持ちを落ち着かせてもっかい読みたいかなぁ。「流しなさい」はちょっと教訓になりました。小さく、リンク貼られてる感じも面白かったです。
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ほんの少しずつ重なりあった12編の短い物語。
短い中にもひとつひとつの物語の主人公たちが儚げで壊れそうになりながらも真摯に生きる姿に共感を覚え読み終わったあとにじんとした余韻が残っています。
どこかへ行くのも旅だけど人生そのものが旅なんだなぁと感じさせてくれました。
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素晴らしい短編集!
主人公たちは、迷い、立ち止りながら、また歩み始める。
気持ちが振れる感じや、その場所の空気の感じが、読んでいるこっちにまでまるで生みたいに伝わってくる。
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『スコーレNo,4』がストライクだったということで読書。
・あらすじ
看護婦、OL、大学生、母親。普通の人々が織り成す、遠くからの声に関する短編集
様々な普通の人に関する短編集で、そのどれもが暖かい雰囲気でとても面白かったです。短編といっても少しだけリンクがあったりするので、その発見も楽しいです。宮下奈都さんの文調がとてもお気に入りです。
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12編からなる短編集。
読んでいくうちに、連作短編集だと気づきました。
さりげなく、全ての物語が繋がっているんです。
さまざまな「旅(たび)」に纏わる物語。
どれも長すぎず短すぎずとてもバランスのいい分量で仕上がっていいます。
どの物語も静かに流れていくのですが、それでいて心にじっくり沁みこんで来ます。
じんわり、きーんと響いてくる。
どれも淡い色で描かれていますが、読んでいて心地の良い文章を書く作家さんだな、と「スコーレNo.4」のときと同じように感じました。
昔の恋人と、現在の息子がある同じ行動をとったことに対する不安な気持ちと焦燥感が伝わってくる「どこにでも猫がいる」。
次はかならずあると信じる気持ち 「足の速いおじさん」
優しいミルクティーが素直にさせてくれる「ミルクティー」
足袋をはいてひた走るシーンが爽快な「白い足袋」
特に好きな4編です。
お気に入り度:★★★★☆ (2010年1月12日読了)
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旅に纏わる短編小説なんですが、決して旅で私が成長したとか、旅で新たな友人の一面を垣間見た何て言う旅そのモノを書いているのではなく、旅へ行く前の旅へ行こうと思うまでの心境や、旅の後何十年後にあの旅は自分の人生ねキーだったんだと振り返ったり。そんな旅の本です、少しずつ被っているのでちょこちょこページを戻って確認してしまいました。
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「どこにも出かけたことのなかった祖父母に豊かな旅の記憶があったことに私は驚き、やがて甘い花の香りで胸の中が満たされていくのを感じていた。」(『アンデスの声』より)
どの作品も優しくて柔らかで暖かい。
今の私にちょうどぴったりなのかもしれない。
答えは出ないけれど、迷っている。
答えなんてないけれど、悩んでいる。
そんな時に、大丈夫、大丈夫って言ってくれている気がした。
どの作品も印象深いけれど、特に引用した『アンデスの声』は最初に収録されていて、最初にノックアウトされたのだった。
綺麗な物語で、旅をちゃんと連想させられた。
どこか、とおくに、いきたいな。
【4/4読了・初読・市立図書館】
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旅をテーマにした12編の短編が収められている。なぜか一つだけ男性視点だが、他はすべて女性が語りの物語。文章はどれも、かなり綺麗で読んでいて気持ちがいい。内容も女臭くなく、さらりとしていて好感が持てた。
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くすんでいた毎日が、少し色づいて回りはじめる。錆びついた缶の中に、おじいちゃんの宝物を見つけた。幼なじみの結婚式の日、泥だらけの道を走った。大好きな、ただひとりの人と、別れた。ただ、それだけのことなのに。看護婦、OL、大学生、母親。普通の人たちがひっそりと語りだす、ささやかだけど特別な物語。
(BOOKデータベースより)
***
初宮下奈都作品です。
本当は、今ツイッターで話題(?)の、「スコーレNo.4」を読みたかったのだけれど、なかったのでこの本を手に取ってみました。
「アンデスの声」
「転がる小石」
「どこにでも猫がいる」
「秋の転校生」
「うなぎを追いかけた男」
「部屋から始まった」
「初めての雪」
「足の速いおじさん」
「クックブックの五日間」
「ミルクティー」
「白い足袋」
「夕焼けの犬」
以上12編からなる短編集です。
短編集と言っても、それぞれが完全に独立しているわけではなく、“あるお話に出てきた人物がこっちの話にも”って感じで、連作っぽくもなっています。
私が好きなのは、「秋の転校生」と「部屋から始まった」です。
「秋の転校生」は、語り手である“僕”が、小学生の頃に少しの間クラスにいた転校生の少女のことを思い出すお話。
この少女のように、普段は忘れられていても、ふとした時に思い出されるような、記憶の片隅に残っていられる存在になれたら良いなぁと思いました。
「部屋から始まった」は、語り手の女性の、心の解放のお話・・・かな。
他の話も、みんな良かったです。
この本は、読み終えたときに心の中に燻っているモヤモヤみたいなものを外に出せるような、そんな気がする本でした。
そして、上述のように、連作っぽくなっているわけですが、私は各話の登場人物を書きだしながら読みました。
12編もあるとどれに誰がどんな役割で出てきたのか覚えきれなかったので;
でもそのおかげで繋がりをはっきりさせながら読めました。
関係性を踏まえたうえで再読するのも楽しそうだなぁと思います。
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足袋に纏わる短編集12作。1話が少し短いなあと思いながら読み進めるうちに、同じ登場人物が何度も出てきて話が繋がっていることに気付きます。田舎で暮らす瑞穂、土鍋でご飯を炊くみのり、うなぎを追いかける男濱岡、看護師の蔵原など。「どこにでも猫がいる」「うなぎを追いかけた男」「足の速いおじさん」「ミルクティー」「白い足袋」が特に心に響いた。
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イチオシ作家の宮下奈都さんです
12の短編がつまった一冊で、どのはなしも旅にまつわる素敵なはなし
しょっぱな、アンデスの声、でわたしは泣いてしまった。
宮下さんの創り出す言葉はときに怖いくらい、的を得てて、
素晴らしいのです。