紙の本
カワイイ荷風
2015/01/28 12:05
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:桑畑三十郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書の前半では「散歩の達人」と言われていた荷風を、あえて「家の中の人」という視点からとらえて論じている。家の中でひとり、無為にゆるやかに過ごし、家事をしながらあれこれ物思う荷風。
家事を仕事ととらえ、子供のしつけの一環とも考えていた幸田露伴との対比もおもしろい。女性ならではの視点といってよいだろう。
荷風というと近代文学の大御所というイメージを持っていたが、著者の手にかかると愛すべきカワイイ存在に思えてくる。
本書は第31回サントリー学芸賞を受賞しているが、第1回に受賞した磯田光一「永井荷風」を硬派の荷風論として読み比べるのもおもしろい。
私はこれを機に荷風の作品をいくつか読んだ。「妾宅」のとぼけた文体は漱石の「吾輩は猫である」のようだし、「来訪者」は偽書ミステリー風でおもしろい。また「九月」のこんな皮肉な文章もよい。
「勉強しないと乞食になるぞ。」然し勉強しても社会主義なぞの本を読めば乞食よりもひどい目にあふ。
投稿元:
レビューを見る
荷風が家(家族や家系のことではなく、建物)に愛着を持っていた様子、『紅茶の後』というエッセイ集について、女性観、若くして老いを考えていたこと・・・など。
図書館で予約し、取り寄せて読んだ。私が好きな偏奇館のことがあまり書かれていなかった気がするし、独特の文体で「。」か「、」かを読み分けるのに神経を使ってしまうのがよろしくない。
でも内容は良かった。こんど読むときはメモを取って整理しながら読みたい。
投稿元:
レビューを見る
ほんの少し読んだ荷風作品と、荷風に関するものの中で、やっぱり荷風って凄い、興味深い人なのだ!!と実感。
持田さんの、実は荷風ってこんな人だったのよ、このように読むと面白いでしょ!!みたいにおしゃべりしてくれる。
もう、持田さんは止まらない。
「ほら、こんなにステキな人でしょ。自分で原稿用紙の版木を創っちゃうのよ!」とか・・。ほんとにいろいろとおしゃべりしてくれて、ついこちらも身を乗り出して「それで持田さんはどう思うの?」なんて聞いてしまう。
荷風の魅力を女性が引き出す・・というのも面白い。
モネの睡蓮が象徴的に登場する。表紙もモネ。そして栞紐も色を合わせた薄紫。
いいな!
投稿元:
レビューを見る
請求記号:910.2/ ナ
資料番号:011096153
「じゃあ、読もう。」と思える、現今の学術書3冊①
近代文学研究者の持田氏が,総合学術出版社 慶應義塾大学出版会より出版した社会・風俗分野の1冊。本書では,永井荷風を「フェミニンな作家」とした指摘(前著『朝寝の荷風』)をさらに深めています。
投稿元:
レビューを見る
第31回(2009年) サントリー学芸賞・社会・風俗部門受賞という栄冠に輝いたこの本。著者の荷風研究の、近年の到達点を示すものであるのは、間違いがない。私は先に2冊の著者による荷風論を読んでいたから重複するところがあったが、これはこれで一読しておきたいものだと思う。
キーワードとして、庭・親家庭と荷風・都市生活の巧者・老人の擬態による作家の社会批判などが指摘できると思うが、これらは私が既読であった本でも繰り返し語られていた。斬新な視点ではあるが、今後どんな読みを展開するのか非常に気になる方である。
泉鏡花に関する著書や折口信夫に関する著書は、未だ読んでいないがどのような関連性があって、どう同質の通底するものがあるのか、自分なりに読んでみたら、随分勉強になると思う。
投稿元:
レビューを見る
とかく、言葉を弄ぶような「いわゆる文芸評論」は巷間に数多あれど、永井荷風を論じるには、このような文体こそ論じるに相応しいと直感した筆者の着想は、まことに正鵠を得たものであったと言えよう。
投稿元:
レビューを見る
荷風の作品、人となりのあらましと奥深さを初めて知ることができ、目から鱗、とてもおもしろかった。持田さんのその他の著書、そして荷風の作品を読みたくなった。良い本との出会いに感謝。蔵書として購入したくなった。