紙の本
ありがちな材料の、極上の料理法
2009/06/30 16:16
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カフェイン中毒 - この投稿者のレビュー一覧を見る
4つの物語が収まっています。
どの話にも、少しだけ日常を逸脱した不思議な出来事が起こります。
それは奇跡と崇めるほど登場人物を幸せにはしないし、救いにもなりません。
それでも、人生に疲れ、かけ違えたボタンをはめなおす気力もなくなった彼らを、
ほんの少し浮上させてくれたり、穏やかな死に導いてくれたりします。
壊れきった家庭が、捨てた家族が、捨てられた子供が、
そう簡単に、美しく持ち直すはずはありません。
傷は傷跡になって残り、ときにはそれが人生を狂わせることにもなります。
それでも、そのままにしてしまわずにすむ希望を感じさせてくれるのです。
時空を超えた恋人との逢瀬。
女と逃げることで捨てた家族への想い。
幼い自分を捨てた最愛の父の面影を追う人生。
父親と同じようにアルコールに逃げ、壊しかける家庭。
ベースは、ありがちな設定ばかりです。
知らない小説家のものなら、手に取らなかったかもしれません。
しかし、これらは丁寧に料理されています。
日常の描写の繰り返しに、登場人物たちのやり切れなさ、苛立ち、後悔などが、
少し怖いくらいに自分のものになってしまいました。
細部の積み重ねによって、少し奇妙な中にもリアルさが生まれ、感情移入しやすくなるのだと思いますが、
この人の小説には常にそれが感じられ、陰惨な話にもついつい引き込まれてしまいます。
すべての物語に、涙線が緩みました。
けれど、涙は流れることなく、寸止め。
その絶妙な感じが、さすがというか、おそらく私が著者を好きな理由のひとつなのだと思います。
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表紙絵の通り透明感のある短編集。描写が細密でいい。時空を超え、愛を家族を求め続ける。それが実は身近にあったのだ、となれば「青い鳥」ですが。手に入ろうが入るまいが求め続けることが美しくせつない。
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『あの坂道をのぼれば』―妻子を捨て女と逃げた男の28年ぶりの帰宅。男の思いは、あの日の駅のホームに漂着する。『タンポポの花のように』―廃墟の遊園地で見つかった笑顔の死体。女性が50年待ちつづけていたものは?『走馬灯』―亡くなったはずの父を見かけた。臨終の床で父が口にしていた妄想が現実となって…。切なくも希望に満ちたラストが鮮烈な表題作ほか、3篇を収録。
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中編4編。基本的に前向きな話ばかりなので読後感も◎。ただ、朱川作品を読んでいるようなデジャヴ感が気になりました。
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“てのひらたけ”が繋げる彼女との不思議な邂逅
亡くなった父の妄言が現実になっていく“走馬灯”
妻子を捨てた父がそこで見るものは・・“あの坂道を登れば”
何故、彼女は黄色い子供の帽子をかぶり死んでいたのか“タンポポの花のように”
家族のあり方を巡る、四つの短篇。
時間を超え、生死を越えて繋がっていく絆の物語。
哀しく温かな気持ちにさせてくれます。
どの話も読みやすく、すっきりとまとまっている。
ホラー作家の書く不思議な物語ばかりだが、怖いストーリーは無いです。
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うなぎ鬼や顔なし子も良かったけど、これはそこから一歩進んだ感じ。この人の本は短編の方が好きかも。暗くてつらくなりそうな話なのに、大げさになったり作り物っぽくないそこはかとない幸福な終わり方が良かった。すばらしい。
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『てのひらたけ』
『あの坂道をのぼれば』
『タンポポの花のように』
『走馬灯』
4つの不思議で切ない短編集。
悲しい物語の中にも、あたたかい気持ちにさせてくれる短編集です。
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てにひらたけ
あの坂道をのぼれば
タンポポの花のように
走馬灯
の四編から成る短編集。
読み終わらないうちに返却日となったため、先の二編を読んだだけ。
「てのひらたけ」のような過去と現在が交りあった、不思議な世界は好きだな。
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3つの短編集です。
今までの作風からガラリと変わった印象が。
不思議系なお話でした。
どれも嫌いじゃないです。
表題作のてのひらたけがロマンチックでよかった♪
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125:不思議なタイトルに目を引かれて手にとってみました。表題作の他に3編が収録されている中編集。どの作品にも「時間の流れ」が描かれていて、過去と現在(そして時には未来)が一続きに大きな絵を作り出しています。時間ものが大好きなので、これは嬉しい!
幻想的な作品ばかりなのですが、登場人物たちはそれなりにのっぴきならない事情を抱えていて、ふとしたことで簡単に壊れそうな危ういバランスを保っている状態です。その危うさ、抱えた複雑な事情が時間によって解きほぐされ、詰めていた息をふっと吐き出すことができる、そんな優しさと希望がごく淡く描かれていて、水彩画のイメージでした。
「てのひらたけ」「走馬灯」が好きです。読み終えて、思い出すほどにじわじわと良さと余韻が広がっていく感じ。特別何がどう、というわけではないのですが、地味にお勧め。