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「医者と弁護士は、必ず一人ずつ友人にしろ」という持論を力説する知人がいました。
その弁護士の友人が、宇都宮氏だったら、どれほど心強いことでしょう。
弁護士法の第一条に次のように書かれているそうです。
「弁護士は基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」
弁護士の使命は社会的弱者、経済的弱者の味方になり、その立場を代弁するものである、という実に明快な行動倫理をそのまま信条として実践してきたのが宇都宮健児弁護士です。
氏がそういう信条を持つに至ったのは、生まれ育った生い立ちなくしては考えられません。
国東半島の貧しい半農半漁の村に育った彼は、従兄弟や兄弟が中卒か高卒で学業を終わるところ、親戚が学資を出し合ってくれたおかげで、東大に入学します。
それを思うと、自分だけが出世コースを歩み、エリート官僚や銀行重役になっていいものか。自分の家は豊かになっても、村の人々が貧しいままでいいのか。
人間の生き方として卑怯なのではないか。
こういうことをきっぱり言ってのける大人はすごいと思います。
学生時代、こういうことを言っていても、大人になって翻意する人はたくさんいます。
「若い頃は、青臭いこと言っていた」「世の中のきびしさがわかっていなかった」
「幼い正義感では食っていけない」
大人たちはいろいろなエクスキューズをします。
でも、やり続けた人には、エクスキューズは必要ありません。
宇都宮氏が闘う相手は、やくざ、取立て屋、マルチ商法、オウム真理教、サラ金、カード詐欺、悪徳弁護士、メガバンク。
経済的弱者の弱みにつけ込んで、そこからさらに甘い汁を吸い上げようとする連中です。
現在、もっとも時間を取って取り組んでいるのは、反貧困運動です。
自ら「反貧困ネットワーク」の代表として奔走し、年越し派遣村では名誉村長を務めています
貧困の境遇に陥り、社会から孤立した人々は、自らの殻に閉じこもって悶々としています。
暴走する若者もいます。彼らは自暴自棄になっており、人を傷つけることで苦境への道連れを得ようとします。親友をもたず、親からも見捨てられた彼らの孤独こそが、犯罪を生む一つの温床になっているのです。
反貧困ネットワークは、孤立した人たちに連帯の場を提供し、彼らを疑似家族として支えるものなのだそうです。
読み終わって、「微力ながら、自分もなにかしなければ」と、小さな志の芽を植えつけられる本でした。
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サラ金との戦いを通して、消費者の救済を実現した人。勇気と情熱を感じます。
九州大学
ニックネーム:すず
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「社会正義」という言葉は昭和の時代に輝いていた。
決して今でも通用しないとは思わないが、平成は経済停滞がながく続いたせいか「生産性向上」の方に比重がかかってきたように思える。
著者は昭和を代表する「正義の士」といっても過言ではないだろう。
本書は、たんたんと受任した事件を取り上げているが、それぞれの事件とその結末こそが、昭和と平成という時代を表していると思えた。
「正義の弁護士」が小説やドラマに出てこなくなって久しいが、過去には間違いなく居て、大切なものは何かを教えてくれる本である。
ただ、後半は制度立案上やむを得ないことなのだろうが、政治性が目立ったことにはちょっと違和感も感じた。