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紙の本
国家存亡の危機に登場したミラボー。その怪物ぶりは圧巻であった。小沢さん、鳩山さん!もっと悪に徹しなさいよ。
2010/01/23 22:52
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
この第4巻は1790年8月から1791年4月まで、この短期間の革命路線の混迷振りを濃密に描いている。
死を迎えつつあるなかで夢と現実に折り合いをつけながら、しかもおのれの野心を貫こうとするミラボーの執念。彼の剛腕ぶりはひどく泥臭いものであるが充分に魅力的であり、まさに大政治家としての面目躍如である。
特に現下の日本、政権交代後の乱気流、アナーキーの毎日をここまで見せつけられると、いまではこういう大悪党としての政治家の登場は望むべくもないことと痛感させられる。
一般的にはミラボーとはフランス革命史上どういう立場にあった人物とされているのか?
「自由主義貴族として人気を博し、89年エクサン・プロバンスの第三身分より全国三部会議員に選出され、〈獅子の咆哮(ほうこう)〉と呼ばれたその雄弁により、憲法制定国民議会で大きな影響力を行使した。当初、国王の圧力から議会を守ったり、また議会内では、教会財産の国有化などを提唱したが、憲法問題では国王の絶対的拒否権を要求し、革命の急進化に反対する立憲君主主義者の立場をとった。さらに90年末から宮廷と内通し、国王から手当の支給を受け、自分の借金返済に当てたりした。放蕩と過労のため急逝し、遺体はいったんは革命の功労者としてパンテオンに葬られたが、国王との内通発覚後、国民公会により除去された。(平凡社世界大百科事典より)」
ミラボーは動き始めた資本主義経済の桎梏となりつつある旧体制を変革しなければならないとの展望に立っている。一方、革命のプロセスでは今なお金と力だけはある旧体制に属する階級との妥協は絶対不可欠だとの現実を充分に認識している。
さらに面白い男だと思うの、とにかく資金のパイプだけは確実に太くしておこう、と徹底した貪欲さである。
資金源は新興のブルジョワでもあれば、貴族であり、僧侶であり、微妙な国際政治のバランスにたつイギリス、プロイセンであり、あるいは国王である。
そして大衆に向かっては他にひけをとらないカリスマ性を持っている。
加えて通説にある以上の放蕩三昧である。
おのれの欲望に忠実な愛すべき俗物だったようだ。佐藤賢一はこういう煮ても焼いても食えない男が国家の存亡がかかったこの難局に各般の利害を綱渡り的にコントロールしていくという怪物ぶりを圧倒的筆力でクローズアップする。第4巻はここが圧巻だった。
この物語のこれから、どこかに主人公として登場するロベスピエールはまだ理念先行の「若造」である。ミラボーがロベスピエールにもっと自分の欲を持てと諭す。
人間は君が思うよりずっと弱くて醜い生き物。とことん純粋な民主主義をやれるほど強い生き物ではない。「おのれが欲を持ち、持つことを自覚して恥じるからこそ、他人にも寛容になれるのだ。独裁というような冷酷な真似ができるのは、反対に自分に欲がないからだ。世のため人のためだからこそ躊躇なく人を殺せる。ひたすら正しくいる分には、なんら気も咎めないわけだからね」
ウ~ンとうなりながらこの逆説的至言を味わった。
「とことん純粋な民主主義」は確かに難しいものだと、今の政治状況をヒヤヒヤしながら傍観していると………。
鳩山由紀夫先生や小沢一郎先生などがこの小説を読んだらどんなメッセージを受け取るのだろうかと複雑な思いがしてきた。
紙の本
死の床のミラボーの忠告は、ロベスピエールには届かなかった。
2009/12/03 20:38
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
1789年、フランス革命は成就したけれど、革命によって誕生した国民議会は、左・右・中間派に分かれて大混迷を続けています。
ジャコバンクラブを中心とした左派は、僧侶をバチカンではなく革命フランスの前に膝まずかせようとして強引にルイ16世を説き、「聖職者民事基本法」を通過させました。神父の献身の対象を神やローマ法王ではなく、フランス憲法と人民に置き換えようとしたのです。しかし全国で宣誓拒否僧が相次いで登場し、いまやフランス宗教界を二分する「シスマ」(教会分裂)が再現されようとしていました。
ここでなおも革命を推進しようとしたタレイランやロベスピエールの動きを抑えようとしたのが、他ならぬ「革命のライオン」、ミラボーでした。彼は国民の「亡命禁止法」にも反対し、左派のジャコバンクラブを骨抜きにして、ルイ16世をパリから退去させ、現議会の解散と新議会の召集をさえ図るのですが、1791年4月2日、持病が悪化して急死します。享年42歳でした。
ミラボーが、絶対の正義と、とことん純粋な民主主義を熱烈に志向する若きロベスピエールを死の床に呼び寄せ、暗に戒める名場面が本書の読みどころ。つねに清濁を併せ呑むこの巨漢が、苦しい息の下から、
「己が欲を持ち、持つことを自覚して恥じるからこそ、他人にも寛容になれるのだ。さもないと独裁者になるぞ。独裁というような冷酷な真似ができるのは、反対に自分に欲がないからだ。世のため、人のためだからこそ、躊躇なく人を殺せる。ひたすら正しくいるぶんには、なんら気も咎めないわけだからね」(ほぼ原文)
と、懸命に説くのですが、その忠告は聞き届けられず、このあまりにも誠実で謹厳実直なモラリストは、ついにフランスの「第2のカルヴァン」になってしまうのです。
朝の8時に「友よ、私は今日死ぬ」と医師に告げて紙を所望し、8時半に右手にペンを握って「眠る」と書いて事切れたこの豪傑は、ロベスピエールなど数多くの革命家に比べてじつに幸福な死に方をしたものだ、と言わざるを得ません。
♪今宵また「ねんねぐう」と呟きて即眠りゆくしあわせなるかな 茫洋
紙の本
さすがの佐藤賢一でもミラボーが活躍しない話を面白くすることはできなかった。ミラボーの偉大さをあらためて知らされる巻。あるいみ、中だるみかな?
2010/04/02 20:41
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
東北大学出身作家の雄、佐藤賢一の小説フランス革命も4巻目になりました。今までの巻でも明示されていたのかどうかはわかりませんが、今回初めて巻末を見て、この小説が、全10巻になる構想で、年二冊、3月と9月に出て、完結するのが2012年9月の予定だということを知りました。ふむ、結構、長い・・・
ちなみに、既刊分について触れておけば、1/革命のライオン、2/バスティーユの陥落、3/聖者の戦い、に続く第四巻です。初出は「小説すばる」2008年7月号~2008年11月号で、単行本化にあたり、大幅に加筆修正してあるそうです。
で、出版社のHPのことばにちょっと引っ掛かったので書いておきましょう。
*
紛糾する議会、ロベスピエールの台頭
オータン司教・タレイランが推進する聖職者民事基本法は、非難が集中し頓挫する。ミラボー、ロベスピエールたちはどう動くのか。日本小説史上初・フランス革命の全貌を描く渾身の長編歴史小説。
*
なんですが、最後の「日本小説史上初・フランス革命の全貌を描く」というのが気になるのです。じゃあ、大仏次郎の『パリ燃ゆ』はいったいなんなの? フランス革命の全貌を描く渾身の長編歴史小説ではなかったの? って思うんです。我が家にある朝日新聞から出た大仏次郎ノンフィクション全集で三巻のあの本は?
む、ノンフィクションだから小説とは違う? だって大仏は「「許される限り、在った事実の力に頼りながら、学術的歴史書の持たない自然の肉付けをし」と、あとがきで書いているわけで、位置付けも歴史書であり読み物でもありうる作品です。ドキュメントではなく、ノンフィクション・ノヴェル。やっぱり、歴史小説でしょ、どう読んでも。
なんでこんなこと騒ぐか、っていえば、史上初、なんていうところにこの佐藤の小説は価値を置いていないんです。大仏とは異なる視点で、もっと人間臭くあの革命を捉えている。だから面白い。ま、流石の佐藤の筆も、ミラボー不調となったときの味気なさをカバーできるようなものではありませんでした。
正直、三巻までは生き生きとしていた文章が、人物がこの巻を堺に急速に輝きを失っていきます。田中角栄亡き後の政界にこれといった政治家が登場しなかったように、ミラボーの不調はこの小説から精彩を奪ってしまいます。政治家としては中道を狙いすぎたきらいはありますが、ミラボーの前にはロベスピエールも、タレイランもダントンも脇役にしか見えません。
正直、ミラボー亡き後の巻を読む気がしない。申し訳ないけれど、日本人にとってのフランス革命なんてそんなものではないでしょうか。あと6巻の長丁場、ちょうど中だるみの頃合なのかもしれません。この苦境をどうやって乗り越え、往時の輝きを取り戻すことができるのか、全てが魅力ある登場人物にかかっています。
新しい人間が登場するのか、それとも今いる人物のうち、誰かが大化けするのか、それとも小者ばかりが騒ぎ立て、尻すぼまりで終るのか、今から気になるところではあります。最後に目次の引用。
1――ナンシー事件
2――抗議集会
3――議決
4――不評
5――有無をいわせず
6――第一人者
7――王の批准
8――サン・シュルピス協会
9――新しい僧侶
10――聖別
11――亡命禁止法
12――裏側
13――死の床
14――遺言
15――獅子の居所
主用参考文献