紙の本
自傷行為について理解を深めたい人へ
2017/04/15 11:22
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投稿者:あずきとぎ - この投稿者のレビュー一覧を見る
2009年初版。
著者は、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所自殺予防対策センター副センタ―長という長い肩書(出版時)を持つ、精神医学者である。
本書は二部構成になっており、第1部で自傷行為の定義とその発生(発現)要因を解説し、第2部で自傷行為への対応・治療について述べられている。
特徴的なのは、想定されている読者で、自傷する若者たちの支援をしている人たち――プライマリケア医、精神科医、保健師などや、最も多く彼らと遭遇しているであろう中学校・高校の養護教諭やスクールカウンセラーに向けて、執筆したのだという。
(もちろん、自傷者本人が読んではいけない訳ではない)
本書における著者の主張の柱となるものは、「自傷行為は、アディクション(嗜癖)化し、やがては自殺企図へとつながっていく」というものだ。
自傷行為は、身体を切る(cut)ことで「つらい感情」などを切り離し(cut away)、「身体の痛み」によって「心の痛み」に蓋をする行為であり、その意味で「生きるために」切るのだが、繰り返すうち効果も薄れ、「心の痛み」に蓋をしきれなくなり、「死」を引き寄せてしまう、と著者は考えている。
元々、自傷者は「死にたい」「消えてしまいたい」という思いから自傷をし始める場合が多い。
その「つらい感情」は自傷行為によって、一時的に緩和される。
そういった意味で「生きるために」自傷をしているのだが、効果が薄れ、アディクション化し、周囲の非難・無関心などから再び「死にたい」「消えてしまいたい」という(初めの)思いに戻ってしまう。
しかし、それは初めよりも、もっと強い思いとなってしまっており、具体的な自殺念慮・自殺企図に結びついてしまうというのだ。
「リストカットじゃ死なない」かも知れないが、「リストカットする奴は死なない」とは言えないと、著者は警告する。
援助者は、こうした自傷行為の実態や進行プロセスを理解した上で、自傷者への援助・対応に当たらなければならない。
その具体的な方法や手段、注意点などは、第2部に詳述されている。
本書は、前述のように、主に自傷行為の援助者を想定して書かれたものである。
該当する方たちには、とても有用な手引きとなるだろう。
また、自傷をやめたいと積極的に思っている自傷者当人にとっても、参考になる書であると思う。
《注意》
本書を、自傷者本人が読む場合、かえって自傷を促してしまうことも考えられるので、十分注意していただきたい。
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たいへんすばらしい内容です。
自傷行為のケアについて、現時点でもっとも実践的な視野と方法へ、目を開かせてくれます。
何度も読んで、その度に発見がありそう。
著者の愚直とまでいえそうな表現スタイルは、真摯さの現れであり、来診者と向き合う中で生じた苦悩を、確かな知識にまで昇華させた力量とぴったりあわさって、この本を名著の域に達しさせたと思います。
こういうのを、~のバイブルというのでしょうが、この本を掲げて知ったかぶりをしたり自慢したいと思っても、そうする気すら起こらなくなる実に強力な著作。
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後輩に研究課題の相談をされた際に読んだ本。
半日で読み切る羽目になりましたが・・・自傷行為について、何の知識が
ない私が読んでも、わかりやすかった一冊。
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すっと入ってくる内容だった。偏見がなく、淡々と書かれている。
どのように対応すればいいのか具体的に書かれてあり、是非参考にさせてもらいたい。
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自分のことを少しでも理解するために読みました。
長年、自傷行為と付き合ってきて何となく分かっているつもりでいましたが、その散漫で曖昧な考えが、頭の中で論理的に再構築されていくような感じでした。
第Ⅰ部は自分を理解するために、第Ⅱ部は他人に理解してもらうために、とても役に立つと思います。
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過去の自分と向き合うような本でした。
その時の周りの人々の対応が、いかに心なく追い詰めるものだったか。今知ってよかったのか、悪かったのか。
それでもなんとかやっている自分が不思議な気がします。
こういう気持ちをズバリ読み解いて対応してくれる人に出会いたかったです。それは叶わないと結論づけて、辛い気持ちを感じてはならない、語ってはならない、と決意したばかりの今に読んだから、理屈としてすっと入ってきたのかもしれません。
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近くに自傷している人がいたら読んでみたらいい本。
精神論や感情論など一切ナシ。本当に科学的なアプローチ海外の論文とかの引用も多くてなかなか納得感のあるものでした!
自傷自体や、その対処だけでなく依存症というモノそれ自体にも理解ができた。
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自傷行為は辛い瞬間を生き延びるためにあるが、繰り返されることで死をたぐりよせる可能性があること。
自傷をする若者の一番の問題は、辛い感情を誰にも打ち明けずに一人で解決しようとする生き方にあること。
自傷行為を叱責したり禁止したりするのではなく、本人の言葉に耳を傾ける必要があること。
自傷行為についての理解が深まり、援助のヒントが得られました。読みやすく、おすすめです。
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#読了 様々な研究や調査の結果とその解説が淡々と書かれているわりに、著者さん自身が関わった患者さんの事例、著者さんが精神科医としてどう心境を変化させていったのかも書かれていて、とてもとっつきやすい本になっている。
自分が自傷行為をする誰かの支援に回ることはないと思う。けれど、この本の内容のようなことを知る人が支援員さん以外にも一人でも多くなれば、救われる人もいるのではないだろうか。
大変興味深く読みました。
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もとは薬物依存の治療を専門にしていた著者が、リストカットに代表される自傷行為について、どう捉えるべきか、周囲がどう対処すべきか、について述べた本。「自傷行為は自殺企図とは異なるが、自殺関連行動である」(p.229)、つまり自傷行為で死ぬことはないが、「将来の自殺に関連する危険因子」(p.237)であるということが繰り返し述べられている。さらには、「将来加害者になっていく可能性を示唆するサイン」(同)であったりもするので、援助者は自傷行為を無視せず、傾聴するという姿勢が大事だ、という内容。
リストカットはアピールなんじゃないか、という考えをおれも少し思っていたり、おれはやらないけど「なんでそんなことやるんだ」、「自分を大切にしろ」とか問い詰めたり説教したりする人がいるのも分かるので、実際どう対処すべきか、あるいはどういうプロセスを経るのかということを知りたいと思い、読んだ。以下は気になった部分のメモ。
自傷行為のうち、何回も単調な自傷行動を続ける、頭を何回も壁に打ち続ける、みたいな「常同的自傷行為」には、レッシュ=ナイハン病が関連しているものがあり、この患者は「ある遺伝子の欠損によって体内の尿酸値が上昇し、痛風の症状が見られるだけでなく、脳器質障害の症状として自傷行為を呈するようになります。レッシュ=ナイハン病患者では、自らの唇や舌を噛みちぎるなどといった重篤な自傷行為が高頻度に観察されます。」(p.29)というのは驚いた。尿酸値とか一見関係なさそうなものにも影響するのか、みたいな。あとは唇や舌を噛みちぎるというのも受け入れられない話だけど、「自分のことを『リストカッター』や『自傷ラー』などと呼ぶようになり、自己同一性の根拠を自傷行為に求めるようになる人がいます。」(p.32)というのも恐いし、さらにそのあとに紹介される「偽悪的趣味」というのが、本当に気持ちが悪くなる事例で、こんなことされたらうろたえてしまう。それとは変わって、「文化のなかのボディもディフィケーション」(p.52)の話は文化人類学的な話?で、さらに「ボディピアッシングにとどまらない、様々なボディもディフィケーションの普及に最も大きな貢献をした人物は、何といってもファキール・ムサファーでしょう。」(同)ということで、そういう人がいるらしい。「未開民族が行っていた身体を加工する様々な風習を追体験することで、現代人が失ってしまったものが何であるのかを振り返り、そういったものを回復すべきであるという思想を掲げて、『モダン・プリミティブ運動』を興し、様々な身体パフォーマンスをセルフポートレートとして発表してきました。」(同)ということらしい。ヒッピーみたいな感じ?
リストカットについて、最初に書いた、「アピールなんじゃないか」ということについては、調査では2割弱はあるらしい。「『重要他者(家族や友人、恋人)に自分のつらさを分かってほしくて』(18.2%)という意思伝達、もしくは自分の要求を通すために、周囲を操作する目的から行われる自傷行為もなかったわけではありません。しかし、そうした意思伝達や操作を目的とする自傷行為(略)は、援助者が考えているようはるかに少なかったのです。」(pp.64-5)ということだから、ないわけではない、けれどほとんどは「不快感情の軽減」にその目的がある、ということが分かった。「一種の自己治療」であり、「『誰の助けも借りずにつらさに耐え、苦痛を克服する』ための孤独な対処法」(p.65)ということだそうだ。ただし、他者を操作する、ということでは、「自傷行為によって周囲に強烈な感情的反応を引き起こすことができるのを学習し、他者操作性を帯びてくることもあります。最初は誰もいないところで周囲に内緒で始めた自傷行為が、やがてそれの持つ重要他者に対するパワーを発見するわけです。」(p.109)ということもあって、その経過によって目的も異なってくる、ということはありそうだ。あとは教員として恐ろしいと思うのは、「クラスごとの自傷経験を調べてみると、クラスによって自傷経験者の割合が著しく異なり、自傷する生徒が非常に多いクラスがある一方で、まったくないクラスもあることが分かったのです。(略)クラス単位では自傷行為の『伝染現象』が起きている可能性がある」(pp.79-80)というのは恐ろしい。個人的には不登校や遅刻も伝染する、と思っているが、自殺まで伝染するというのは考えたくない。ただ確かに「毎回のように男子学生が鉄道自殺をするシーンが描かれ」(p.81)たドラマがドイツであって、その後「数週にわたって、ドイツでは鉄道自殺が増加したのです。特に注目すべきは、ドラマのなかで自殺したものと性別や年代が同じものが多く見られたという事実です。これらの自殺行動は、年代や境遇といったものが共通している者に対して、強い『感染力』を持つ傾向があるのです。」(p.81)という、ろくなドラマじゃないな、という感じ。
そして、援助者の留意すべきこととして、援助者が「かかわりをはじめた当初、一時的に自傷行為が悪化することはめずらしくありません。回復するプロセスで一時的な悪化を呈するのは、こうした心の問題では時々見られる現象なのです。」(p.141)ということは是非知っておいて、冷静に対処しなければいけないと思った。それから「自尊心や自己効力感の乏しい若者は、たった1つの問題行動を『いけない』『やめなさい』と否定されただけでも、すぐに『人格を否定された』『全面否定された』と早とちりしやすいところがあります。」(p.155)というのは納得。みんなガラスのハートを持っているので。「そうした若者に『あなたがこれまで生きてきたということ、あなたという『存在』は正しい。ただほんの少しだけ改善したほうがいい問題点があるだけだ』というメッセージ」(同)を伝えるべきだそうだ。あとは「自傷する若者は、たとえ表面的には挑戦的な態度をとっている者でさえも、『愛されたがり』の傾向があるということである。したがって、彼らは何とかして援助者から『愛してもらおう』として、自分から『もう自傷しないって約束する』などと申し出てくることがあるのです。」(p.157)ということもあるらしい。みんな構ってちゃんで、ガラスのハートで、という感じなのだろうか。性被害など、重大な被害を告白してきた場合、まずは「一度に詳細をすべて聞いてしまうことよりも、告白に感謝し、その勇気をねぎらい『あなたは何も悪くない』ことを伝えることに主眼を置いた対応がよいと思います。初回面接で多くを語りすぎた人のなかには、次回の面接��キャンセルし、面接を中断してしまう人もいます。」(p.181)という、面接終了後のクールダウン、気まずい感覚にとらわれていないかどうか、という確認までしないといけない、というのは盲点だった。いっぱい話してくれたからいい、というものではないということが分かった。それから、自傷行為の「置換スキル」(p.195)というのはぜひ援助者としては覚えておきたい。中でも「氷を握りしめる」、「紙を破る」、「カラオケで大声で叫ぶ」なんて、出来そう。思いっきり皿を割るアトラクション、というのが昔どこかであった気がする。「筋トレに励む」というのは男子中高生におすすめできそうだ。そして「刺激的な置換スキルはあくまでも過渡的な対応であり、最終的には後述する『マインドフル呼吸』のような、鎮静的な置換スキルができるように導くことが目標である」(p.197)というのは忘れてはいけないと思う。「静かな一人きりになれる場所を確保」(p.199)して、「目を閉じて、ゆっくりと息を鼻から吸い、肺に空気を満たして溜めた後、次は吸うときの3倍の時間をかけて、口から息を吐き出します。これを数をかぞえながら繰り返します。1から数えながら呼吸を繰り返し、10までいったら再び1から数え直しながら呼吸を続けます。こうしたことを最低でも15分、理想的には20分以上繰り返す」(同)ということらしいが、これはうまくできるようになるには練習が必要らしい。慌ててこれをやってもうまくいかない、というのは想像できる。あとは、「自傷について正直に話せない面接は、時間と労力を無駄にするだけの虚しいものです。その意味でも、支持・肯定のメッセージはあっさり伝えるべきであり、ときには『本当は、最近自傷したくなっているんじゃない?』と、折に触れて援助者の側から聞いてみる必要もあるかと思います。」(p.207)ということで、「支持・肯定のメッセージがあまりにも過剰に伝えられてしまうと、そのことが彼らに援助場面への過剰適応を強いてしまう」(同)ということだから、自傷に限らず、中高生の対応というのは、押したり引いたり、本当に難しいものだなあと思う。
著者自身の臨床の失敗体験も載っていたりして、色々この問題について考えることができた。(22/09)
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『#自傷行為の理解と援助』
ほぼ日書評 Day664
連休中には、少し重めの本。年間3万人の自殺者を出している我が国において、少しでも、そうした人たちの苦しみを和らげることができるかを考える。
"リストカットでは死なない"ことは多くの場合に当てはまるが"リストカットする奴は死なない"は間違いである。
「誰かの真似」や「関心をひきたくてやっている」は、最大の禁句。
自傷行為と自殺行為の違い。
「死ぬためじゃなく、生きるために切っている」「自殺しないために切っている」と言う人もいる。
「皮膚を切って、心の痛みを見える傷に変えている。心の痛みを堪えられないけど、身体の痛みならば耐えられるから…」といった切実な声を聞くことも多い。
専門医の忙しさ。1日の外来患者が50人を超える。名付けて「ドリフターズ外来」、すなわち"夜、眠れたか?飯食ったか?顔洗ったか?歯を磨いたか?また来週…」と決まりきった応対だけに終始し、薬の処方だけが増えていく。
対応・援助する側自身が"病まない"ようにする工夫も必要。
対応にあたってはTALKの法則。
T: talk 誠実な態度で話しかける
A: ask 自殺についてハッキリと尋ねる
L: listen 相手の訴えを傾聴する
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読むのがけっこうキツイ。
ただ理論的に自傷行為について書かれているので、自傷行為についての知識を得ることや理解するのにはよい書物