紙の本
異色の経歴をもったトム・ジョンーズ氏によるデビュー作であり、非常に珍しい物語です!
2020/06/02 11:25
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、異色の経歴をもった作家トム・ジョーンズ氏のデビュー作です。彼は、アマチュア・ボクサーとして活動後、海兵隊に入隊するのですが、持病のてんかんのために除隊後、ワシントン大学を経てアイオワ大学創作科を卒業し、その後、コピーライター、用務員を経て小説家となった人物です。同書には、10の短編が収録されており、表題作『拳闘士の休息』では、登場する人物の多くが徹底的に体を痛めつけられます。むろん、それに伴って精神もズタズタになっていきます。体と神経、それらを総合して、仮に「身体」と呼んでおくとすれば、同作では、あたかも徹底的に痛めつけられボロボロになる「身体」と引き換えに言葉が次々に発生し、意識や生命が消滅寸前のところで最も文章が輝くという地獄の反比例状態が全編を通してほぼ常態と化した作品となっています。なかなか他にはない珍しい作品と言えるのではないでしょうか。ぜひ、一度、読んでみてください。
電子書籍
表題作に励まされる
2018/05/31 05:25
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
海兵隊に所属していたボクサーの、新たな旅立ちを描く「拳闘士の休息」に胸を打たれました。極限状況下でも自らの信じることを見つける大切さを感じました。
紙の本
飾り気のないワイルドな文体が良い
2015/12/10 02:36
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投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
本作はどこかに欠損(肉体的だったり、精神的だったりします)を抱えた人々の生き様を切り取った短編集です。表題作「拳闘士の休息」ではベトナム戦争を経験した兵士について一人称視点で描かれています。その他の作品は、記憶を失った放浪するコピーライターや、余命わずかになって生にしがみつく老女などが主人公となっており、一人称視点だったり三人称視点だったりします。
個人的にはトム・ジョーンズの作風と、岸本さんの軽快な訳文には一人称視点の方がしっくりきたので、表題作は特に印象的な作品でした。他には、同じくベトナム戦争を題材にした「ブレーク・オン・スルー」や、次々に違う女性を愛していく軽薄さに自分らしさを見出す男の物語「ワイプアウト」などが面白かったです。
本作に続く第2の短編集「コールド・スナップ」(訳:舞城王太郎)も読みたくなりました。
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糞まみれなのにクール。
救いが無いのに軽妙洒脱。
からりとした絶望。
乾ききった糞のような小説。
だが目が離せない。
読むのを止められない。
このスピード感に目眩まで感じる。
とんでもない小説だ。
翻訳の調子も素晴らしい。
酔うように歌を聞くように一冊の本が読めるなんて。
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2010/05/27
この本の感想はひと言では言い表せない。
強いて言えば「やられた!」かな。凄い小説があったもんだ。
紀伊國屋新宿本店「世界文学ワールドカップ」に感謝です。
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世界文学ワールドカップ。から
ビブリオマニアな友人にすすめられて。
岸本さんの翻訳。その時点で間違いない。
リアルで生命力があふれる。
しなやかでやたら筋肉質な感じ。
どのお話もパワフル。
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ちょっと前まではこのようなマッチョな文章は苦手だったのだけれど、そのなかに流れるリリシズムを感じて好きになってきた。美しい短編集。
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表題作を含むベトものは「プラトーン」や「ディアハンター」じゃなく「ワンスアンドフォーエバー」や「フルメタルジャケット」に近い感じがした。社会や他者などから受ける精神的肉体的痛みが通奏低音のように全編に流れる。それに耐え反撃したとしても「ロッキー」のようなヒーローにはなれない。そもそも自ら望んだ闘いではないのだから。「リアルスティール」のようなもの悲しさが常につきまとう。
どの短篇も読んでいて映像となって見えてくるのだけど、特に『白い馬』が強く印象に残った。物語も描写もとても好きだ。
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『蚊』がいちばん好きな短編だった。切れ味というか語り口調、物事の見方や世界をどうとらえているかカーヴァー好きな間違いなくオススメできるし、ブコウスキー好きにも。どこかこわれた登場人物たちは愛おしくはないが他人ではない、そんな感じ。
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苦しくて病んでて壊れててどうしようもないのに生き続ける力。ブレーク・オン・スルーのバギットが印象に残りました。コールドスナップが楽しみです。
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この本を舞城が訳したらどうなっていたのかな、と思う。この本のほうが『コールド・スナップ』よりも全体の出来が格段に違っていい。トム・ジョーンズの繊細さや、孤独と恐怖、諦念や小さい希望がよく伝わって来て切ない。
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この短篇集に登場する主人公の一人ひとりが病んでいます――精神面あるいは肉体面、あるいは両面において。さまざまな病魔とたたかうかれらは、つねに戦闘状態です。その意味で、訳者が言うとおり、かれらにとっての人生の舞台は、拳闘士にとってのリングに譬えることができます(そして実際、作者自身がそうであったように、かれらには元ボクサーという経歴を持っていることが少なくないです)。
では読後感は気が滅入るかというと、必ずしもそうではないのが不思議です。悲惨としかいいようのない人生を描きつつも、一筋の光を描くのがとてもうまく、読み終えると独特な爽快感のようなものも味わえました。
訳文もすばらしく、この意味でも快作です。
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ベトナム戦争、末期癌、癇癪…。一癖も二癖もある主人公たちが、戦争・社会・病魔などに振り回されつつも、我を通して生きて行く。 友人に紹介されて読んだのだが、その友人に右ストレートをおみまいした後、ハグしたい。よくぞ紹介してくれた!と。 最初はアーウィン・ウェルシュっぽいかな?と読み始めたが、圧倒的にタフな内容に翻弄。素晴らしい。
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原書名:The Pugilist at Rest(Jones,Thom)
訳者:岸本佐知子(1960-、横浜市、翻訳家)
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苦しかった。読んでいて苦しかった。
この短編集に登場する人たちは、肉体的に、あるいは
精神的に病んでいる人ばかり。
癲癇(てんかん)の発作に苛まれる元海兵隊員、ガンが
進行している老婦人、アル中の元ボクシング世界チャンプ、
自分の名前すら思い出せないコピーライター、など。
なぜこれほど病んだ人たちが出てくるのか。そのヒントは
著者の経歴にある。
この本の著者紹介をそのまま抜粋。
“アマチュア・ボクサーとして活躍した後、海兵隊に入隊。
持病の癲癇のためベトナム戦争に行かずに除隊後、
ワシントン大学を経て、アイオワ大学創作科を卒業。
その後コピーライター、用務員の職を経て作家になる。”
この短編集に収められた作品の大半は、著者自身の
体験や経験が色濃く反映されたものらしいということが
分かる。
中でも出色なのは、ベトナム戦争を舞台にした表題作と
その他の二篇から成るPart 1。
実際には行っていないはずなのに、むせかえるような
狂気に満ちた戦場を、本当にリアルに描き切っている。
読んでいて本当に苦しかった。でも、読んでよかった一冊。