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新装版「物理の散歩道」三冊目。40年以上前の大御所達の雑学的なエッセイ集。面白かったのは「斜め向きに歩こう」。船をこぐための櫓とオール、スクリューの違いで、和船の櫓の方がスクリューに近い、とか。ヨットが風上に向かって進めるのはなぜか、などの揚力(風の方向に垂直な力)に関するお話。例えば、船につけた風車に前進スクリューが取り付けられていれば、向かい風で船は前進できるか?など、考えてみると面白い。
”ハイディンガーのブラシ”なるものが紹介されていた(太陽に垂直な方向の青空を眺めれば見える八の字上の模様)。散乱光の偏光に関するのですが、自分で試してもまだ見えてない。
この時期に読んだことで意外と面白かったのは、後半の「数理倫理学序説」。原発が推進された時期に書かれている文章で実際に原発の例が出てきます。どういうことかというと、原発に限らず事故の確率と、それが倫理的に許容できるかどうかを主張するお話で、許容できるほどゼロに近い確率ならやりましょう、それを皆で認めて始めた後、もしも事故がおきたときの責任は、関係者だけじゃなく社会みんなで分かち合おう、というような内容。確率0じゃなきゃダメ、じゃなくて、灰色でも限りなく白に近ければ、得られる利益を天秤にかけよう、という、どちらかというと、原発に詳しくはない物理学者として原発推進の立場で書かれているようなきがした。
例えば、自動車事故に合う確率が低いながらあっても、だからと言って外に出ないことはないし、その確率が100万分の1ぐらいなら無いに等しいとして扱う。逆に、事故を起こして人を殺す可能性があるからと言って自動車の運転が許可されないことはないわけだし。
ある確率以下のことは倫理的に責任を問わないとしないと、何も行動は出来ないし事業も行えない、との論理展開かな。もちろん、起きたときのために保険は必要とも書いてある。しかし、これらはその事故が起きたときの結果の大きさも考慮されなければならないでしょうね。
あと、最後の「でたらめの科学」の乱数表を使った紙上パチンコが面白かった。完全にランダムに確率的に起きる現象でも、ツキが来て儲かったり、逆にすっからかんになったり。いわゆる、ランダムウォークと関係するのかな。