紙の本
こういう本に出会うと、得した気持ちになります。ホラー作家だと思っていたのが、いつの間にかミステリを書く、しかもかなり立派な、と考えを変え始めていたら、連作でこのレベルまで来てしまった。お見事!
2010/10/28 18:45
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
黒田潔のイラストは、いかにもホラー小説らしいもの。といっても表立ってグロテスクだとかオドロオドロしいとか、そういうものではなく、でも官能的というのとは明らかに違っていて、どこか透明感のある冷たさ、怖さがあるわけです。しかも、白地に黒の線描でまとめることはしないで、赤を一箇所入れる、その効果たるやまさに「血と薔薇」です。
カバー後ろの案内
セピア色の凄惨◇小林泰三
「親友を探してほしい」。探偵は、古ぼけた四枚
の写真を手がかりに、一人の女性の行方を追い
始める。写真に一緒に写っている人々を訪ねて
いくが、彼らの人生は、あまりにも捩くれた奇
妙なものだった。病的な怠惰ゆえに、家族を破
滅させてゆく女。極度の心配性から、おぞまし
い実験を繰り返す女…。求める女性はどこに?
強烈なビジョンが渦巻く、悪夢のような連作集。
カバーデザイン 斉藤秀弥
カバーイラスト 黒田 潔
カバー印刷 堀内印刷
文庫書き下ろし
書下ろしらしく構成は面白いです。私などは目次を眺めて、ああだこうだと色々考えてしまいました。でも、悩むほどのことはありません。そのままです。つまりレイという女性を探してほしいという女性と、それを請け負った探偵の、まずは依頼内容の確認の様子と、一週間ごとに必ず経過報告を求める依頼人に対する報告部分とからなっている、そう思ってください。最初の「探偵と依頼人」はプロローグ、最後のそれはエピローグだと思ってください。
そう理解すれば、その間に四つの報告書があり、それをめぐる三つの会話がある、そういう構成です。ちなみに、依頼人は年齢不詳ではありますが、探偵から「お嬢さん」といわれ「それほど若くはない」と答えていますから20代後半でしょうか、探してほしい相手のことをどんどん忘れてしまう点を除けば、ごく常識的な考えをもった女性です。
それに対して探偵のほうは、といえば、これまた年齢不詳というところまでは似ていますが、正直、真面目に探偵をする気があるのかどうかよく分かりません。しかもです、彼の依頼人に対する態度もですが、報告する内容のほうも、これが果たして依頼に応えているのか疑問を抱くようなものばかり。おまけにそこに登場する人間は、異常なまでにねじれています。どれほどのものかは、読んで味わって、苛ついてもらうとして、簡単に内容に触れれば
探偵と依頼人
待つ女 :大学祭で思い切ってナンパしてみた男と、翌日、デート先の公園で出会うことの出来た女との人生・・・
探偵と依頼人
ものぐさ:楽して人並み以上の生活をしたい、それが女が思う「人並みの生活」。収入の少ない夫を会社に行かせたあとは・・・
探偵と依頼人
安心 :何をしていても不安で仕方がない、たとえば金魚、水道水のカルキが悪いという、でもどう悪いのか実験を・・・
探偵と依頼人
英雄 :だんじりで父親が死んで以来、だんじりを見る気もしなくなっていた少年をいつも庇っていてくれたおじさんんは・・・
探偵と依頼人
で、立派にミステリしています。最後は、立派! 予想外でした。
投稿元:
レビューを見る
こちらに書きました。
http://rene-tennis.blog.so-net.ne.jp/2010-03-26
投稿元:
レビューを見る
連作ホラー。たしかに「凄惨」。こういうのが苦手な人にはお勧めできません。うわあ、凄いなあ……。
「ものぐさ」と「安心」が、お気に入りといえばお気に入り。凄まじかったです。ただグロテスクなだけじゃなく、心理面でもかなりえげつないものが。ひそかにブラックユーモアも感じるけれど、突き抜けすぎて。ここまでくると、コメディのようにすら思えます。
投稿元:
レビューを見る
奇妙でどこかねじくれた世界。「レイ」を探す女性と探偵。
後味の悪い話って基本的に苦手なのですが、なんかこの話の主人公たちにはそいうものを感じないんだよなあ。
なんでそうなる?! と思うことはあっても、恐怖するというより笑ってしまう。
その独特さも小林泰三の持ち味だと思うんだけど。グロさと共存する可笑しさ。笑えないけど笑える。やっぱり小林さん好きだ。
「ものぐさ」は、読んでてイライラするけどこういう考えって自分でも無意識にしてるなあ、とちょっと反省した。
「自分が行動できないこと」を棚にあげて勝手に誰かに期待して勝手に絶望して、勝手に憤る。
ちょっとせつなくなりました。
あんまり後味が悪くないのは、主人公たちが自分の心の中では納得しているからなんだろうな。
探偵さんのフォローも的確というか屁理屈というか。
一番の衝撃は、ラスト数ページ。
もしかしてこの二人は「密室・殺人」のあの二人なの? それとも似ているだけ?
「密室・殺人」の二人は大好きだから、この結末は切ないなあ。
彼女には元気で幸せでいてほしい。そこだけちょっともやもやが残る話。
投稿元:
レビューを見る
4編収録の連作ホラー集。それぞれに大雑把なラベルを貼るなら不条理、ギャグ(私にとっては……。ホラーと笑いは紙一重と言いますし)、生理的嫌悪、スプラッタ、といったところか。掴み的な意味で不条理は二番目以降にもってきた方がよかったのかなーとは思いますが、概ねいつもの小林泰三節でファンには安定な感じ。新たに足を踏み入れようという方は別方向からの進入をオススメする……かも。
投稿元:
レビューを見る
カタルシスを排除しまくった後味の悪い話ばかり。嫌悪感で読み進めるのがわりと疲れました。「ものぐさ」「安心」のマジキチっぷりはすさまじい。
投稿元:
レビューを見る
いつの間にか出ていた小林泰三新作。連作短編形式だが、つながりは弱い。内容はさすがの歪さ。特に「ものぐさ」と「安心」が酷い。キモオモシロい。
投稿元:
レビューを見る
えーと、理屈は通っているんです、みなさん。
思いっきり壊れているけれど、理屈は間違えていません。
修理しなきゃ。
そういうお話でもないですけど、まぁそんな話かもしれない。
ただし、思いっきり不快になる方に理屈がずれてますので、ご注意を。
投稿元:
レビューを見る
夢見が悪くなる気色悪さ。
(この本の場合、褒め言葉だと思います)
たまにすごく辛いものを食べたくなるのと同じように、こういうの読みたくなる。
ダジャレかよ、と言ってはいけない。
投稿元:
レビューを見る
コメディ?ホラー?
いいえ、一度味を占めると抜け出せない、これぞ泰三ワールド。
いつもは一つ二つくらいハズレがあったんだけど、今作は一貫性があったからか、全てが面白かった。
特に「ものぐさ」、と「安心」は笑いこけた。
目を背けたくなるようなグロテスクな箇所が多かったけれど、全体を通して貫き通される屁理屈も、ここまで通せば逆に爽快!
投稿元:
レビューを見る
まず目につくのが[四]というキーワード。
そして[レイ]という女性。
「探偵事務所]。
理屈っぽい探偵と、標準語圏の出身ではなさそうな依頼者。
そして最後の掛け合いで、[密室・殺人]のあのコンビが頭の中に。
しかし[密室・殺人]未読の方には少しふわふわした終わり方で、釈然とされないのではないかと思い、評価無し。
投稿元:
レビューを見る
ワロタ、ある意味で非常に面白く、ある意味で非常に馬鹿馬鹿しい話だった。「ものぐさ」とか「安心」とかはその最たるものだろうと思います。
しかし、馬鹿馬鹿しいと断じつつも僕は好ましい気持ちで読みました。僕は嫌いではありません。
でもやっぱり馬鹿馬鹿しいのです。だから星2つ。
投稿元:
レビューを見る
「論理と異常」
探偵に親友を探してもらうわたし。
その調査報告書にはおかしな人が書かれていて……。
あなたは自分の考えと違う人を、
どうしますか。無視しますか。
それでも付き合わないといけないならば。
あなたは怒るかもしれない。
でも、あなたの考えが正しいとはだれも、
証明してくれない。でもあなたは怒る。
人間なんて自分と違うものを攻撃する生き物。
死ねばいいのに。
投稿元:
レビューを見る
長編ですがオムニバス形式なので読みやすかったです。頭のおかしいヒロインが探偵に変な調査を依頼したと思ったら、探偵も頭おかしかったという超展開ワロタ。特に「ものぐさ」が抱腹絶倒。小汚くてシュールな雰囲気が筒井康隆の「家族八景」ぽいと思いました。ただしエロと超能力はない。
投稿元:
レビューを見る
同一人物がある人の話を聞くという構成からなる短編4つ。
どれもレベルが高いけど一番いいと思ったのは『ものぐさ』。
実際に起こらなくもなさそうなところが怖い。ゴミ屋敷の人って面倒くさがりってレベルを超越してるんだろうな。