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セレンディピティと近代医学 独創、偶然、発見の100年 みんなのレビュー
- モートン・マイヤーズ (著), 小林 力 (訳)
- 税込価格:2,860円(26pt)
- 出版社:中央公論新社
- 発行年月:2010.3
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紙の本
「幸運は準備された心に微笑む」。近代医学史読み物としても面白い、医学上の発見の話を満載。
2010/06/28 16:11
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
原題はHappy Accidents。近代医学を進ませた発見の「きっかけ」はなんだったのかについて40近くの例が紹介されている。
著者は「進歩は論理的にのみ進められるとはいえない」ことの事例を列挙することで、「科学研究を大きな進歩に導く力としてのセレンディピティ的な部分が軽視されている」と現状の研究を取り巻く体制にある問題点を指摘する。少々厚いが、今後の科学研究、発展に何が必要なのかを考えさせてくれる一冊である。
第1章は細菌学、2章にはガン、3章は循環器、4章は脳・神経と大きくわけ、薬物ばかりでなく装置の話などもある。
バラバラの「発見物語」が沢山続くので、ちょっと飽きるかもしれない。翻訳のせいか原著のせいかはわからないが、ところどころ専門的な知識がないと読みづらい(論理が飛んでいるような)箇所がある。しかし一つ一つの事例は興味深く、面白くまとめられている。
著者の国アメリカの話なので、薬物などについては「認可されている」ものが日本の現状とは異なる場合も多い。そのあたりは注意が必要かもしれないが、製薬会社や政府の事情が販売や研究にどう影響したかなどの話は世界共通な気がするので、なかなか参考にはなる。
セレンディピティに該当するかどうか少々疑わしい気がする例もなかにはある。しかし「意図していない観察や結果が突破点になった」研究が少なくないことは確かだろう。取り上げられた「幸運が微笑んだ」発見の結末はノーベル賞やラスカー賞(医学ではノーベル賞の次ぐらいに権威があると云われている)につながったものが多い。
この本を読んでいると、なぜか浮かんできた童謡がある。「まちぼうけ」である。本来の「株を守る」とは意味が違ってしまうのだが、ウサギが偶然木の根っ子にぶつかって捕まったからといって、その偶然の意味も考えず「待ちぼうけ」で畑を荒れ放題にしてしまった農夫はセレンディピティがなかったのだろうな、と。
幸運は確かにあるだろう。論理の予測には限りがある。でも、論理の力がなければ幸運を引きとめることはやはり難しいというのも事実であろう。セレンディピティがただの行き当たりばったりと違うのはそこだとおもう。
科学でも、この本に載った成功例の影には、偶然から追いかけて失敗した例はもっとあるのだろうなということも忘れてはならない。
著者は本書の中で次のパスツールの言葉を何回か引用しているが、19世紀に彼が残したこの言葉はいまも生きている。
「幸運は準備された心に微笑む」
少々厚くて「もっと短くても言いたいことはわかる」と思ったりしたところもあるが、なかなかいろいろと楽しく考えることができた一冊であった。
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