紙の本
水木漫画よ、永遠に
2016/02/20 08:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
昨年(2015年)11月30日に93歳で亡くなった漫画家水木しげるさんを追悼するコーナーが多くの書店で展開された。
エッセイから漫画まで、その活動の旺盛なことを示すように数多くの本が並んだが、その中から選んだのが、本書である。
その理由は、漫画である。
この本は「少年のころの思い出」「兵隊のころの思い出」「忘れられない人々」「カランコロン幸福論」という四つの章に分かれていて、全体でいえば水木しげるという人物を知るにはわかりやすい一冊にできていて、しかもエッセイに加え、「コミックエッセイ」と題された漫画が載っている。
水木さんの人生はNHKの朝の連続テレビ小説になったように波乱万丈であるが、漫画家だということを忘れてはいけない。
紙芝居から始まったそのルーツは手塚治虫氏が王道をなしたストーリー漫画を踏襲しながらもその絵のタッチは大きく違う。
水木さんの代表作ともいえる「ゲゲゲの鬼太郎」にしても、アニメの鬼太郎はビニール人形のようにかわいいが、もともとはもっとオドロオドロしい妖怪漫画だった。
水木漫画は手塚漫画と両極をなす存在だったことは間違いない。
93歳まで生きた水木さんだから、幸福論であったり人生論であったり傾聴に値いすることは間違いはない。しかし、水木さんの魅力はなんといっても漫画である。
この本はその点をしっかり押さえていて、半分はそれぞれの時代を描く漫画にページを割いている。
「カランコロン幸福論」に掲載されている漫画には、水木さんの愛してやまない「ねずみ男」や「死神」が登場してくる。
時代とともにいつしか彼らは人気キャラクターになったが、水木さんにとってはいつも自身のそばにいて、悪だくみを吹き込んだり、死を誘う存在であったのだろう。
そのあたりは、漫画を読むしか理解できないのではないだろうか。
もちろんエッセイだっておろそかにはできない。
「人間なんていつ死ぬか分からんもんだ。そう思うと、毎日の『小さな幸福』といったようなものは、案外大切なものなんだ」
なかなかこういう文章に出会えない。
投稿元:
レビューを見る
同じ話をたぶん、何回も読んでいるけど、書く度に分かりやすくなっている、大先生文章が上手になっているんぢゃないか?第4章カランコロン的幸福論の“110点”のように水木さんは一週間ごとに賢くなっているのかもしれない。戦争中を含めて作者の体験談は説得力がある。そして文庫版のように小さな版だと,濃密な水木さんの絵は再現するのが難しいけど、この本は大きな判型で読め、原画の素晴らしさを感じられるのがウレシイ。
投稿元:
レビューを見る
2015.9.9
そういうエピソードを多く選んでいるのかもしれないが、水木しげるの周囲の人は若くして亡くなっている人が多い。
戦時中の土人との交流の話とか非常に面白い。
投稿元:
レビューを見る
水木しげる氏のご冥福をお祈りしつつ読みました。戦争で生き残った人の中には生き残ったことを恥じる人もいますが、氏はそのようなお考えはお持ちでないように思いました。戦場にあっても生きることに執着し、最後まで諦めなかったから生き残ったとお考えのようです。また、幸不幸というのも、目に見えない自分以外のある力によって左右される気もすると仰っています。ですから妖怪ものをお描きになられたのでしょう。改めて氏の描く漫画のなかの人、ひとりひとりの表情がなんとも言えず味があります。もっと作品を描いていただきたかったです。
投稿元:
レビューを見る
(2016.02.19読了)(2016.02.17借入)(2010.07.07第3刷)
副題「ゲゲゲの先生大いに語る」
水木しげるさんのエッセイ集です。活字エッセイとコミックエッセイの両方が収録されています。図書館で手に取って見たら結構コミックの部分が多そうだったので、すぐ読めそうと思って借りてきました。
ビッグコミックに連載したものを2000年に文庫として発行し、2010年に単行本として発行したもの、とのことです。
活字エッセイは、1997年に書かれ、コミックエッセイは、1999年に描かれたものです。
小さい頃の思い出、兵隊のころの思い出、出会った人々、人生論、といったところでしょうか。兵隊のころの思い出が、全体の4割ぐらいを占めています。
水木さんの考え方は、かなりユニークですね、ちょっと真似ができません。戦争で生き延びるには、まじめではできないということなのかもしれません。
「あわや弟殺し!?」では、海の潮の流れが速いので、弟を流してみようと思って流してみた、という話が述べられています。弟は通りがかりの人に助けられて無事だったそうですが。
「な・ぷーん」は、小学校4年のころ、厳粛な式典中に、屁を鳴らす話です。自慢話のような、とぼけた話のような。まいりますね。
「人間玉」は、絵がすごいですね。蜘蛛の糸のような雰囲気ではありますが。
睡眠力というのもすごいですね。
水木さんを知るには、いい本かもしれません。
【目次】
第一章 少年のころの思い出
(あわや弟殺し!?/馬車屋のキンカ/ひょうタン ほか)
第二章 兵隊のころの思い出
(お助け爺さん/巨砲/小林二等兵 ほか)
第三章 忘れられない人々
(佐々幸二郎/あさいますお/つゆきサブロー ほか)
第四章 カランコロン的幸福論
(110点/睡眠力/偉大なる胃 ほか)
解説 京極夏彦
●意志の力(123頁)
私の知っている死んだ人々は概ね、諦めが早かった。どうしてもっと生きようとしないのか、いつも不思議に思う。
●肛門の計量(209頁)
「これくらい出ただろうといつもふり返って観察すること17年。」
「肛門で感じた量と実際の糞の量が違っているんだ。」
「オレの肛門は量を計ることができないのだ。」
(水木さんの肛門だけではないとは思いますが。)
●睡眠力(214頁)
人間は寝ることによってかなりの病が治る。
☆関連図書(既読)
「妖怪画談」水木しげる著、岩波新書、1992.07.20
「総員玉砕せよ!」水木しげる著、講談社文庫、1995.06.15
「ゲゲゲの女房」武良布枝著、実業之日本社、2008.03.11
(2016年2月20日・記)
(amazonより)
ついに本人が語るゲゲゲのエッセイ最新版!
2010年NHK朝の連続ドラマ『ゲゲゲの女房』でも注目を集めている水木しげる氏とそのご家族の生き様。本書は、文章とコミックを組み合わせた読みやすい語り口で、水木しげる氏ご自身が半生を振り返るエッセイです。水木氏が出会った信じられない出来事、忘れがたい人々語られている内容は、この上なくドラマティックでありながら、語り口はのんびりとマイペース。戦時中の話、苦労話なども数々含まれますが、���こでも一切肩に力の入らない「水木節」。とぼけた味わいで一気に読めます。
投稿元:
レビューを見る
去年は戦後70年の節目の年だったので、テレビや新聞・雑誌で、関連のドキュメンタリーや映画、特集記事などをかなりたくさん見ました。
「当時の記憶は辛くて、今までどうしても話す気になれなかった」と言っている人が日米ともにものすごく多いことに今更ながら驚きました。子供のころから「はだしのゲン」など、いくつかの戦争体験記を目にしてきましたが、それは勇気ある貴重な証言であり、実際は多くの人が語ることすらできずにいたことに今まで気づいていませんでした。
今回、この「カランコロン漂泊記」を読み、特に戦争中のことを書いたページに非常に感銘を受けました。
当時の名もなき兵士や名もなき犠牲者たちがどんな風に感じていたのかリアルに知ることができます。時間に制限のあるドキュメンタリーなどではカットされてしまうような、あるいは、単純に記録としては残っていないような市井の人たちの日々の様子がすごく伝わってきました。漫画だから拾えるエピソードがありのままの形で描かれているように思います。
南方に送られることが決まった時点で多くの人が「生きて帰れるわけがない」と思っていたこと、慰安婦の姿、「まじめに働いたら死ぬぞ」と言い合っていたこと、兵士たちが患ったさまざまな病気など、実際に体験した人にしか分からない小さなエピソードの数々こそが戦争の悲惨さをリアルに伝える貴重な資料となっていると思います。
「戦争論」については、正面から反論するのではなく、「当時の空気が思い出されてなつかしい」という一見肯定的な言葉でケムに巻きながらも、その思想の危うさを鋭く批判しているところはびっくりしました。
「この人、ただトボけているだけの人じゃないんだ!」と。
世の中には信望している主義主張を真っ向から批判したら、唾を飛び散らせて反撃してくる人もいますからね。
平和を訴える内容だけでなく、方法としても非常に考えさせられました。
投稿元:
レビューを見る
戦争の悲惨な思い出も、貧乏な時代の思い出も、今はもう飄々と語ることができる遠い記憶の中。水木先生はとにかくよく食べる人だったらしい。だから、片腕は失っても、長生きされたのでしょう。人は人、自分は自分、で、ゆったり生きる、そういう生き方も大事かも知れない、と思った。
投稿元:
レビューを見る
エッセイと漫画で綴られた水木しげるの半生。軍隊ではひたすら理不尽にビンタされ、片腕を失いながらも生還した水木さん。水木さんが畏敬の念をこめて「土人」と呼ぶ人たちとの交流も楽しい。単なる反戦でなく氏の描く戦争体験がリアルで、また切なくて、それがとても面白い。全体にまとまりには欠けるが、どの章も引き付けられる。
投稿元:
レビューを見る
エッセイ。漫画。戦争。
少年のころ、兵隊のころ、忘れられない人々、幸福論。
死んでいった人たちを思い出しながら、後悔しつつ、重たくない。
運命って紙一重だなぁ……。
投稿元:
レビューを見る
ゲゲゲの鬼太郎で有名な水木しげる氏のエ漫画とエッセイ。淡々と語る死生観を読んでいると、激動の時代を生き抜いたからこそ悲観的にならないのかもしれないと考えさせられた。太平洋戦争で最前線に送られ、仲間がどんどん死んでいく。現代の我々にとっては異常な非日常空間にしか見えないのだが、水木氏の視点は「非日常の中の日常生活」に注がれている。
食べる、寝る、暮らす。戦死や慰安婦、軍隊での暴力など一般的な戦争の本では悲壮感が漂う表現になる題材だが、水木氏の語り口においては善悪とは異なるレイヤーに存在しているように感じる。
平和な時の命も、戦時下の命も、同じように一つの命なのだ。
漫画の中で水木氏の飼い猫が語る
「この世は通過するだけのものだから、あまりきばる必要はないよ」
という言葉が沁みる。
<アンダーライン>
★★「あの世」いいということが分かったりすると、人はすぐ自殺したりするだろう
★★★★人間なんていうつ死ぬか分らんもんだ。そう思うと、毎日の「小さな幸福」といったようなものは、案外大切なものなんだ。
★★幸福観察学
★★★★★「この世は通過するだけのものだから、あまりきばる必要はないよ」
投稿元:
レビューを見る
常に死と隣り合わせで、悲しんでる余裕なんかないくらい次々と人が死んでいく。想像がつかないほど激動の時代を生きてきた人だったのだと。それでも不思議と悲壮感よりもユーモアが勝るような文章、悲しみに浸る暇もなくサクサクと描かれていくエピソードの数々。水木先生の人となりや魅力が伝わってきた。個人的に”カランコロン的幸福論”でも特に「睡眠力」「猫」「死神教」は刺さる。